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映画「星くずの片隅で」―ラム・サム監督が語る、香港映画の可能性
2023年7月13日7月14日(金)よりポレポレ東中野、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開される香港映画「星くずの片隅で」は、民主化運動が激化する2019年の香港を舞台に連帯していく若者たちの群像劇「少年たちの時代革命」(21)で共同監督を務めたラム・サム監督の単独初監督作品。3月に行われた大阪アジアン映画祭に訪れたラム・サム監督のインタビューは『キネマ旬報』誌上に6月下旬号(6月5日発売)掲載したが、映画の公開に合わせキネマ旬報WEBで改めて紹介しよう。 コロナ禍で苦しむ香港人に向けたメイド・イン・香港映画 [caption id="attachment_27295" align="aligncenter" width="886"] ルイス・チョンとアンジェラ・ユン(右)[/caption] 「星くずの片隅で」は、2022年末に香港で、超大作「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(以下「アバター2」)の公開時期にあえてぶつけて公開された作品である。 昨年の香港では空前の香港映画ブームが起きており、そうした背景もあったのだろうが、「アバター2」に真っ向から挑むとはさすが「少年たちの時代革命」を撮った監督だけある! と気概を感じたものだった。しかし、この件に関してラム・サム監督は、奥ゆかしげな様子で「隙間を狙っただけ」と笑うのだった。 「クリスマスシーズンに『アバター2』が公開されることは、どの配給会社もわかっていたので、当然、それにぶつける香港作品は少なかったんです。その状況を見て、これは逆にチャンスなのではないかと思って(笑)。あと、『アバター2』を観た人が、今度はまったく毛色の違う作品が観たいと思って、この作品を選んでくれるのではという期待もありました」 監督がそう語る通り、「星くずの片隅で」は、「アバター2」とは打って変わって、コロナ禍にみまわれた香港の街の片隅で生きる人々の苦難とささやかな希望を描いた作品。 「地味な作品ですし、みんな当然『アバター2』は観たいわけですし、初日はけっこう厳しかったんですが、そんななかでも観て共感してくれた人たちのSNSでの口コミが徐々に広がって、評判になっていきました。その大きな理由として、この3年、誰もがコロナ禍で苦しい思いをしてきて、主人公たちと同じような体験をした人も多かったからだと思うんです」 その主人公とは、清掃会社を細々と運営する、体の悪い老母と暮らす中年男ザク(ルイス・チョン)と、求職中の若いシングルマザー、キャンディ(アンジェラ・ユン)&コロナによって小学校に行けなくなった娘のジュー。彼ら労働者の日常や、さまざまな清掃の依頼を通して、失業、介護、孤独死などの問題も絡め描いていくのだが、困難ばかりが続いても人を思いやる気持ちをなんとか持ち続ける主人公たちに向けたラム・サム監督の、軽やかにしてあたたかな眼差しが感じられるヒューマンドラマとなっている。 「ただ、公開当時はコロナ禍から抜け出していない時期だったので、まだまだ困難のなかで生きている人も多く、生々しくて観るのが辛そうと思う人もいたようです。が、実際に観ると暗い映画ではないし、逆にポジティブな気持ちになって、前向きに生きていこうと思えた──といったカキコミが多かったんですよ」 公開時には、すでに台湾金馬奨各賞にノミネートされていて(その後、香港電影評論学会大奨で最優秀監督賞などを受賞したほか、香港電影金像奨では10部門にノミネート)、こうした映画界での評価の高さも後押しをしたのだろうかと聞くと、「それは一般の観客にとっては重要なことではないでしょう」とのこと。観客が、業界的な評価云々関係なしに、自分たちに向けたエールとして捉えた「星くずの片隅で」。まさに香港人による香港人のための香港の今を描いたザ・メイド・イン香港映画。そんな作品が愛されたことは、同じく香港人に観てもらうために撮るも上映禁止となった「少年たちの時代革命」の無念を思うと、監督にとってはこのうえない喜びだったのではないだろうか。 