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福間健二監督の新作にして遺作。14歳と77歳の交流を綴る「きのう生まれたわけじゃない」
2023年7月26日詩と映画の両輪で活躍してきた福間健二監督が、少女と老人の交流を描いた「きのう生まれたわけじゃない」が、11月11日(土)よりポレポレ東中野ほかで全国順次公開される。なお福間監督は映画の完成後に脳梗塞で倒れ、療養中に肺炎を起こして今年4月26日に74歳で逝去、これが遺作となった。 心の通わない母と二人で暮らし、中学校に通わず、希望を抱けない14歳の七海(ななみ)。妻を亡くし、過去にとらわれた元船乗りの77歳・寺田。ふとしたきっかけで心を通わせた二人は、友人かつ家族のような日々を過ごす。そんな中で、新たな人生の歯車が動き出す──。 七海を演じるのは今回が映画初出演のくるみ、寺田には福間監督自身が扮する。そして七海が心を許す岬、ならびに寺田の亡き妻・綾子の亡霊の二役で正木佐和が出演。さらに守屋文雄、安部智凛、蕪木虎太郎、住本尚子、谷川俊之、今泉浩一、小原早織らが脇を固める。 福間健二が若いスタッフと共に挑んだ新境地を見届けたい。 いま、人々は、とりわけ弱い立場にある老人と少年少女は、生き方を見失っている者が多い。これから何をすればいいのか、展望が見いだせない。けれども、人は人に出会い、なにかを受け取り、与えあうことで、小さな希望をつかむことはできる。 東京郊外を舞台にした、近過去でも近未来でもあるような物語を通して、そういう主題を訴えるとともに、いままでの殻を破るような映画表現を追求し、そのなかに人々を招くような「対話」を実現したい。 ──福間健二(映画企画時のコメント) 福間健二は、この地上にたしかな感触をもって生きることを底辺におきながら、詩と映画への冒険的な表現に果敢に挑戦してきた。本作では、探していた七海役のくるみに出会えた瞬間に、みずからが老人の寺田役を引き受けることを決めたのだと思う。20歳で若松孝二監督『通り魔の告白 現代性犯罪暗黒篇』の脚本を書き主演してから53年後の、大きな挑戦だった。「主演作が遺作になるなんてカッコよすぎるよ、監督」とスタッフのひとりが言ったが、果たしてそうなのである。 ──福間惠子(本作プロデューサー) 「きのう生まれたわけじゃない」 出演:くるみ、福間健二、正木佐和、安部智凛、守屋文雄、蕪木虎太郎、住本尚子、谷川俊之、黒田武士、高平よしあき、常本琢招、保志実都貴、西山慧、柴山葉平、村上僚、今泉浩一、小原早織、町屋良平(友情出演)、伊藤洋三郎(友情出演) 原案・脚本・監督:福間健二 撮影・照明:山本龍 録音・編集:川上拓也 美術:住本尚子、則武弥 音楽:福間健二 ヘアメイク:浅野加奈 スタイリスト:原早織 脚本協力・監督補:守屋文雄 助監督:厨子翔平、大城義弘 プロデューサー:福間惠子 製作:tough mama 配給・宣伝:ブライトホース・フィルム 文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業 2023年/86分/1:1.85/5.1ch/DCP © 2023 tough mama -
映画化もされた青春漫画『ソラニン』の浅野にいおの衝撃作「零落」を、俳優としても唯一無二の存在として活躍する竹中直人が監督を務め、斎藤工を主演に迎えて映画化。9月6日に待望のBlu-ray&DVDリリースされる、竹中直人が描くこの哀しくも美しい本作の魅力に迫った。 本作が訴える「創作者の地獄」 竹中直人監督第10作目となる「零落」は、彼の監督デビュー作でもある「無能の人」(91)と同じく漫画家を主人公にしているが、「無能の人」が人気の下落とともに創作意欲を失くしてしまった男であったのに対し、「零落」は人気に陰りが出始めて焦燥している男という違いがある。つまり、「零落」の主人公はこれから“無能の人”になるのか否かといったスリリングな興味が竹中映画ファンとしては沸き上がっていくわけだが、一昔前なら竹中直人自身が「無能の人」のときのようにこの役を演じていただろう。