映画専門家レビュー一覧

  • 約束の宇宙(そら)

    • ライター

      石村加奈

      宇宙へ行かずとも出産後、仕事をする上で子供に我慢を強いた自覚があるので、ステラの眼差しが痛かった。子供の頃からの夢を?み、宇宙飛行士になれたのに、無邪気に英雄扱いされる父親とは対照的に、母親はなぜこんなにつらい思いをせねばならぬのか? そんな切実さも映画では描かれていて、好感を抱いたし、娘との約束を守ったこの母を、私は好きだと思った。エヴァ・グリーンは母親の葛藤を誠実に表現していた。ラスト、元夫の泣き顔は不要。母と娘の笑顔で終わる方が爽やかだ。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      娘と離れ訓練を受ける女性宇宙飛行士サラの日々が、ドキュメンタリーの素材をラフに繋ぐような構成で淡々と描かれる。様々な言語が入り乱れ、肉体と知能を常にフル回転して訓練に臨む宇宙飛行士のリアルな日常から、シングルマザーのサラの葛藤がジワリと伝わってくる。しかし、ロケット打ち上げ前夜の彼女の行動は不可解。宇宙飛行士である前に一人の母親だ、といういかにもなクライマックス。一気に冷めてしまったが、それだけ私がこの作品世界に入り込んでいたからかもしれない。

  • AVA/エヴァ

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      これほど素晴らしい名優たちと彼らの「演技」が次々と映し出されるが、何か虚しい気持ちになる。エンタメやアクション映画が悪いというのではなく、物語ることがあまりにもお粗末に扱われているのだ。結果、俳優たちはその「存在感」を発揮できず、表層的な「演技」に終わってしまっているように思える。彼らがそこに「映って」いるが「存在」していない、という極めて珍しい作品となっている。家族を思いやる悪人と、家族を築けず疑似家族を重んじる復讐人との対決構造は面白い。

    • フリーライター

      藤木TDC

      凡作。L・ベッソン「ANNA/アナ」やI・ユペール主演「エヴァ」と混同しそうな題で、内容も両作の折衷風。J・チャステインの年齢を口にすると怒られそうだから言わないが、同種の女性アクションならもっとイキのいい無名女優のDVDスルーや配信作品を見るほうが痛快だ。キャストが無駄に豪華でC・ファレルやJ・マルコヴィッチ、G・デイヴィスが出る場面は彼らに芝居させなきゃならないためか流れが緩慢に。古希前のマルコヴィッチが格闘シーンを演じたのはビックリ。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      これだけ個性的なキャストが揃っても、スッカスカな映画が出来上がることもあるんだな、と反面教師的に参考にしたい作品。あまり体型のことは言いたくないものの、ジェシカ・チャステインはトランジスタグラマーなため、キレのあるアクションに見えないのが玉に瑕。彼女が演じる「これから殺す人間の死の理由が気になる」殺し屋という屈折は、演技派らしい味付けだけれども、そこが生きていないので意味がない。家族との軋轢や依存症の過去なども感情に訴えてくる段階に至らず。

  • バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら

    • フリーライター

      須永貴子

      俳優のパブリックイメージを正しく利用したモキュメンタリー。これだけ名前の通った俳優100人のスケジュールを確保し、連続ドラマと映画を(おそらく)並行して撮影した制作サイドの有能さは称賛されるべき。「銀河鉄道の夜」的な劇中劇に絡めて、撮影スタジオを車両に見立て、芝居には答えも終わりもないから旅をし続けるという、俳優のロマンや業を映し出すオチも染みる。祭りが生者と死者が触れ合う場所であるならば、このお祭り映画は、一足先に星になったあの人への餞だ。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      高視聴率を上げていたテレビドラマを映画にしたいと申し出たことがあった。が、それを書いていた超大物脚本家は「あれはテレビで只で視せる代物。映画なんておこがましい限りです」と言って映画化を断った。「奇跡が降る街」という米映画は、バイプレーヤーばかりを集めて作った得も言われぬ傑作だった。いずれも本物のプロフェッショナルなのだ。この映画を観ていると悲しくなってくる。集められた役者たちが気の毒である。映画というよりまるで同窓会。そこで余興をやらされている?