香港映画界は近年でいちばんいい時期 2023年の大阪アジアンで豊作だった香港映画のラインアップを振り返ると、題材やテイストはさまざまながら、たとえば「香港ファミリー」「白日青春」「流水落下」「四十四にして死屍死す」など、「星くずの片隅で」同様、“ザ・メイド・イン香港映画”の秀作が続々と生まれていることがみてとれる。しかも監督を務めたのは皆、若手。そんな香港映画界の現状についてはどう見ているのだろうか。 「香港映画は、近年では今いちばんいい時期にあるんじゃないかと思います。これまではジャンル映画のイメージが強かったと思いますが、このところ多様なテーマを持つ作品が増えてきていて、それを観客が関心を持って観てくれるようになっている。僕の『星くずの片隅で』だって、ひと昔前だったら、地味だといって誰も観てくれなかったと思います(笑)。でも、そんな映画たちが成功してきていることで、今、映画館や投資者たちの意識も変化している。そういう意味で、もっと新しい多様な作品がどんどんつくられていく可能性が芽生えているところだと思うんです。ただ……」と、監督が続けた言葉に、(こちらが無知だっただけなのだが)思わず驚く。 「実は僕、今はロンドンに住んでいるんです。22年の6月に家族と共に移住しまして。決意したのは子どもの将来のためです。中国に返還された97年まで申請することができたBNOというビザがあるんですが、20年の香港国家安全維持法施行が、市民の自由に対する侵害だとして、21年にイギリス政府がこの資格のメリットを大きく拡散したことから、そのビザを使っての移住がものすごく増えたんです。で、移ってみて驚いたのは、移住者は映画関係者だけでも数百人いること。だから、ハードルは高いですけど、数百人もいればイギリスでも“香港映画”を作れるんじゃないかと。実際、この2〜3年で香港人の大量移住を受けて、すでにひとつのマーケットが形成されつつあるんです。具体的には、移民してきた香港人が『香港映画祭』を企画したんですが、観客が予想以上に集まったんです。それによって映画館ともいい関係を築きつつあるんですが、この流れで香港映画がイギリスで公開されるチャンスも増えていくとみています。実際、この『星くずの片隅で』のワールドプレミアはイギリスのエディンバラ国際映画祭ですし、今現在もイギリスで公開中(※取材をした23年3月中旬現在)です。そんなこともきっかけで、制作面でも、もしかしたらイギリスで映画が撮りやすくなるかもしれないと思っているところです」 どこにいても香港の魂を継承した“香港映画”は撮れると、かつてピーター・チャンが語っていたことを思い出したが、もし撮るとしたらどのような作品になるのだろう。 「今、題材として興味を持っているのが、僕のように海外に移住した香港人家族の話と、コロナ禍が収まった後の香港人が何を考えどう生活していくかという話。いずれにしても、僕は興味のあるテーマ=香港人としてのアイデンティティに関するものしか撮れないし、それを撮ることは勇気のいることですが、どこにいても諦めないでいたいです。今年2月のベルリン国際映画祭でのジョニー・トー監督のスピーチ(映画というものの重要性や自由について語ったもの)にも勇気づけられましたが、彼を見本に、撮りたいものを撮り、訴えるべきことは訴えるような、そういう方向をこれからも目指したいと思っています」 取材・文=塚田泉 制作=キネマ旬報社(『キネマ旬報』2023年6月下旬号より転載) 林森(ラム・サム/Lam Sum) 1985年生まれ、香港出身。香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。短篇やドキュメンタリー映画制作のほか、映画制作の講師としても活動。これまでの作品に短篇「oasis」(12)やレックス・レンと共同監督した「少年たちの時代革命」(21)などがある。本作で初の単独長篇監督。 https://www.youtube.com/watch?v=Qi2kamjUG2g 「星くずの片隅で」 【解説】 映画「イップ・マン 継承」ほか数多くの映画、ドラマに出演する俳優&シンガーソング・ライターのルイス・チョンと、映画「宵闇真珠」ではオダギリジョーとも共演、Vaundyの〈Tokimeki〉のMVにも出演した香港のトップモデル、アンジェラ・ユン共演の、コロナ禍の香港でたくましく生きる人々を描いたヒューマンドラマ。