しかし、さすがに年齢設定もあって今回は竹中監督の前作であるオムニバス映画「ゾッキ」(21)で共同監督を務めた盟友・斎藤工が大任を果たし、大きな成果を上げている。 本作が訴えるモチーフの中に「創作者の地獄」というものが確実に挙げられるだろう。描きたいものを描くための労苦はクリエイターとして当然の所業ではあろうが、それに人気や評価が伴うのか、仕事として生活が成り立つのか、人間関係はうまく回っていくのか、などなど気苦労は多い。特にSNSの発達で1億総批評家時代に突入して久しい現在、赤い色を塗ったのに「青くないからダメ」ならまだしも「赤に見えないからダメ」とか「赤くないからダメ」など玉石混合の感想がネットの中を飛び交い続けている。見てないのに見たふりをして酷評しては愉しんでいる輩もいると聞く。そんな中で創作者は一体どこまで自我を保って次なる創作にあたることができるのか? その伝でも本作の斎藤工からは、仕事も人気も人生も上手く回っていかなくなった焦燥がざわざわと伝わってくる。これをどう乗り越えていくのか、乗り越えられないのか、乗り越える気もなくなっていくのか、いずれにしてもこの主人公は目の前の様々な問題から目を背けるかのように風俗の世界へ足を踏み入れ、のめりこんでいく。それは逃避なのかもしれない。しかし、そのことを決して否定することなく、逃げることも、落ちていくこともまた人生の選択肢の一つであることを、本作は訴えている。 マイナスを極めることによって、その先に見えてくる世界 総じて竹中映画は、ポジティヴなものよりネガティヴなものを尊しとする傾向がある。いわゆるマイナス志向といってもいい。安易なプラス志向を竹中映画は否定する。むしろマイナスを極めることによって、その先に見えてくる世界をかけがえのないものと捉えたがっているかのようだ。 振り返ればバブル崩壊直前直後といった時期に発表された「無能の人」を初見した際、こんな暗い映画の企画が良く通ったものと感心したものだが、今の目で見直すとあの主人公、落ちている割には家族の温かな愛に支えられていることがよくわかる。つまりは大いに救いがあったのだ。 しかしそれから30年以上の時を経ての「零落」の主人公には、夫婦の愛も、編集者との共闘も、アシスタントとの師弟関係も、プライベート仲間との友情も、そして彼がのめりこむデリヘル嬢への想いまでも、すべてが本人の焦燥の果てに喪失していく。ついには彼の作品を純粋に愛してやまない長年のファンの想いにも、素直に応えられなくなってしまうのだ。 しかし、それでも本作は徹底して美しい。それは美意識に秀でた竹中監督ならではのセンスの賜物で、夜の空虚なネオンに彩られたラブホテル室内などの人工的な美から、ただただ普通に歩くだけの街並みから旅先での自然光を活かした美、そして主人公の心の内面を表すかのような海のうねり。それらの美はすべて主人公の空虚な心とリンクして、ある意味自分勝手かもしれない男の免罪符となり、ひいては人生の無常を痛感させていく。 その極みともいえるのがラストのサイン会シーンで、未見の方のために詳細はあえて省くが、ここで主人公が慟哭するかのように吐く一言こそは、創作者の無間地獄といったものを如実に表した傑出シーンとなっている。 前向きなだけが人生ではない 人はモノをクリエイトし続ける。そこに到達点などないことをどこかで気づいていながらも、まったく気づかぬふりをして、果てしない緩慢なる地獄の道を邁進していく。一方でそれは媚薬のように魅惑的であり、一度味わうともう逃れることはできない。 本作は浅野いにおの同名漫画を原作としているが、原作者と竹中監督のクリエイターとしての志向は完全にシンクロしている。だから原作の読後と映画の鑑賞後の印象に何ら違いはない。あえて違いがあるとすれば、映画は生身の人間が漫画のキャラを演じているということだが、竹中映画のキモはキャスティングにあり、そのすべての出演者が代表作として誇れるほどのオーラをそれぞれ発散させている。 もちろん本作も例外ではなく、先にも挙げた斎藤工も、デリヘル嬢ちふゆ役の趣里も、そしてエキセントリックな元アシスタントを演じた山下リオも、すべてのキャストがさりげなくも見る側にインパクトを与えながら、脳裏にその存在を刻み込んでくれているのだ。