    • 映画評論家

      吉田広明

      映画撮影が主軸となるが、その映画が何のために撮られているのか不明なため、その実現に向けて皆が一致団結という流れに説得力がない。外資のスタジオ買収という背景も大した意味はない。ただ脇役の人大勢で映画を作るというアイデアだけが根拠で、それでも話に曲折があり、俳優たちの群像劇になればいいが、ただ知った顔が、どこかで見たようなドラマ現場に現れ続けるだけの平板さ。100人出演と言うが、その100人の数合わせに引き出された脇役たちに対しても失礼な映画だと思う。

  • 砕け散るところを見せてあげる

    • フリーライター

      須永貴子

      青春ラブストーリーとサイコスリラーのミクスチャーに成功。悪意が溢れる世界の中で、高三男子と高一女子が出会い、お互いを守るために強くなっていくが、肝となる二人の会話が、作品の中で浮いてしまっている。膨大な量の台詞を、心地良い声音で、淀みなく畳み掛ける清らかな台詞回しは、聖歌隊の歌声のよう。中川大志と石井杏奈の技術が、演出のチューニングミスにより裏目に出てしまった。とはいえ、ヴィランを演じた堤真一の芝居だけでも、料金の価値はある。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      結局そうなるんだから、早く警察に通報すれば良かったのに、と思わないでもなかった。激情に駆られた者は必ず負けてしまう。人物像がくっきりしていて、ストーリーは頑丈でまっすぐ。良き映画に欠かせない要件がきっちり満たされている。ヒーローになりたいということが戯言でないことを少年は負けることで、少女は勝つことで証明した。今を写し撮っているようでいて、やはり普遍を描いている。無残ないじめや暴力に彩られているが、見終わってすっきりした気持ちになった。

    • 映画評論家

      吉田広明

      自分のいじめ被害などの不条理な不幸をUFOのせいにして耐えていた女子が、ヒーロー志向の、これも若干痛い先輩に気づいてもらえたことを力に、戦ってもいいんだと悟る。UFOとかヒーローとかトンデモな話が実は主人公たちの切実な心情を表現し、下らなくてアイロニカルな会話もその底に真情を隠しているという逆転は確かに原作のラノベ風で、そのひねくれ具合が今どきな印象。原作有りなので仕方ないが、欲を言えば巨悪召喚による大味な解決より、学校内での人心逆転劇を見たかった。

  • 椿の庭

    • フリーライター

      須永貴子

      古い日本家屋での暮らし、手入れの行き届いた庭園の季節の移ろい、三世代の女優。これらを映し出す映像の美しさが圧倒的だ。時間の流れの緩やかさと、濃密で潤いのある緑に、台湾映画に通じる楽園の匂いを感じていると、チャン・チェンが登場。唐突感と違和感は否めなかったが、世界観との相性の良さで押し切った。古き良き暮らしを尊んで終わるのではなく、未来へと自立する若い世代へのエールも伝わる。とはいえ128分は長い。監督以外の人がシビアに編集した版が観たい。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      庭の手水鉢に泳ぐ金魚、椿などの庭の様々な花々、緑の葉に這う虫や鳥の囀り。着物を着つけた初老の夫人の気品ある所作、その孫の素朴で瑞々しい佇まい。それらすべてが「美しい」のだ。いやになるほど聞かされ、見せられてきた日本の美。きれいに撮るものだなと思っていたら、監督は広告写真の名手らしい。物語はあまりにも予定調和で、やっぱりこうなんだなと思うことの連続である。それはそれで完成度が高ければいいとも思うが、いかんせん心に残るものはあまりなかった。