2020年、コロナ禍の香港。老母の看病をしながら働く清掃業者のザク(ルイス・チョン)は、幼い娘がいるシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)を雇うが、キャンディが顧客の家からマスクを盗んだことがわかり解雇する。しかし娘と路頭に迷うキャンディを見るに見かねたザクは再び彼女を雇うと、今度は熱心に働き始めるのだが…。 【作品データ】 窄路微塵/The Narrow Road 2022年・香港・カラー・1時間55分 ●監督/ラム・サム ●脚本/フィアン・チョン ●出演/ルイス・チョン、アンジェラ・ユン、パトラ・アウ、トン・オンナー ●配給/cinema drifters、大福、ポレポレ東中野 ◎7月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ポレポレ東中野ほか全国にて ©mm2 Studios Hong Kong 公式HPはこちら -
若きウィリー・ウォンカはいかにしてあのチョコレート工場を作ったのか──。世界的ヒットを記録した「チャーリーとチョコレート工場」の始まりの物語を描く、歌と魔法と感動が詰まったファンタジー大作「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」が、12月15日(金)より日米同時公開。ティザーポスターとUS版予告が解禁された。 舞台は中世ヨーロッパ。ウォンカはいつか母と一緒に美味しいチョコレートの店を作るという夢を叶えるため、一流のチョコレート職人が集まるチョコレートの町へ向かう。 「僕は魔術師であり、発明家であり、チョコレート職人だ」と自信に溢れたウォンカのチョコレートは、世界一おいしくて、一口食べると幸せな気分になり、空だって飛べる。 そんな “魔法のチョコレート” は瞬く間に人々を虜にし、一躍人気者となるウォンカだったが、その才能を妬んだ “チョコレートカルテル3人組” に邪魔される。 それでも情熱は消えず、斬新なアイディアで人々を驚かせ続けるウォンカ。最後には、ある因縁から彼を付け狙うオレンジ色の小人ウンパルンパも現れたから、さあ大変! 「すべては夢見ることから始まる」「だから夢を諦めないで」という母親の言葉を胸に、ウォンカは町にチョコレート工場を作れるか? 「チャーリーとチョコレート工場」ではジョニー・デップが演じたウィリー・ウォンカに、本作ではティモシー・シャラメが扮し、歌やダンスとともに豊かな表情を見せる。そしてヒュー・グラントがウンパルンパを快(怪?)演、「シェイプ・オブ・ウォーター」のサリー・ホーキンスがウィリーの母親役。さらにオリヴィア・コールマンやローワン・アトキンソンが脇を固める。 プロデューサーは「ハリー・ポッター」シリーズのデイビッド・ヘイマン、監督・脚本は「パディントン」シリーズのポール・キングが担当。世代を超えて愛されるロアルド・ダールの児童書『チョコレート工場の秘密』をもとに紡いだ、心躍る話題作だ。 「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」 監督・脚本:ポール・キング 製作:デイビッド・ヘイマン 原案:ロアルド・ダール 出演:ティモシー・シャラメ、ヒュー・グラント、オリヴィア・コールマン、サリー・ホーキンス、ローワン・アトキンソン 配給:ワーナー・ブラザース映画 © 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. 公式サイト:wonka-chocolate.jp
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「RRR」のラーム・チャラン主演「ランガスタラム」。狂熱の群舞シーン公開