本作のキャッチコピー「堕ちよ、生きよ!」に倣うと、人は堕ちても生き続けられるし、それゆえの魅力を放つこともできる。前向きなだけが人生ではない。人生の敗者、大いに結構ではないか。悩み、焦り、苦しみ、その先に見えてくるものと対峙していくのもオツなものであることを、本作は巧みに訴えているのだ。 文=増當竜也 制作=キネマ旬報社 https://youtu.be/5Gk0X7JkvMk 「零落」 ●9月6日(水)Blu-ray&DVD発売(レンタルDVD同時リリース) ▶Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら ●Blu-ray:6,050円(税込) 【映像特典】 ・予告集 ・イベント映像集(完成披露プレミア上映会舞台挨拶、公開記念舞台挨拶) ●DVD:4,400円(税込) 【映像特典】 ・予告集 ●2023年/日本/本編128分 ●原作:浅野いにお「零落」(小学館ビッグスペリオールコミックス刊) ●監督:竹中直人 ●脚本:倉持裕 ●音楽:志磨遼平(ドレスコーズ) ●主題歌:ドレスコーズ「ドレミ」(EVIL LINE RECORDS) ●出演:斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、永積崇、信江勇、宮﨑香蓮、玉城ティナ、安達祐実 ●発売元:ハピネットファントム・スタジオ/小学館 販売元:ハピネット・メディアマーケティング ©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会
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記念すべき10回目となったキングレコード夏の恒例キャンペーン「死ぬまでにこれは観ろ! 2023 キング洋画360連発」は、“史上最大の作戦”と銘打って過去最多となるタイトルがラインアップされている。今回は、キングレコード一押し作品と、映画評論家・松崎健夫一押し作品をピックアップしながらご紹介します。 ベルモンドの傑作アクション「リオの男」初廉価で登場 [caption id="attachment_27399" align="aligncenter" width="1024"] 「リオの男」 a film by Philippe de Broca © 1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved.[/caption] コロナ禍によって新作映画の公開が延期や中止となっていた世情で、気炎を吐いていたのが “旧作” のリバイバル上映だった。例えば、2020年6月に上映された「風の谷のナウシカ」(84)などのスタジオジブリ作品は、座席販売を5割に抑えていた状況にもかかわらず、4作品で計26億円超えの興行収入を記録(*)。リアルタイムでは映画館で観たことがなかった世代にスクリーンで観る魅力を再認識させた功績は、時代の記録として残しておきたいトピックスだ。 かようなリバイバル上映や特集上映の中でも「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」は、観客からの熱狂的な要望によって第3弾まで開催されるほど盛況だった企画。開催中の2021年9月6日にベルモンドが急逝したというタイミングは、奇しくもスクリーンで彼の功績を改めて知る機会になったという経緯がある。傑作選で上映されたベルモンドの主演映画の数々は、昨年も「死ぬまでにこれは観ろ!」のラインアップを飾った人気作だ。 今回は、ジャン=ポール・ベルモンド主演のアクション映画として最高傑作との呼び声も高く、傑作選第2弾の上映時に実施された「ベルモンド映画総選挙」でも第1位となった、「リオの男」(64)が新規投入されている。街中でのバイクチェイス、命綱なしで建物高所の側壁を移動し、工事現場での綱渡り、小型機からのパラシュート降下、頭上スレスレでモーターボートをかわす危険な水中スタントなどなど。