映画専門家レビュー一覧

  • ザ・プレイス 運命の交差点

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      現代演劇の良くできた戯曲かと思ったが、米国のテレビドラマが原作ということで驚いた。相談者に課題を与えて望みを叶えてやるファウストのような男は、いったい何者なのか。どうして相談者たちは、カフェに座っているこの男に相談にくるのか。説明がないので、色々と余白を想像で埋めることができる。カフェの限定された空間を描くために、スタジオセットかと思うほど考えられる限りのアングルやフレームサイズ、人物の動線を駆使していて、映像を演出する側の挑戦が感じられた。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      生きている限り、人は何らかの欲望や願望から逃れられないと思っている。けれどそれが叶えられるとなると、そのために強盗をするだろうか。幼い少女を殺すだろうか。人が集まる場所に爆弾を仕掛けるだろうか。もちろん、謎の主人公が次々にやってくる相談者に課すこれらの課題は、犯罪行為ばかりではなく、全ては伏線。ワン・シチュエイションで紡ぐこの会話劇は、人生の哲学書の趣がある。誰もが楽しめると言えないのが難点だが、伏線の読み解きに没入する至福をたっぷり堪能できる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      舞台はあるカフェの店内のみ、しかも主人公は座席から一歩も動かない……どうしてわざわざ映画でこんな無謀な試みを……しかしちょっと待て、この状況、何かに似ていないか。映画館の客席だ。上映中の観客は基本的に限られた空間に留まり席を立たない。それぞれの心の声をセリフにすれば会話劇だって成り立つ。問題は主人公の男に感じる居心地の悪さだ。正体不明の男に抱く嫌悪感は、無名の傍観者でいることによって高みからスクリーンを見物している、自分自身へのそれと同じなのだ。

  • ワイルドツアー

    • 評論家

      上野昻志

      まず、山口県山口市で、YCAMが実際に行っている、採取した植物のDNAを解析し、植物図鑑を作るワークショップがあり、それに参加した中学生たちの行動を描いていくというのがベースだから、ごく淡々と展開するのは当然といえよう。唯一のドラマは、中学生の男の子が、二人同時に、年上の女性を好きになるというところで、それぞれの拙い告白に、いかにも、この年頃の男の子という感じが出ていた。そこでの演出を、それと感じさせない点が監督の技量だろうが、それ以上の起伏はない。

    • 映画評論家

      上島春彦

      様々な映像スタイル、というか正確には素材を記録する媒体、が混ぜこぜになる面白さ、またフィクションとドキュメンタリーの境界が曖昧になることの知的興奮は、見れば普通に分かる。一方、解説を読むとさらに面白さが増す感じもある。作品の成立事情や周辺情報、それに舞台となる施設の性質が鍵だから。だが、それって映画としてどうなんだろう。広報活動の一環に過ぎないような。一番面白いのは、ラスト・クレジットでキャストの名前と採集植物の名前がごっちゃに出てくるところかも。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      演技経験は違えども、「きみの鳥はうたえる」の3人組と同じく、ここでも少年少女の3人組が際立って魅力を放つ。そこに施された演出も撮影形式も異なるはずだが、同じように濃密な空間が生まれている。一時逗留者となった監督が描く山口は山あり沼ありの冒険活劇の舞台となり、ポストモダンなYCAMの建物を起点にDNA採集を行ったりと、SF映画を観ているかのようだ。虚構を作り上げて演技経験のない若者たちが演じるリアルは、職業俳優の演じるリアルを心地よく挑発する。

  • ナイトクルージング

      • 映画評論家

        北川れい子

        台詞しか聞こえてこないまっ黒な画面がかなり長く続く。その間、こちらは、耳からの情報で無意識的にイメージを固めているワケだが、画面に何も映らないことの目のやり場に戸惑いつつ、さりげなく意地の悪い冒頭のこの仕掛けに、映画を観ることの“観る”を実感したり。にしても全盲で映画を撮ろうとする加藤秀幸の言葉と手、更に全身を使っての挑戦と、プロの映像スタッフたちとの真剣なやり取りは、ある種、キワモノ的ドキュになりかねない壁を鮮やかに突破、完成作も楽しめる。

      • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

        千浦僚

        舞台挨拶つきの試写で監督が、皆さん勘違いしちゃいけない、これは視覚障碍者が頑張る映画ではなく彼に関わった健常者が頑張る映画です、と言って客席を笑わせていたが、ある意味そのとおりで、視覚がない人間が映画を監督するとなるとスタッフはこういう苦労をする、監督の意図を知る、コミュニケートするのにこれだけ手間がかかるということが描き出される。だが、それができるという発見。どうやればいいかが示された。本作が世界文化史上における何らかの始まりであれと願う。

      • 映画評論家

        松崎健夫

        映画は視覚的要素を欠くことができない芸術。その是非を確信犯的に題材にしながら、本作は「映画とはいかなるものか」と改めて問うている。完成した作品のみを公開するという手法もあったはずだが、ここでは延々と作品の製作過程をドキュメンタリーとして追いかけている。そのことによって、観客は完成された映像について考え始めるのである。そして、音だけで構成された映画冒頭20分間に脳内で想像したことと、出来上がった映像とにさほど乖離がないことに対して驚愕するのだ。

    • リヴァプール、最後の恋

      • 批評家、映像作家

        金子遊

        50代半ばのトム・クルーズやジョニー・デップが主演を続けているのに比べ、同年輩の女優でヒロインを演じている人がどれくらいいるか。そこにはジェンダーによる差が歴然とある。そのような意味でも、本作で50代後半の往年のスターを演じるアネット・ベニングが、30歳年下の青年俳優と堂々と恋に落ちてみせる姿が痛快だった。彼女の演技は、女性の美しさが肌の色艶や体のラインで決まるものではなく、恋した相手のために自己を犠牲にできるような心根にあることを教えてくれる。

      • 映画評論家

        きさらぎ尚

        親子ほど歳の離れた大女優と若手俳優の恋は、おそらく闘病を絡めた無償の愛を意図したのだろう。ならばG・グレアムの闘病生活の実態はさておき、死期の近い彼女を、家族の暮らす実家に引き取った若手俳優は、看護を自分の母親にさせず、自らすれば説得力が自然に増したのに……。ベテラン女優陣+実力の若手の俳優陣はそれなりに見応えはある。が、A・ベニングは素敵に歳を重ねた女性として意図に応えているが、50年代ハリウッドの女優オーラを感じさせず、平凡さが拭えない物語に。

    • 映画 少年たち

      • 映画評論家

        北川れい子

        数多く登場する“少年”たちの中には、〈EXILE〉系のマッチョな“男”も少なくない。人気アイドルグループになるまでには、努力はもちろんのこと、かなりの歳月も要するということで、グループアイドルの高齢化(!?)を実感したり。それにしても本木監督がミュージカル映画まで撮るとは意外だった。ジャニーズの人気ステージの映画化だそうだが、少年たちの収監服を色分けしてのダンスバトルは、カメラ移動も面白く、それなりに楽しめる。でも一番の見所は旧奈良監獄でのロケ。

      • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

        千浦僚

        驚いた。ジャニーズ自体が監獄みたいだと自分たちで言っちゃうのかと。あと反抗やアウトローということが記号と化してることにもめまいが。そしてこれはそんなに変でもないが、刑務所ものでありながらごく自然に男色の気配が欠落してること。その清潔さ、男性の暴力性の去勢がかの巨大カンパニーの人気の秘密だろうが。抜群な出演者らのフィジカル、それを捉える八十年代歌番組的撮影。幾重もの独自文化に包まれたジャニー氏の遺言。“少年たち”がそれをどう思うかは知らない。

      • 映画評論家

        松崎健夫

        映画冒頭で展開されるワンシーン・ワンカットのダンス場面は、役者と撮影スタッフの“動き”がシンクロすることで、スピード感と躍動感を生み出しているのが出色。映画だからこそ可能な立体的な構図を導きながら、舞台版同様の“見立て”を観客に強いる演出を施している点も一興。かつて舞台版で主役を演じていた戸塚祥太が本作では“継承”を感じさせる役を演じている点に、作品自体が持つ“継承”という要素を、歴代ジャニーズたちが繰り返してきた“継承”として象徴させている。

