映画専門家レビュー一覧

  • キングダム(2019)

    • 映画評論家

      松崎健夫

      瞬きを抑制することで高貴さを表現する吉沢亮のアプローチ。無表情ながらも姿勢や所作に対する細やかな配慮によって出立ちを構築し、荘厳さを感じさせる独特のオーラを己に纏わせている。漫画原作の映画化には再現性が求められがちだが、漫画の特性でもある“明確なビジョン”を超越したキャラクターを吉沢は実践してみせている。坂口拓の傍若無人ぶり、大沢たかおの物の怪ぶりなど、脇のキャラクターにも抜かりが無い。が、一年に一本製作しても完結に十年以上を要する憂慮はある。

  • ハンターキラー 潜航せよ

    • 翻訳家

      篠儀直子

      ロシアの大統領と国防相が、例によってなぜ英語で会話しているのかとかあるけれど、潜水艦内のシーンも、地上の特殊部隊のシーンも、ディテールからちょっとした言動まで「なるほど!」と思わせるリアリティがあり、それが全篇の緊迫感を支える。勝手なイメージかもしれないが、頭脳戦やクライマックスのまさかの決着方法は、イギリス映画ならではの面白さだと思える。ジェラルド・バトラーを筆頭に、この人の下で働きたいと心底思わせてくれるリーダーが、複数登場するのもうれしい。

    • 映画監督

      内藤誠

      国防省のクーデターで人質になったロシア大統領を第3次大戦の恐れがあるとしてアメリカの攻撃型原潜ハンターキラーが救出に向かうという途方もないストーリー。久しぶりの潜水艦もので、技術的には進歩している。だが、この一見、派手なサスペンス・アクションの核はジェラルド・バトラーが演じる、海軍兵学校も出ていないジョー・グラス艦長の言動である。原作者の一人が元原潜の艦長で、世界の破滅が個人の力量にかかっているという設定。それはさておき、彼は理想の上司だ。

    • ライター

      平田裕介

      潜水艦だけを舞台にした話になっておらず、米特殊部隊による露大統領救出作戦がガッツリ絡んでくる。ラフでイージーなノリだが、潜水艦映画とコマンドもの両ジャンルの醍醐味を味わえるお得感があるし、スリルの配分もどちらかに偏っていない。まさかジェラルド・バトラーの艦長が、銃を手に陸に上がってしまうんじゃないかとも危惧したがそれはなし。米露の海の男たち、露大統領とその警護、特殊部隊の隊員たちと、それぞれに仁義、忠義、敬意のドラマを配しているのも悪くない。

  • 多十郎殉愛記

    • 評論家

      上野昻志

      多十郎が住まい、彼に心惹かれるおとよが、なにくれとなく世話を焼く住居と、その周囲の路地を捉えた画面に感服した。むろん、路地も家もセットに違いないが、それがよく出来ているという以上に、それを映すショットが、いかにもうらぶれた街の一角という空気を醸し出しているのだ。高良健吾演じる多十郎は、当然ながら、阪妻のような渋みはないが、舞台となる場がそれを補っている。そして、次第に激しさを増していく剣劇、そこでも多十郎が走る空間が生きている。さすが手練れの技。

    • 映画評論家

      上島春彦

      中島監督の優れたちゃんばら記録映画中の短篇時代劇を見た時から、次なる展開を期待していただけに、堂々たる長篇として実現したのは素直に嬉しい。しかも配役も豪華。高良扮する剣の達人が、幕末の御時世、腕は立つのに人を斬る気がないという設定も効いている。ただ問題は弟を護るための殺陣、というコンセプトが何か煮え切らないこと。狂暴さに欠けるというか。せめて騒動の発端になった二名のザコ町方役人はどうにか懲らしめてほしかった。童歌が「関の弥多ッぺ」みたいで良い。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      権力にも大衆にも背を向けた孤高の若者を主人公にしていた70年代の中島貞夫が現代に甦ったかの如く、高良と多部がもたらす若々しさが全篇を鮮やかに彩る。マキノ譲りの庶民描写と絶妙なショットの繋ぎを堪能し、時代劇で見慣れたオープンセットの長屋までも見事な装飾と空間を活かした演出で輝かせることに驚く。かつての中島映画の鉄砲玉たちは愛する女には目もくれずに自滅していったが、もはやそんな気取りは不要とばかりに殉(純)愛を高らかに謳い上げる終盤にも深く感動。

  • 芳華 Youth

    • ライター

      石村加奈

      ヒロインのシャオピンを演じた、ミャオ・ミャオは「初恋のきた道」(99)のチャン・ツーイーを彷彿とさせる可憐さだ。貧乏な出自も非常識も彼女のせいではないが、一旦異端とみなされた彼女は集団生活でいじめられる。逃げ場のない彼女は、涙が枯れた後の呆然とした顔で、我慢するしかない。切ない。一度だけ、積年の恋情を抑えきれなかった不器用さから、模範兵を返上して流浪の運命を辿るリウ・フォンの、死にきれず、戦地で苦悩する横顔の陰影。若者の邪気のない顔に胸を打たれる。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      文化大革命で揺れた中国70年代が、このような流麗たる筆致によって大河ドラマと化す時代が到来しようとは。80年代に第五世代が台頭して以降、私たち外国の観客が中国映画に見てきたのは、文革で弾圧された知識層の被害実態をめぐる苦渋の描写だった。ところが本作の懐古主義は、すでに堂々たる普遍性をまとっている。アジア・フィルム・アワード作品賞という栄冠を手にしたこのスペクタクル性は、現代中国映画の変容を高らかに宣言した。その是非を問うのはこれからだろう。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      一様に笑顔を浮かべた中国舞踊団は不気味だ。でもその一人一人に、個性があり葛藤もあってというこの映画に魅せられて。文革の終焉から中越戦争を経て経済社会へと至る約20年間を生きた若者たち。その群像から浮かびあがったのは、体制からはみ出た二人の男女だった。そこに中国政治への批判を潜ませる。理想的優等生だった男が、どんどん堕ちてゆく。その皮肉。そんな男に秘かな恋情を抱いて、修羅場を生き抜いた女。彼らが遂に再会の幕切れに眼が潤んで。流れるような映画絵巻!

  • 荒野にて

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      これがガス・ヴァン・サントの新作ではないなんて……。15歳の少年はオレゴン州ポートランドにある競馬場で仕事を見つけ、ワシントン州スポケーン市で過ごした中学時代の思い出を抱えつつ、馬を救うためにワイオミング州を目指す。筆者はスポケーン市に暮したことがあり、北西部の風景、郊外、人々のアクセント、ピックアップのトラック、トレーラーハウスまでが懐かしく感じられた。主演俳優は「マイ・プライベート・アイダホ」のリヴァー・フェニックス以来の繊細な演技で魅力的。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      A・ヘイ監督の、心の内を静かに見つめるうまさは前作「さざなみ」で証明済み。今回はさらに磨きがかかったよう。その一つがアメリカンビスタで撮影したこと。結果、画面(広大な荒野)に映る人間がより小さく見えて、居場所を失くした少年の孤独や寂寥が胸をヒリヒリさせる。主人公を演じる俳優の申し分ない容姿と繊細な演技は、これ以上悪いことが起きないようにと、終始気をもませる。彼を取り巻くブシェミをはじめ、クセ者俳優の面々の存在がそれに貢献大なのは言うまでもない。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      少年に降りかかる過酷な現実がつらい。恵まれているとは言えない環境で育ちながらも、慎ましく誠実に生きていただけなのに、試練ははるかに重く、大人たちは彼に過剰に手を差し伸べることもしない。たった一人で荒野に放たれた少年の孤独が胸を打つのはそれが真理だからだ。少年を演じるチャーリー・プラマーは繊細なのに力強く、広大なアメリカ大陸の光景はその圧倒的な野生ゆえに厳しいが、同時にたくましさと豊かさを感じさせる。寄り添いながら歩く少年と馬の姿はとても尊い。

  • 魂のゆくえ

    • 翻訳家

      篠儀直子

      誰もが言うだろうとおり、「タクシードライバー」と見せかけて、という映画だが、スタンダードサイズで色の抜けた映像にクラシカルな文字で題名やキャスト名等がかぶさるオープニングが古典映画を思わせるほか、設定はベルイマンとブレッソンの某有名作品を参照していて、彼ら、あるいはカール・ドライヤー的なものを志向していることは、「霊性」を帯びた画面からも見て取れる(興味深いことにそれはホラー映画の画面に似る)。あるシーンでのA・セイフライドの髪の動きに深く感動。

    • 映画監督

      内藤誠

      「タクシードライバー」の主人公と同じく、ニューヨークにある教会で牧師を務めるイーサン・ホークもまた、現代アメリカが抱える、日常的な諸問題に悩みながら生きている。イーサンは息子にイラク戦争の従軍牧師になるように勧めた結果、彼を戦死させ、そのせいで妻とは離婚。さらに地球温暖化を怖れるあまり、自殺する信者もいて、物語は途方もない展開になる。しかしポール・シュレイダー自身、牧師の子なので、教会や信者との関係はリアルに演出され、撮りたかった意欲が伝わる。

    • ライター

      平田裕介

      厳格なクリスチャンの両親に育てられたP・シュレイダーが抱いてきたであろう宗教の矛盾や欺瞞への怒り、それでもそこに神秘や奇跡があるはずだという願い。宗教と企業の癒着を見せられてゲンナリしていると、突如として宇宙へと繋がるスピリチュアルな場面には、本気でハッとさせられると同時に彼の想いをひしひしと感じさせられた。中盤からは、シュレイダーが脚本を務めた「タクシードライバー」のトラヴィスよろしくE・ホークが狂気に駆り立てられる展開となっていて身悶え。

  • ハロウィン(2018)

    • 翻訳家

      篠儀直子

      何かを憎めば人はその憎しみの対象と似てしまうものだとはよく言われるが、この物語はまさにそう。殺人鬼の狂気が感染し、人生が狂わされていく。しかしマイケルがいなくなったら、マイケルに取り憑かれているローリーもまた生きていけなくなるのでは、などと考えさせられ。小道具を活用し、衝撃的シーンへの段取りを丁寧に積み上げていく手つきが堅実。アクションスリラーの面白さがあるのでホラーが苦手な人にもお薦め。ジェイミー・リー・カーティスが言うまでもなく素晴らしい。

    • 映画監督

      内藤誠

      ハロウィンの夜、なんの罪もない少女たちがブギーマンの仮面をつけたマイケル・マイヤーズに襲われる。それがトラウマとなってローリー・ストロードは家庭生活も破綻する。マイケルを研究する精神科医や仮面を突きつけて取材をするジャーナリスト男女たちが自由になったマイケルに連続して殺されるのはまだしも、40年も武装して怯えながらマイケルの出現を待つローリーの物語は、あまりにも暗すぎる。登場する男性すべてが頼りなくて、ローリーと、その娘、孫娘の女性3人だけが闘う。

    • ライター

      平田裕介

      なんだか「ターミネーター2」みたいな話だが、マイケルという怪物の存在によってジェイミー・リー・カーティスもまた彼の討伐に取り憑かれた怪物となってしまったという設定が素晴らしい。二階から転落するも瞬時に姿を消したり、教室の窓越しに佇んでいたりと、第一作でマイケルが担っていた不気味なシーンを彼女で再現するあたりも怪物化に拍車を掛けていて◎。こうしてふたりの殺る気を見せつけて迎える対決にしっかりと燃えた。間の7作がないものとされるのは寂しいが……。

  • JK☆ROCK

    • 映画評論家

      北川れい子

      なんだァ、現役の女子高生バンド“DROPDOLL”の3人は、ほとんど前座扱いじゃないの。しっかりそれぞれの役を演じ、歌って演奏しているのに、物語のトリ(真打ち)は、音楽と仲間から離れていた山本涼介の意地だかプライドっていうのだから、肩すかしもいいところ。本気で音楽をやりたい少女たちに比べたら、一度はバンドを解散した男子たちのゴタクや言い訳などただ面倒臭いだけ、あっちでやってよ。バンドパフォーマンスにしても、DROPDOLLの方が断然上等!!

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