ベルモンドはこの映画でも、コミカルさを伴った命がけのスタントで観客を魅了している。 現在公開中の「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(23)でも、体を張ったスタントを実践しているトム・クルーズ。彼のアクションが “ジャッキー超え” と評されるようになって久しいが、そもそもジャッキー・チェンのアクションのルーツは、ベルモンドのアクションにあるとする言説もある。さらに、古代文明の秘宝を巡る冒険を描く「リオの男」には、現在公開中の「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」(23)を想起させるような場面まである。そういった影響と先駆性を確認できるまたとないタイミングだ。 *『キネマ旬報』2021年3月下旬号「2020年映画業界総決算」より 映画愛に満ちたSF、アクションの名作 [caption id="attachment_27439" align="aligncenter" width="1024"] 「ドクター・モローの島」THE ISLAND OF DR. MOREAU ©1977 Orion Pictures Corporation. All Rights Reserved.[/caption] また今作では、カトリーヌ・ドヌーヴの実姉であり、早逝したフランソワーズ・ドルレアックがベルモンドの相手役を演じている。キングレコードは「永遠女優」なるシリーズも展開し、昨年はシルヴィア・クリステル主演の「プライベイトレッスン」(81)などをリバイバル上映。今回のラインアップでは、第3回サターン賞に輝く「ローラーボール」(75)に「007/黄金銃を持つ男」(74)のモード・アダムス、第5回サターン賞で候補となった「ドクター・モローの島」(77)に「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(83)のバーバラ・カレラといった、歴代ボンドガールを演じた女優が出演しているという共通項を見出せるのも一興。 [caption id="attachment_27440" align="aligncenter" width="1024"] 「サイコ・ゴアマン」©2020 Crazy Ball Inc.[/caption] 「獣人島」(33)のリメイクだった「ドクター・モローの島」は、「D.N.A.」(96)としてリメイクされ、時代に合わせたアップデートが施されていたが、「サボテン・ブラザース」(86)は衰退した西部劇というジャンルに対する敬愛を、コメディへと変換した作品だった。同様に「サイコ・ゴアマン」(20)の製作・監督・脚本・編集・特殊造形を担当したスティーヴン・コスタンスキは、少年時代に観た怪物映画や冒険映画への敬愛を公言。斯様な“敬愛”と“継承”が、時代や製作国を越えて映画史を横断する「死ぬまでにこれは観ろ!」のラインアップにみなぎっているのである。 松崎健夫の極個人的オススメ「BECKY/ベッキー」 [caption id="attachment_27442" align="aligncenter" width="1024"] 「BECKY/ベッキー」©2020 BECKY THE MOVIE, LL[/caption] コロナ禍の2020年6月に北米で公開され、上映劇場が限られていた状況ながら2週間で興行収入1位を記録した「BECKY/ベッキー」。日本では「 “シッチェス映画祭” ファンタスティック・セレクション2021」の上映にとどまり、その後も配信のみという扱いで、今回が初のパッケージ化となった。予告篇では、サバイバル術を駆使してネオナチ組織を叩きのめす少女版「ランボー」のような映画に思わせているが、軽いノリを削ぎ落とした壮絶で容赦のない復讐劇に仕上がっていて、良い意味で期待を裏切ってゆく。今年5月には続篇「The Wrath of Becky」(23)が北米で公開されたばかり。