イカリエ XB1 デジタル・リマスター版の映画専門家レビュー一覧
イカリエ XB1 デジタル・リマスター版
1963年.共産主義下のチェコスロヴァキアでつくられた本格的SF作品のデジタル・リマスター版を劇場初公開。密室の中で徐々に狂気に汚染されていく宇宙船の乗組員たちのサスペンスフルな人間ドラマと、近未来のユートピア的世界を独創的なスタイルで映し出す。スタニスワフ・レムの小説『マゼラン星雲』にインスピレーションを受け脚本を執筆したのは、特撮映像作品を多く手がけるインドゥジヒ・ポラークと「狂気のクロニクル」のパヴェル・ユラーチェク。衣装を「ひなぎく」の脚色を担当したエステル・クルンバホヴァー、音楽を「悪魔の発明」のズデニェク・リシュカ、監督をインドゥジヒ・ポラークが務める。
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ライター
石村加奈
犬や花、ロマンス、出産まで宇宙船内で繰り広げられる物語が50年以上も前に作られていたとは! アニメ大国チェコで育まれたフレッシュな想像力に惚れぼれする。幾何学的なSF世界で“◯”のイメージが意味深だ。無限や永遠を表すモチーフが、ダーク・スターに襲われて、めまいを起こした乗組員たちの揺るぎない“根拠”を示しているように感じて、自由化の波が訪れた幸福な黄金時代に思いを馳せる。カレル・ゼマン作品などで有名なズデニェク・リシュカのモダンな電子音楽も◯。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
60年代とはヌーヴェルヴァーグ(NV)の時代である。50年代にフランスで起こった映画運動が、世界各国に伝播していく。また60年代とはSF映画の時代でもある。傍系的、B級的に扱われてきたSFが、すぐれた原作を提供するSF作家の登場、特撮技術・音響の劇的向上と相まって、映画ジャンルの中心的存在にのし上がる。フランスにはゴダールの「アルファヴィル」があった。そしてチェコには本作だ。つまりNVにとってSFとは、同朋的マスコットだったのではないか?
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脚本家
北里宇一郎
チェコには人形アニメとかファンタジーに面白いものが数多くあるので、この63年製作のSFにも期待。かなり生真面目な作風で、あまり面白味はない。が、それが逆にリアル感を生んでおり、本格派SFの趣。人物描写は「惑星ソラリス」(同じ原作者!)を彷彿。宇宙には人智を超えた何かがいる――てなところは「2001年宇宙の旅」みたいで。いずれにしてもそれらの作品の先駆者的価値があって。核兵器を巡るトラブルとか、未来への希望的観測は、当時の冷戦状況の反映だろうなあ。
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