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『ナイトメア・アリー』のギレルモ・デル・トロ監督作品を紐解く
2022年3月25日[caption id="attachment_10448" align="alignnone" width="1024"] (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.[/caption] 異才ギレルモ・デル・トロの最新作「ナイトメア・アリー」が本年度アカデミー賞(日本時間3月28日 9:00開催)で作品賞を含む4部門にノミネートされ、3月25日より日本公開。注目が高まるこのタイミングで、近年のデル・トロ監督作品の軌跡を辿ってみたい。 モンスター映画としてのデル・トロ作品 [caption id="attachment_10449" align="alignnone" width="800"] (C) 2006 ESTUDIOS PICASSO,TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ[/caption] 闇の迷宮で少女の前に現れた異形の“何者”かは、自身についてこう述べる。「私には多くの名前があります。どれも古い名前ばかりで、風や木々にしか発音できません──」。デル・トロの出世作「パンズ・ラビリンス」(06)のワンシーンだ。もちろんファンタジーの住人であるその者(結局、迷宮の守護神パンと名乗る)に、私たちの隣人のような名前は期待できないが、だとすれば手っ取り早く名指す方法があるはず。〈モンスター〉と呼んでおけばよい。「ヘルボーイ」(04)「パンズ・ラビリンス」と連なるオタク・カルチャー愛好家デル・トロの映画は、絵具をぶちまけて悪意で掻き混ぜたような〈モンスター〉の饗宴だ。 KAIJU、幽霊と姿を変えて 「パシフィック・リム」(13)の〈モンスター〉は、人類の脅威となる〈KAIJU〉だ。粘っこくグロテスクなその姿はまさしくデル・トロ印だが、一方でKAIJUに立ち向かう人型兵器はメタリックな想像力を掻き立てる。しかし何より心を熱くするのは登場人物たちだ。タフガイの主人公を演じるチャーリー・ハナムはもちろん、日本から参戦の菊地凛子も、子役時代の芦田愛菜も魅力たっぷり。威厳も思慮もある司令官役のイドリス・エルバが謎のタイミングで差し挟む日本語も、軽いお楽しみポイント。ところで「パシフィック・リム」以降の監督作品では、デル・トロの脇に共同脚本家の名前がある。勝手な想像だが、大がかりなバトルアクションも含めたデル・トロのオタク的熱狂と偏愛が、共同脚本家たちによるヒューマンな潤いで包まれているように思えてくるのだ。 「クリムゾン・ピーク」(15)は、一転して20世紀初頭が舞台のゴシック幽霊譚。幽霊といっても、デル・トロ作品のそれは気配に溶けたりせず、やはり粘着質の〈モンスター〉だ。紐解かれるのは、屋敷の地下に眠る血塗られたミステリー。デル・トロ作品は往々にして、地下の暗い秘密を連れてくる。やがて深紅に染まる白銀世界に、艶やかな衣装で放り込まれる初々しいヒロイン役のミア・ワシコウスカ、謎と憂いを帯びた準男爵にトム・ヒドルストン、妖女さながらのジェシカ・チャステインは対照的に色彩を散らし、チャーリー・ハナムは「パシフィック・リム」とは一転、礼節をまとって静的な顔を見せる。 半魚人だけでなく“異端”の人々も [caption id="attachment_10450" align="alignnone" width="1024"] (C) 2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.[/caption] 「シェイプ・オブ・ウォーター」(17)は、米ソ冷戦を背景に、アマゾン奥地から連れてこられた水生の不思議な生き物と、清掃員女性イライザ(サリー・ホーキンス)とのファンタジックなロマンスを紡ぎ出す。ここでの〈モンスター〉はもちろんその〈半魚人〉だが、もしも少数派の“異端者”や社会的弱者が嫌悪や恐れを込めて〈モンスター〉と呼ばれてしまうとすれば──口のきけないイライザ、その身内といえる同性愛者ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)、およびイライザの同僚ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)をはじめ人種差別を被る黒人たちも、〈モンスター〉の系譜に連なるのかもしれない。そんな彼らが心を通わせ、ジョークを飛ばし、戸惑い、苦悩し、アクションを起こしていく姿は、どこまでも共鳴の波紋を広げて世界に浸透し、異端者=モンスターのラベルを溶かしていくことだろう。いやむしろ、あらゆる人々がモンスターとしての誇りを高らかに謳いあげたというべきなのかもしれない。いずれにしろアカデミー賞で作品賞を含む4冠に輝き、ひとつの到達点となった。 さて最新作「ナイトメア・アリー」(21)は、前時代の怪しげなカーニバル一座というデル・トロらしい道具立てのもとに幕を開ける。進化を続けるデル・トロ的モンスター譚の現在地はどこか。“風や木々にしか発音できない”名前のごとく繊細にして唯一無二の〈モンスター〉の顔が現れるのを期待したい。 文=広岡歩/制作=キネマ旬報社 [caption id="attachment_10451" align="alignnone" width="800"] (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.[/caption] 作品名:『ナイトメア・アリー』 公開表記:2022年3月25日(金) 全国公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved. -
アカデミー賞3部門ノミネートの「リコリス・ピザ」、青春に目が眩む予告編