DVDの売れ行きいかんによっては、劇場公開も夢ではない! 文=松崎健夫/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報8月号より転載) 今回紹介した「リオの男」「ローラーボール」「ドクター・モローの島」「サボテン・ブラザース」「サイコ・ゴアマン」「BECKY/ベッキー」を1名ずつ、計6名にプレゼントいたします! 応募はこちら 松崎健夫(まつざき・たけお)/1970年生まれ、兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。デジタルハリウッド大学客員准教授。テレビ、映画の制作現場を経て映画評論家に。雑誌、パンフレットをはじめさまざまなメディアで執筆、テレビ、ラジオ番組等で映画紹介を行っている。映画評論家・添野知生氏とのYouTubeチャンネル『そえまつ映画館』は毎週金曜更新。 キングレコード洋画廉価版BD・DVDシリーズ 『死ぬまでにこれは観ろ!2023』 記念すべき10回目は宇宙規模! 史上最多360タイトル!! 第一弾:7月5日(水)発売 第二弾:8月9日(水)発売 ブルーレイ:各¥2,750(税込) DVD:各¥2,090(税込) 「3枚買ったらもれなく1枚もらえる!」キャンペーン 応募期間:7月発売タイトルは7月5日から、 8月発売タイトルは8月9日から開始、 いずれも2023年12月31日まで実施。 対象作品に同封された専用ハガキに 応募券を貼付してご応募ください(当日消印有効)。 発売・販売元/キングレコード © 2023 KING RECORD CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. 作品ラインアップなどの詳細はこちらから↓
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「夏はやっぱり海だろ」――という亀山千広プロデューサーの一言から企画がスタートしたと言われるのが、1997年の夏にフジテレビの月曜9時、通称“月9”で放送されたドラマ『ビーチボーイズ』だ。ラブストーリー全盛だった当時の“月9”で男同士の友情をメインに据えた試みが注目され、最高視聴率26.5%を記録する大ヒット。真夏のイメージを色濃く残すドラマとして、「夏と言えば」の1本に間違いなく挙がる本作が放送から26年を経過したこの夏、Blu-ray Boxで7月26日にリリースされた。 何も起きない最高の一瞬を切り取った“人生の夏休み”「ビーチボーイズ」 主演はこの頃めきめきと売り出し中だったふたり、反町隆史と竹野内豊。反町はこの年の1月に同じ“月9”の『バージンロード』で和久井映見の相手役をつとめ、これが満を持してのドラマ初主演となった。一方の竹野内も、この前年に大ヒットした『ロングバケーション』でヒロイン山口智子の弟役をつとめ、本作でその人気を決定的にした。今でこそふたりとも渋い二枚目として、さらにコメディ芝居もそつなくこなすベテランとしての地位を確かなものにしているが、何しろこの時はまだ野性味たっぷりの若きイケメン(そう言えば、当時はまだそんな言葉もなかったような……?)ぶりで、ギラギラした原石の魅力を放っていた。 このふたりを主役に据え、大の大人たちが、ただひたすら海辺の町でのんびりと過ごすだけのドラマ。いや、さすがに「だけ」は失礼かな。でも、大袈裟なことは何もしない、事件が何も起きないドラマだったからこそ、『ビーチボーイズ』は面白かったのだ。 ともに20代中盤にさしかかったふたりの青年。楽観的でお調子者の桜井広海を反町が、仕事に疲れたエリート商社マンの鈴木海都を竹野内が、それぞれ演じる。対照的な性格のふたりの男がたまたま訪れた海辺の町で出会い、これも偶然、寂れた民宿“ダイヤモンドヘッド”にたどり着く。実はそれぞれ挫折と心の傷を抱えていたふたりは、この海で長い夏休みを過ごしながら、さまざまに出会う人たちとの交流の中で周囲に影響を与え、そして自分たちも変わっていく……。 