    • 映画評論家

      吉田広明

      庭があり、広縁がある、木造で、光線の柔らかい昭和のごく普通の住宅(といっても海が見える相当良い立地だが)。記憶が宿っていると言う言葉がすんなり腑に落ちる。登場人物たちだけでなく、カメラ自体もその家への愛惜を抱いているかのような映像は、カメラマンが監督だけに確かに見事なのだが一本調子。家をほとんど一歩も出ない作劇、死ぬ金魚や断末魔の蜂、落ちた椿など、象徴があからさまなのもその単調さに輪をかける。家を大切にすると言って買収しつつ破壊という展開もあざとい。

  • ドリームランド

    • 映画評論家

      小野寺系

      まだ見ぬ世界に巣立っていきたいという憧れは理解できるが、そんな青年の想いを小さな妹の視点で同情的に語っていく趣向は、女性に男性の身勝手さを応援させているような構図になってしまっていて、居心地が悪い。本作最大の演出的特徴だった、青年が大人へと成長するモーテルでの印象的な構図も、テーマを語る以外の意味で機能しているとは思えず、それぞれのシーンにも厚みを感じられないため、全体的に内容が薄いと感じる。マーゴット・ロビーの傑出した存在感に救われている。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      30~40年代を描いたいくつかの秀作と同質の、時代の感性を、終始まとっている。銀行強盗、男女の逃避行とくれば「俺たちに明日はない」が浮かび、期待も膨らむ。M・ロビーが脚本に惚れ込んで実現したそうで、さて彼女はF・ダナウェイに並ぶか……。結果は、彼女の情熱は存分に伝わり、かつかなりのシーンにドラマチックな要素は散見されるが、ストーリーには盛り上がりが不足。ロビーは能力もスター性も発揮しているが、相手のユージンのキャラクターが平凡だから、か。惜しい。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      田舎でくすぶっているツッパリ童貞君が逃亡中の美しき女性銀行強盗犯に出会い……というプロットは古典的とはいえ(かくいう自分もこの設定に類似したVシネマを撮ったことあります)総じて期待通りに展開する分かりやすさは娯楽映画としてはたいへん結構だし、モーテルの浴室で心を通わせてから初体験までの流れを長回しワンカットで捉えるなどの油断ならない演出もあるのだが、二人の事情や苦悩は理解こそできるものの、あまりに手前勝手な行動の数々に感情移入を阻まれてしまった。

  • パーム・スプリングス

    • 映画評論家

      小野寺系

      “ループする一日”という題材は、近年の同ジャンルである「ハッピー・デス・デイ」シリーズ、配信作品「ロシアン・ドール:謎のタイムループ」における様々な新趣向や、個性的な主人公の魅力によって更新されている感があるが、本作はこれら2作ほどには過激でも先鋭的でもないため、93年公開の「恋はデジャ・ブ」以前に後戻りしているように思える。主要キャストの悪ふざけはさして笑えず、ループを続けて日々を繰り返した末の登場人物の精神的な境地は、浅いところに留まっている。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      このタイムループ・コメディは、A・サムバーグの主人公がすでに長年ループ中にいて、C・ミリオティを巻き込む点がユニーク。よって二人の噛み合わない遣りとりが、上級生と新入生よろしく面白い。加えて、タイムループの中にいる二人を通して、人生の哲学的考察もちらり。つまり老いることなく好きな人との関係が輪の中で続く幸せと、反対に歳を重ねながら生き死ぬことの、どちらが意味ある人生か。大人のジョークが連発するお遊びモードの喜劇には意外な隠し味が仕込まれている。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      タイムループというSFジャンルは、ストーリーを転がすのが思いのほか困難であり、初期設定のセットアップを終えて、主人公がループの状況を受け入れて以降は、繰り返しの描写が増えて中だるみしがちで、劇中人物同様に作り手も物語をいかに循環から脱出させるかが勝負になってくると思うのだが、本作はあらゆる工夫を施した脚本とアップテンポな演出で退屈をはねのけた末に見事な着地を決めている成功例で、いくつかの思考実験要素がさりげなく練りこまれていることも素晴らしい。

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