2023年7月13日「RRR」「マガディーラ 勇者転生」のラーム・チャランが主演し、自ら最高傑作のひとつと述べるアクション・エンタテインメント「ランガスタラム」が、7月14日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほかで全国公開。ラーム・チャランのダンスシーン映像が解禁された。 祭事の山車巡行に合わせ、ラーム・チャラン演じる青年チッティが大勢の村人とエネルギッシュにダンス。楽曲の『Ranga Ranga Rangasthalaana(ランガ・ランガ・ランガスタラーナ)』は、テルグ語映画音楽界を牽引するデーヴィ・シュリー・プラサードが手掛けた。「この世は芝居の舞台 俺たちゃみんな人形さ」という歌詞は、「RRR」のアカデミー賞歌曲賞受賞曲『ナートゥ・ナートゥ』で知られる作詞家チャンドラボースが担当。そして同じく『ナートゥ・ナートゥ』のラーフル・シプリガンジが歌唱する。このタイトルトラックは全編を通じて変奏され、明るい曲調とは裏腹に、世界の残酷さへの嘆きを表明している。 Story 1980年代のアーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯、ランガスタラム村。チッティ・バーブ(ラーム・チャラン)は、モーターで田畑に水を送る労働者だ。難聴だがさほど気にせず、日々を楽しく生き、近所のラーマラクシュミ(サマンタ)に惚れて調子外れな求愛をする。 一方、チッティ・バーブの兄であり中東ドバイで働くクマール・バーブは、帰省した村が「プレジデント」を自称する金貸しのブーパティに牛耳られているさまに心を痛める。そして州会議員ダクシナ・ムールティの力添えで村長選挙に立候補し、政治家となって村を改善しようと思い立つが……。 「ランガスタラム」 監督・脚本:スクマール 撮影:R.ラトナヴェール 音楽:デーヴィ・シュリー・プラサード 編集:ナヴィーン・ヌーリ 製作会社:マイトリ・ムーヴィー・メイカース 出演:ラーム・チャラン、サマンタ、プラカーシュ・ラージ 英題:Rangasthalam 2018年/インド/テルグ語/174分 配給:SPACEBOX ©Mythri Movie Makers -
雄大な内モンゴルで母と息子の旅が始まる。新鋭監督が描く「草原に抱かれて」
2023年7月13日新鋭チャオ・スーシュエ監督が、内モンゴル自治区の雄大な草原で “思い出の木” を探す母と息子の旅を描いた「草原に抱かれて」が、9月23日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次公開。ポスタービジュアルが到着した。 認知症の進む母が気がかりだったミュージシャンのアルスは、思い切って兄から母を引き取り、母の故郷の内モンゴルで一緒に暮らし始めた。そして母の記憶を辿るように、広大な地をふたりで旅する。彼方まで広がる草原、季節ごとのゲル(天幕)の移動、天地に感謝を捧げる祈りの作法──。そこには生と死が接したような世界が広がる。 内モンゴル自治区出身で、フランスで映画を学んだ1990年生まれのチャオ・スーシュエ監督。その初長編となる本作は、「へその緒」というタイトルで上映された昨年の東京国際映画祭をはじめ、各国映画祭で話題を呼んだ。 伝統に回帰したい母を演じるのは、ウルリケ・オッティンガー監督作“Johanna d’Arc of Mongolia”(1989)などに主演した名優バドマ。現代を体現する息子のアルス役には、これがデビュー作となるミュージシャンのイデル(伊德尔)。彼は劇中で、電子音楽から馬頭琴まで幅広い音色を響かせる。撮影監督は「南京!南京!」(2009)や「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」(2018)の名手ツァオ・ユー。 美しい大自然の中に世代の交差を見つめた、ロードムービーの趣きあふれる注目作だ。 「草原に抱かれて」 監督・脚本:チャオ・スーシュエ プロデューサー:リウ・フイ、フー・ジン 撮影:ツァオ・ユー 音楽:ウルナ(Chahar-Tugchi)、イデル 出演:バドマ、イデル 配給:パンドラ 2022年/中国/モンゴル語/カラー/96分/英題 : The Cord of Life 原題:Qi dai(脐带) HP:http://www.pan-dora.co.jp/sougen/ -
アリス・ディオップ監督「サントメール ある被告」、裁判シーン映像と著名人コメント公開
2023年7月12日セネガル系フランス人の新鋭アリス・ディオップが、実話を基に、幼い娘を殺した罪に問われた女性の裁判の行方を描き、2022年ヴェネチア国際映画祭2冠(銀獅子賞と新人監督賞)、本年度セザール賞最優秀新人監督賞受賞、本年度アカデミー賞国際長編映画部門フランス代表選出を果たした「サントメール ある被告」が、7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかで全国順次公開。裁判シーン映像と国内外著名人のコメントが到着した。 フランス北部の町サントメール。若き作家のラマはある裁判を傍聴する。被告は、生後15ヵ月の娘を海辺に置き去って殺害した罪に問われたロランス。セネガルからフランスに留学し、完璧なフランス語を話す彼女は、本当に我が子を殺したのか? 被告の証言、娘の父親の証言、何が真実かわからない。そんな中、ラマは偶然に被告の母親と知り合い、ラマが妊娠していることを言い当てられる。そして裁判はラマに “あなたは母親になれる?” と問いかける……。 公開された裁判シーンは、ロランス、裁判官、弁護士、検察官、娘の父親、ロランスの母親、そしてラマに順次フォーカス。実際に裁判で発された言葉をそのまま台詞化し、緊迫感豊かに演出する。 〈国内著名人コメント〉(敬称略・順不同) 衒いなく置かれるカメラは気付けば見ているこちらまで撮り始める。 映画の外側に隠れていることは出来ないのだ。 ──飯岡幸子(撮影監督/『偶然と想像』) 裁くのではなく、ただ耳を傾けること。 慈しむ母と支配する母のあいだで揺れる娘の耳に届くのは、 善悪の彼岸から聞こえてくる真実の声なのだろうか。 ──小野正嗣(作家、仏文学者) 人種、性別、望まれる“私”から逃れようとするたびにどんどん道が塞がれてしまった彼女のこと。 どんなに想像してもその心の深淵は見えない。それでも他者をわかろうとすることを諦めたくない、という希望が最後に残った。 ──川和田恵真(映画監督/『マイスモールランド』) 『サントメール ある被告』の政治的な美学は、ほかの追随を許さない。 セリーヌ・シアマは「これは私たちの時代の“ジャンヌ・ディエルマン”」と賛辞を送るが、 シャンタル・アケルマン同様、今後間違いなくアリス・ディオップは映画史で言及されつづけることになる。 ──児玉美月(映画文筆家) この作品はいい意味でアバンギャルドである。かつて、この様な映画があっただろうか。 軽い眩暈が起きそうな経験をしてしまった。 ──北村道子(スタイリスト) もし私がこの裁判を取材するとしたら どう書くだろう? 裁判で明らかになったのは動機ではなく 社会における女性の現在地、そして孤独だった ──高橋ユキ(裁判傍聴人/ノンフィクションライター) 年齢、性別、国籍、人種などのいくつかの属性が交差した複雑な情景が広がるこの映画を通して、日本でもしばしば報道される「乳児を殺害した母親」の立場がどのようなものであるか、どんな点が自分や周囲の出来事と共通しているかを考えていきたい。 ──和田彩花(アイドル) この作品の人種的、社会的、歴史的、言語的な背景の複雑さの多くを、日本に暮らす私が読み解くことは難しい。けれども、子供を持つということの決して語られざる絶望、多くの女性をのみこむ洞穴のような孤独、という点において、 この映画はあらゆる世界をつなげる細くて強い糸を持っている。 ──西川美和(映画監督) 忙しいと、どうしても目が届かなかったり、つい見逃さざるをえないことも多い。それに慣れてしまわないと生きづらいから、いっそ見ないふりすらする。ときには目に入るものを瞬時にジャッジし続ける快楽に溺れることもある。そうした習慣がやがて誰かや自分自身を致命的な不幸に追い込むことには薄々気がついているけれど、つい目を背けてしまう。この映画は、裁判所という空間を捉え直すことで、「みること」と「誰かをジャッジすること」を切り離し、わたしたちを勇敢にさせ、地獄から救い出そうとする。 ──三宅唱(映画監督) カメラは 被告席に立っている女性に向かっていてビクとも動かない 我々も被告を凝視し続けることになる この作品は 実際にあった裁判の記録に沿って創られている 被告の女性は 生後15ヶ月の赤ん坊を渚に置き去りにしたのだ 2015年に起きた事件だった 被告を演じるガスラジーには、監督は一切の演出をしなかったと聞く ──久米宏(フリーアナウンサー) 「女が語る」ということの重要性と本質をスリリングに、ハードボイルドに捉えた作品。