モラトリアム期を過ぎて壁に突き当たった者たちの“人生の夏休み”。そんなテーマを体現する反町と竹野内の噛み合わない掛け合いが楽しい。彼らを叱咤し、それでいて優しく見守る海辺の町のマドンナ・春子に扮した稲森いずみの好演、民宿の自称看板娘・真琴を演じた広末涼子(当時17歳の瑞々しい芝居が映像に残っていることに感動すら覚える)の可憐さ、そして、その祖父で民宿の経営者を演じたマイク眞木! 彼の朴訥とした芝居は決して上手とは言えないが、自称「日本で初めてサーフィンをした男」というどこか浮世離れしたこの役柄に絶妙な説得力を与えている。 まさに、このひと夏だけに許された一瞬の輝きが随所に凝縮されているドラマ。「夏はやっぱ、海だなあ」 元暴走族の型破り教師・鬼塚英吉が学園を変える!「GTO」 『ビーチボーイズ』の翌年の夏、今度は反町の単独初主演作となったのが『GTO』である。藤沢とおるの同名人気コミックが原作で、元暴走族の型破り教師・鬼塚英吉の活躍を描く破天荒な学園ドラマ。『ビーチボーイズ』をも凌ぐ最高視聴率35.7%の大ヒットとなり、99年には映画化もされた。今さら「“グレイト・ティーチャー・オニヅカ”の略」なんて説明は不要だろうか。反町が歌う主題歌『POISON』の歌詞にある「♪言いたいことも言えないこんな世の中じゃ~」は今でもいろんなかたちで耳にし、目にする機会の多いキラーフレーズで、知っている人もたくさんいることだろう。「ビーチボーイズ」の主題歌『Forever』も反町の隠れた(隠れてないか)名曲だが、『POISON』はドラマのタイトルバックのイメージもあって「♪ズッチャ、ズズチャ~」というイントロが流れるだけで、ついついワクワクさせられる、ポイズン。 その『GTO』もオンエアから25年が経過し、『ビーチボーイズ』と同じ7月26日にBlu-ray Boxがリリースされることになった。 反町隆史最大の当たり役“グレイト・ティーチャー・オニヅカ” 舞台となる武蔵野聖林学苑は自由な校風を謳っているが、内情はいじめや登校拒否などさまざまな問題を抱えた生徒たちだけでなく教師たちにも問題が山積する、まさに“問題だらけ”の高校。そこに臨時採用の非常勤教師として赴任したのが、本作の主人公・鬼塚英吉だ。問題児ばかりが集まる2年4組の担任を任された鬼塚は、元暴走族のリーダーならではの無茶なやり方で、無理解な親や教師、馬鹿げた規則に縛られ自分らしさを見失った生徒たちの心をこじ開けていく。初めは鬼塚に反発した生徒たちも次第に彼を受け入れ、信頼関係を築いていくが……。学校のおかしな体質と対峙する“グレイト”な“ティーチャー”鬼塚は反町最大の当たり役で、無鉄砲なキャラクターを全身で表現した躍動感が今も眩しく映る。 鬼塚の同僚教師で本作のヒロイン・冬月あずさを演じたのが松嶋菜々子。96年のNHK朝ドラ「ひまわり」の主役に抜擢されスターへの階段を上りつつあった彼女も、本作で大きく花開いた。もちろん、『GTO』での共演をきっかけに反町と松嶋が実生活で結婚し、ビッグカップル誕生となったのは誰もが知る通り。 学園ドラマの常で生徒役からも、のちの人気者が多数輩出。筆頭はクラスの影のリーダー・菊池を演じた窪塚洋介だろう。まだ無名の存在だった窪塚は本作で一躍全国区の知名度を獲得。2000年の『池袋ウエストゲートパーク』と翌01年の映画「GO」で一時代を築く。生徒たちの中心的存在の池内博之、中村愛美もブレイクし、のちに歌手として活躍した希良梨、子役としてすでに人気だった山崎裕太、長くクセ者として活躍する徳山秀典ら若手俳優たちの充実ぶりも見どころのひとつだ。 そんな大勢の生徒役の中で要注目は小栗旬。彼が演じたのはクラスの女子からいじめを受けている生徒の吉川で、第3話ではそれを苦に自殺未遂騒動を起こす。全体ではあまり出番が多くなく、まだ成長過程で声が高く背も低かったため「これが本当に小栗旬?」と思ってしまうが、ふとした表情や仕草にしっかりした芝居の片鱗が見て取れる。 まだ無名だった出演者のひとりには藤木直人もいる。もちろん生徒役ではなく、鬼塚の暴走族時代からの親友で今は不良警察官の冴島龍二役。反町との掛け合いが楽しいコメディリリーフを堅実にこなし、のちのブレイクに繋げた。彼らのこうした初々しい姿を改めて見直すのは、本当に楽しい。 『ビーチボーイズ』『GTO』それぞれのスペシャル版も収録 今回の待望のブルーレイ化。『ビーチボーイズ』には、最初のオンエアから半年後の98年1月に放送された「スペシャルドラマ版」も収録される。続編なのに真冬のオンエアで大丈夫? と思ったその種明かしは、ぜひ直接その目で確かめてほしい。『GTO』も、連ドラの大好評を受けて翌98年6月に放送された「GTOドラマスペシャル」を収録。鬼塚が代理教員として別の女子高に派遣され、そこでも騒動を起こしながら学園の問題を解決する姿が描かれる。キャストのインタビューやNG集を含む「GTO総集編」も特典映像として収録。 90年代末の夏を彩った大ヒットドラマ2作で、今年の夏も熱く盛り上げたい。 文=進藤良彦 制作=キネマ旬報社 https://youtu.be/y6M54eTn6ek https://youtu.be/NofWVujQ-VI 『ビーチボーイズ』 Blu-ray Box ●7月26日(水)発売 ▶Blu-rayの詳細情報はこちら ●価格:33,000円(税込) 【収録内容】 ・ドラマ本編全 12 話 ・スペシャルドラマ 1 話 【特典映像】 ・オープニング SPECIAL EDITION ・サイパンロケ他メイキング映像 ●本編出演:反町隆史、竹野内豊、広末涼子、秋本祐希、辻香緒里、原沙知絵、佐藤仁美、マイク眞木、稲森いずみ 他 ●脚本:岡田惠和 ●主題歌:「Forever」反町隆史 with Richie Sambora(ユニバーサル ミュージック) ●発売元:フジテレビジョン 販売元:ポニーキャニオン © フジテレビ 『GTO』 Blu-ray Box ●7月26日(水)発売 ▶Blu-rayの詳細情報はこちら ●価格:33,000円(税込) 【収録内容】 ・ドラマ本編全12話 ・GTOドラマスペシャル 【特典映像】 ・GTO総集編 ●本編出演:反町隆史、松嶋菜々子、希良梨、池内博之、中尾彬、白川由美 他 ●発売元:関西テレビ放送 販売元:ポニーキャニオン ©藤沢とおる/講談社/関西テレビ放送/アベクカンパニー
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山田洋次監督が「母べえ」「母と暮せば」に続く “『母』3部作” の最終作として、吉永小百合と大泉洋の共演で、令和の東京下町に生きる等身大の家族を描いた「こんにちは、母さん」が、9月1日(金)より全国公開。母の “恋の予感” に戸惑う息子を捉えたシーンの映像、ならびに各種場面写真が到着した。 母の福江(吉永小百合)に対し、デリカシーのない態度を取る神崎昭夫(大泉洋)。「おばあちゃんの前で牧師さんの悪口を言わないで」と娘の舞(永野芽郁)にたしなめられ、母が牧師の荻生(寺尾聰)に “本気の想い” を寄せていることを知ると、「やめてくれよぉもう」と言葉を失う……。 場面写真は、神崎家の食卓、福江と荻生の隅田川デート、神崎家を取り巻く下町の人々、侘しくカップ麺をすする昭夫などを捉えたもの。山田洋次の90本目の監督作であり、吉永小百合も「今までにない監督の気合いを感じた」と証言する入魂作、期待したい。 Story 大会社の人事部長として神経をすり減らし、家では妻との離婚問題および大学生になった娘との関係に頭を悩ませる神崎昭夫。彼は久しぶりに母・福江が暮らす東京下町の実家を訪れる。 「こんにちは、母さん」 しかし、迎えてくれた母の様子がどうもおかしい……。 割烹着を着ていたはずの母が艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしているようだ! 久々の実家に居場所がなく戸惑う昭夫だったが、お節介がすぎるほどに温かい下町の住民や、母の新たな一面に触れ、見失っていたものに気づいてゆく──。 ©2023「こんにちは、母さん」製作委員会 配給:松竹 ▶︎ 山田洋次監督が吉永小百合&大泉洋の共演で描く親子の物語「こんにちは、母さん」