    • 記者たち 衝撃と畏怖の真実

      • ライター

        石村加奈

        ロブ・ライナーが本作を手がけたことに、まずは大きな意義を感じる。監督自ら、主人公たちの上司、ジョン・ウォルコットを演じているのも魅力的だ。アメリカ政府の巨大な嘘に立ち向かったナイト・リッダーの新聞記者たちの孤立無援の戦いに、アダム・グリーン元陸軍上等兵のドラマを盛り込んだところは、名匠ならでは。「数字で世界がわかる」というアダムの視点が物語の軸となる。中でも大事な数字は、アダムからのワンクエスチョン「なぜ戦争を?」と、発見された大量破壊兵器の数だ。

      • 映像演出、映画評論

        荻野洋一

        幾重かの評価を仕分けしなければならない作品だ。まず、保守化と反動化が激しい現代社会にあって、イラクにおける米国の軍事行動に疑問を投げかけた本作のナイト・リッダー社の報道姿勢に対し、多大なる賛意が得られるべきであること。次に、良質な米国映画を撮れる名手R・ライナー監督も、かつて誇ったほどの手さばきはすでに失っていること。さらに、主人公の妻M・ジョヴォヴィッチの「戦火の結果、母国(ユーゴスラビア)がバラバラよ」という台詞があまりにもナイーヴであること。

      • 脚本家

        北里宇一郎

        ニクソン、トランプの悪名に隠れて目立たないようだけど、この大統領も相当ひどい。題名通り、ジャーナリストたちがその悪行を告発するが、彼らが一流新聞社に所属してないところが目を惹いた。大手マスコミ界の隙をつく独立遊撃隊みたいで。そこに自由もあり弱さもあるという葛藤があって。監督自ら、編集長を演じて指揮をふるう張り切りぶり。脚本・演出ともに手堅い。ただこのところの記者映画のパターンをなぞったような展開なので少し型通りの感も。「バイス」と合わせてご覧を。

    • ダンボ(2019)

      • 翻訳家

        篠儀直子

        サーカス団が巡業に出発するオープニングからC・ファレル登場までの流れるような導入部で、素晴らしすぎて早々に泣く。もっと落ち着いたペースで見せてほしい気もするが、どこから集めたのかと思う見事な顔の役者たち、ダニー・エルフマンの劇的な音楽、神経の行き届いたT・バートン演出の名人芸を、最後までぜひ楽しまれたい。ディズニー映画なのに、M・キートンがノリノリで演じる悪役がテーマパーク経営者なのがめちゃロック。科学少女ミリーが最後にたどり着く場に心打たれる。

      • 映画監督

        内藤誠

        さすがティム・バートンの演出だけあって実写映画化のダンボが誕生するところからして質感がある。貧しいサーカス一座の哀愁と笑いもよく描かれ、やがて一同が金のある大舞台に移行していく場面はメリハリがあって、見事。コリン・ファレルやエヴァ・グリーン、マイケル・キ―トンらの演じるキャラクターが明快であるのとともに、物語が実に分かり易い。群衆の頭上をダンボが大耳で風を切って飛んでいくのを見ると、バートンにはさらにディズニー・アニメの実写化を期待してしまう。

      • ライター

        平田裕介

        母を亡くした姉弟と母と引き離されたダンボ、腕を失った曲馬師と巨大な耳を持ったダンボ。人間のキャラたちとダンボの境遇を重ねた展開はウェルメイドしているが、空を飛ぶだけで終わりの旧版と比べれば内容があると言える。だが、旧版は“ピンク・エレファンツ・オン・パレード”を堪能するトリップ映画でもあるので、それをバートンがいかに膨らませるか期待したが軽いオマージュ程度で残念。でも、ファミリー向けにしておいて某世界的遊園地のダーク・サイドを揶揄する姿勢は◎。

    6781 - 6800件表示/全11455件

    今日は映画何の日?

    注目記事