法廷で証言する被告、弁護士、裁判官の女性たちの顔と言葉に釘付けになった。 ──山崎まどか(コラムニスト) 〈海外映画人コメント〉(敬称略・順不同) この映画はセイレーンのように私を岩礁へ呼び寄せ、魅惑的で、かつ胸が張り裂けるような物語で、私を催眠術にかける。スクリーンが溶けて消えていくように感じ、登場人物たちの境遇に入り込み、それによって自分が永遠に変わったのを感じた。つたない意見だが、『サントメール ある被告』は、まさにここ10年のフランス映画で最もパワフルな映画のひとつ。いつかディオップ監督に演出されたいと願い、夢見るばかりだ。 ──ケイト・ブランシェット(俳優/第79回ヴェネチア国際映画祭女優賞『TAR/ター』) アリス・ディオップ監督は、複雑さと思いやりをもって、法廷劇というものを再定義している。彼女は観客を陪審員の立場だけでなく、有罪判決を受けた者の立場にも立たせる。『サントメール ある被告』は斬新な映画だ。容赦なく詩的であり、抑制され、完全に魅惑的な作品なのだ。 ──テッサ・トンプソン(俳優/『クリード 過去の逆襲』) 美しく、洞察力に満ちている。文化や階級、人種間のインタラクション(相互の影響)を的確に深く捉えている。呪術の比喩に深い衝撃を受け、キメラを語るくだりでは感動の涙を流した。あらゆる場面で、驚かされ、喜び、好奇心を抱かされた。この作品のとりこになってしまったのだ。圧倒的な成果だ。 ──キウェテル・イジョフォー(俳優/『それでも夜は明ける』) この映画は、極めて稀な周波数で振動しているのだ。真摯で、具体的なイメージの上に成り立つ崇高な表現。揺るぐことがなく、勇敢。ガスラジー・マランダは信じられないほどに素晴らしい。この作品を前に、私は茫然自失となった。 ──バリー・ジェンキンス(映画監督/『ムーンライト』) 『サントメール ある被告』を見ることは、1975年に『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を見ることに比べられる。人は映画の詩を見ていることに気づく。アリス・ディオップ監督の言語は、映画言語の歴史だけでなく、彼女自身の歴史に属するものであり、それは危険であり、かつ輝かしいものなのだ。 ──セリーヌ・シアマ(映画監督/『燃ゆる女の肖像』) これは崇高な映画だ。『サントメールある被告』を観た瞬間、自分が偉大な映画作家の手の中にいることを確信した。ディオップ監督は主人公と観客に大きな敬意を表しながら、深い複雑さを持つ物語を見事に編みあげた。私はこの映画について考えることを、やめられないでいる。 ──ローラ・ポイトラス(映画監督/第79回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞『All the Beauty and the Bloodshed』) 上映後、審査員たちの議論は熱を帯び、情熱的なものになった。映画の質の高さに関しては、即座に満場一致だったので、議論はそのことについてではなく、この映画が私たちに投げかけた問いの力についてだった。この映画の重要性は、その反響によって測られるのだ。アリス・ディオップ監督に贈られた銀獅子賞は、この勇気と過激さ、高いインスピレーションに満ちた長編デビュー作に対する私たち審査員の賞賛の証だった。 ──オードレイ・ディヴァン(映画監督/『あのこと』/第79回ヴェネチア国際映画祭審査員) シネアストとして、アリス・ディオップの声は新しく、待ち望まれた、必要不可欠なものなのです。 ──ジュリアン・ムーア(俳優/第79回ヴェネチア国際映画祭審査員長) なおアリス・ディオップの来日およびトークイベントも決定。(7/14と7/16にBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で「サントメール ある被告」上映後、7/15に東京日仏学院 エスパス・イマージュで「私たち」上映後)。併せてチェックしたい。 © SRAB FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA – 2022 配給:トランスフォーマー ▶︎ 彼女は本当に娘を殺したのか?ヴェネチア映画祭2冠の法廷劇「サントメール ある被告」