2022年3月25日本年度アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされたポール・トーマス・アンダーソン最新作「リコリス・ピザ」(7月1日よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開)。その特報予告が到着した。 1970年代のハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレーを舞台に、カメラマンアシスタントのアラナと高校生ゲイリーの恋模様を描き出す「リコリス・ピザ」。解禁された30秒特報は、ふたりの出会いから始まる。年上女性アラナ(アラナ・ハイム)に一目惚れした高校生ゲイリー(クーパー・ホフマン)が「運命の出会いだ」と告白するも、「やめてよ」とすげなく受け流すアラナ。しかしふたりは徐々に近づき、共に走り、笑い、反発し合っていく。 「思い通りにならない」とゲイリーを睨みつけたかと思えば、妖艶な流し目を送るアラナ。「君を忘れるわけない。君も僕を忘れない」とまっすぐに伝えるゲイリー。指が少しだけ触れ合いそうになるシルエットをはじめ、胸をときめかせるシーンがちりばめられている。ちらっと映り込むショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパーも見逃せない。 © 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED. 配給:ビターズ・エンド、パルコ ▶︎ 公開中&待機中のアカデミー賞ノミネート作を見逃すな! ▶︎ アカデミー賞3部門ノミネートの「リコリス・ピザ」、ティザービジュアル公開 -
アカデミー賞3部門ノミネート、祖国を脱出した男の過酷な半生記「FLEE フリー」
2022年3月24日本年度アカデミー賞で史上初の国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞3部門同時ノミネートを果たしたドキュメンタリー映画「FLEE フリー」が、6月10日(金)より新宿バルト9、グランドシネマサンシャイン池袋ほかで全国公開。特報とティザービジュアルが解禁された。 タリバンとアフガニスタンの恐ろしい現実や、祖国を逃れた人々の過酷な奮闘の日々、そしてゲイの青年が自身の未来のためにトラウマと向き合う姿を描く「FLEE フリー」。主人公アミンをはじめ人々の安全を守るため、アニメーションで制作された話題作だ。 アカデミー賞3部門ノミネートをはじめ、サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門グランプリ獲得、アヌシー国際アニメーション映画祭クリスタル賞(最高賞)を含む3部門受賞など、世界中で76受賞140部門ノミネートを果たしている。 特報映像は、主人公アミンが親友の映画監督(本作の監督ヨナス・ポヘール・ラスムセン)の「誰かに話したことは?」という問いに対し、「一度もない」と答えるシーンで始まる。そして、封印してきた自身の過去を20年の時を経て初めて語り始める様子と、それにより回想される幼少期からのあまりに過酷な経験を映していく。 アミンの複雑な感情を忠実に伝えるために2スタイルのアニメーションが使い分けられ、さらに臨場感あるニュース映像を織り交ぜるなど、独創的手法も映画の見どころ。数々のラジオ・ドキュメンタリーを手掛けてきたヨナス・ポヘール・ラスムセン監督は「私的な物語を語る過程で、私は常に新しい方法やアプローチを探求しようと心がけています。語られる物語に沿うように、映画の形式を捻じ曲げる方法を探るのです。『FLEE フリー』では、そのレパートリーにアニメーションを加えました。アミンが惜しみなく私に共有してくれた、貴重な証言にふさわしい舞台を与えられるよう、説得力があり、魅力的な語り口を作ることを目指したのです」と語る。 ティザービジュアルに描かれた国籍も境遇も様々な119人は、すべて作中キャラクターだ。この中には、カセットプレーヤーでお気に入りの曲を聴きながらはしゃぐ幼い頃のアミン、トラウマと向き合う現在のアミン、そして彼の恋人や家族、ラムスセン監督の姿も。〈故郷とは、ずっといてもいい場所〉というキャッチコピーは、アミンの印象深いセリフから取られた。難民かつゲイという2つの葛藤を抱えてきた彼にとって、〈故郷〉という言葉が示す意味は非常に重い。「この物語は、過去やセクシュアリティも含め、自分が誰なのか。それを知ることのできる場所を見つける、一人の人間の物語なのです」(ラスムセン監督)。 Story アフガニスタンで生まれたアミンは、幼い頃に当局に連行された父が戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離ればなれになり、数年後たった一人でデンマークへ亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性との結婚に向かっていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続ける秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶらずにはおかない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める……。 「FLEE フリー」 監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン 製作プロダクション:Final Cut for Real「アクト・オブ・キリング」 製作総指揮:リズ・アーメッド、ニコライ・コスター=ワルドー 2021年/デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス合作/シネスコ/カラー/89分/5.1ch 原題:Flugt 英題:FLEE 日本語字幕:松浦美奈/後援:デンマーク大使館/配給:トランスフォーマー © Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved公式HP:https://transformer.co.jp/m/flee/ 公式Twitter:@FLEE_JP -
ベルリン映画祭出品、ケストナーの小説を映画化した「さよなら、ベルリン〜」
2022年3月24日児童文学の大家エーリヒ・ケストナーが大人向けに書いた長編小説「ファビアン あるモラリストの物語」(みすず書房刊)を映画化。第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、2021年ドイツ映画賞では主要3部門(作品賞銀賞・撮影賞・編集賞)で受賞した『Fabian-Going to the Dogs』(原題)が、「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」の邦題で6月10日(金)よりBunkamuraル・シネマほかで全国順次公開される。 舞台はナチスの足音が忍び寄る1931年のベルリン。作家を志して上京した青年ファビアンは、不況下の空虚な時代にあって行き先に惑い、立ち尽くしていた。女優を夢見るコルネリアとの恋、ただ一人の「親友」ラブーデの破滅。やがてコルネリアは女優への階段を上るためファビアンのもとを離れ……。 本邦初公開のドミニク・グラフ監督が、縦横無尽な描写で原作の世界観を巧みに再現。主人公ファビアンを演じるのは「コーヒーをめぐる冒険」でドイツ映画賞主演男優賞などに輝き、「ピエロがお前を嘲笑う」「ある画家の数奇な運命」にも主演したトム・シリング。ヒロインは「さよなら、アドルフ」のザスキア・ローゼンダール。両者は「ある画家の数奇な運命」に続き2度目の共演となる。 解禁された日本版ポスタービジュアルは、「僕はどこへ?」のキャッチコピーと戸惑うファビアンの表情が印象的。背景には、ナチスの象徴ハーケンクロイツ、燃やされる本など、時代を物語る写真が並ぶ。先行き不透明な青年の選択の物語は、現代人の共感も誘うはずだ。 「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」 英題:Fabian - Going to the Dogs 原作:エーリヒ・ケストナー「ファビアン あるモラリストの物語」(みすず書房) 監督:ドミニク・グラフ 出演:トム・シリング、ザスキア・ローゼンダール 2021年/ドイツ/178分/スタンダード/字幕:吉川美奈子/配給:ムヴィオラ (C)Hanno Lentz / Lupa Film -
ヴェネチア銀獅子賞! ドレフュス事件を映画化したポランスキー新作
2022年3月24日第76回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)に輝き、物議を醸したフランスでは第45回セザール賞3部門(監督・脚色・衣装)受賞。歴史的冤罪事件“ドレフュス事件”を映画化したロマン・ポランスキー監督最新作『An Officer and a Spy』(英題)が、「オフィサー・アンド・スパイ」の邦題で6月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開される。 19世紀末のフランスを舞台に、不屈の信念で巨大権力と闘った男の逆転劇を描く「オフィサー・アンド・スパイ」。ドイツに機密を漏洩したスパイ容疑で終身刑となったユダヤ人大尉ドレフュス役に「パリの恋人たち」のルイ・ガレル、権力に抗いながら真実を追求するピカール中佐役に「アーティスト」のジャン・デュジャルダンを迎え、巨匠ポランスキーがサスペンスフルに描き出す。 解禁された特報は、ドレフュスとピカールの熱い逆転劇を予感させる内容。メインビジュアルでは、向き合うふたりの間に「私は告発する」のコピーが据えられた。この言葉は、映画にも登場する作家エミール・ゾラがドレフュスの無実を訴えようと大統領に送った公開告発状から取られており、フランスではタイトルに採用されている。日本公開に際しては、フランス現代史を専門とし、反ユダヤ主義関連の研究でも知られる思想家の内田樹氏が字幕を監修。歴史的事件が映画でいかに甦るのか、注目したい。 ドレフュス事件とは? 1894年フランスで、ユダヤ系のドレフュス大尉がドイツのスパイとして終身刑に処せられる。1896年に真犯人が現れるが軍部が隠匿。これに対し小説家ゾラや知識人らが弾劾運動を展開し、政治的大事件となった。1899年、ドレフュスは大統領の恩赦により釈放。1906年に無罪が確定した。2021年10月には本国で、その生涯に敬意を表するドレフュス博物館が開館。マクロン大統領も来訪し「記憶伝承の場」と世界に訴えた。 [caption id="attachment_10411" align="aligncenter" width="850"] © Guy Ferrandis-Tous droits réservés[/caption] Story 1894年フランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。だが対敵情報活動を率いるピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。上官に対処を迫ると、国家的スキャンダルを恐れて隠蔽を目論む上層部に左遷を命じられてしまう。すべてを失ってもなおドレフュスの再審を願うピカールは、作家のゾラらに支援を求めるも、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた……。 「オフィサー・アンド・スパイ」 監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー 原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」 出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック 2019年/フランス・イタリア/仏語/131分/4K 1.85ビスタ/カラー/5.1ch/原題:J’accuse 日本語字幕:丸山垂穂 字幕監修:内田樹 提供:アスミック・エース、ニューセレクト、ロングライド 配給:ロングライド 公式サイト:longride.jp/officer-spy/ © 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA