映画専門家レビュー一覧
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コンジアム
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映画系文筆業
奈々村久生
これぞ文字通りの「カメラを止めるな!」。行き過ぎた不適切動画の真性悲劇。キャンプ気分でリア充を満喫する男女グループの登場に、こいつら絶対にひどい目に遭うな~という予感しかない導入はサバイバルホラーの定石だが、その舞台が自主的なライブ配信であるところが現代ならでは。視聴者数に姿を変えた視聴率はもはやノルマではなく自己責任なのだ。しかしGoProやドローンなど撮影機材のスペックがアップデートしている分、怪奇現象自体の描写やその?末の古くささは否めない。
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こどもしょくどう
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評論家
上野昻志
子ども食堂というと、NPOなどが営む、家庭で食事が摂れない子どもに食事を提供する場を指すが、本作は、そうでなく、食堂を経営している家の子が、まずは友だちを、ついで、親に放置された姉妹を、実家に連れてきて食事をさせるという、あくまでも子どもが主体の、自然発生的な関係として描いているのが、新鮮だった。とくに、姉妹が寝泊まりしている車が、悪戯半分で壊され、父親が姿を消すあたり、ことさら強調しない表現が逆に、現在、子どもが置かれている状況を感受させて良かった。
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映画評論家
上島春彦
いじめ描写がある映画は嫌いだが、これは例外。ヒンコンとあだ名のついた子供を少年野球のチームメイトがいじめぬく。この普通の連中の悪意が何より怖い。主人公は「見て見ぬふりをする」姑息な子供ではあるが、良いところもある。少なくとも、いじめに加担しない。また、彼よりさらに悲惨な境遇の姉妹を何とか救おうとする。物語の中核はヒンコンへの贖罪もはらんでいると分かる。少女の回想するかつての家族の平和ぶりがかえって奇妙な印象あり。虹色の雲って本当にあったのかな。
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映画評論家
吉田伊知郎
こどもの世界に焦点を絞ることで表題の食堂が生まれた背景を描く。百戦錬磨の子役を揃えつつ抑制された演技を引き出しているのが見事だが、是枝裕和的なドキュメンタリータッチと、作りこまれたドラマの混在が効果的とは思えず。むしろドラマを盛り込んでも、この子役たちなら過剰にならずに演じる力量があったのではないかと思ってしまう。近年抜群の安定感を誇る常盤貴子が絶品。メインだと大仰になる吉岡秀隆が脇で抑えると、こんなにも魅力的に映るのかという驚きもあり。
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ベトナムを懐う(おもう)
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ライター
石村加奈
20年前の人気舞台の映画化だそうだが、雪の中のニューヨークをはじめ、ベトナムの回想シーンなど、素敵なロケーション(涙のラストシーン)が作品の世界観を豊かにする。さらに主人公トゥーを演じた喜劇役者ホアイ・リンの陽気さが、作品世界を明るく照らす。長年の名コンビ、チー・タイとの丁々発止も楽しいが、アメリカ育ちの孫娘タムとのやりとりは見応えたっぷり! 家族ならではの、激しい言葉の応酬の中に、そこはかとない郷愁や絶妙な温もりを感じさせる。リンの本領発揮である。
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映像演出、映画評論
荻野洋一
舞台作品の映画化の拙いパターンに陥っている。各シーンはほぼ板付きで、人物同士の会話を自覚を欠いたカットバックで交互に写し出す。故郷喪失者の嘆き、亡き妻への思慕という主題はいいとしても、問題は、それらがただ心情告白やら日記の読み聞かせやらという形式で、映画的工夫も施さないまま、そして二項対立の図式性に依拠したまま持続することだ。とはいえ、さすがに地元ベトナムでの回想シーンはきれいに撮れており、一定のアクセントになっている。
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脚本家
北里宇一郎
在米ベトナム人家族の話。もうそれだけで身を乗り出した。祖父はボートピープルの苦難を経て、今ここにいる。もはやアメリカ人そのものの孫娘と、口論が絶えない。真ん中にいる父親は生活に追われ心に余裕がない。舞台劇の映画化。少し台詞が説明的。だけど祖父が親友と語り合う青春の追憶。その故郷の風景の瑞々しさ。監督は在米2世。それゆえか、昔のベトナムに対する憧れが匂う。ただ、あの戦争のことがさらりとしか描かれないのが気になって。そこは未だふれたくない傷なのか。
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ソローキンの見た桜
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評論家
上野昻志
いま、なんで日露戦争絡みのお話なのか? まさか、日ロが、北方領土を棚上げしたまま平和条約を進めようとしていることへの後押しでもなかろうが。それはともかく、説明的な言葉や演技が眼につくわりに、人物像の描き方が稀薄で底が浅い。ソローキンは、ロシアの第一革命に加担してスパイ活動をしているというのだが、それも説明だけ。となると、あとは、日本の看護婦との恋の物語だけになる。日露戦争では、日本も太平洋戦争では無視した捕虜の保護をしたというのが唯一の教訓か。
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映画評論家
上島春彦
実話というか史実に触発された物語、ということかな。斎藤工は真相を知っていて阿部純子をロシアに連れて行ったのだろうか、どうも分からない。編集で切ったのかな。そうしたもやもやは欠点だが、他は面白い。特に恋人たちが歳月を隔てて日記で再会するというコンセプトが秀逸だ。脚本家はこの趣向で「いける」と思ったのだろう。帝政からロシア革命へ、という時代の動向に愛媛松山市民の進取の気性が相まって、明治というより何かもっと現代的な物語を、この映画は紡ぎ出している。
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映画評論家
吉田伊知郎
日本とロシアを股にかける監督に相応しい企画かつ、どちらかの国を過剰に顕彰する作りになっていないので安堵。ロケーションも良く、時代の再現ぶりやルックも凝っているだけに、現代パートが不要に思える。捕虜収容所ものとして正面からドラマを作ることが出来る材料が揃っているだけに、終盤の怒濤の展開がモノローグで処理されてしまうのは拍子抜け。「孤狼の血」に続いて阿部純子が魅力的なこともあり、全部とは言わないまでもサスペンス豊かなメロドラマになり得たはず。
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バンブルビー
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翻訳家
篠儀直子
10代の子が仲間同士で観ても、デートで観ても、家族で観ても、大人がひとりで観ても楽しい万能映画。バトルシーンもかっこいいが、軟らかい画調を選択し、80年代青春コメディのよさを甦らせているのが何より素晴らしい。目の表情が豊かで、ガレージの隅っこで体育座りしたりするバンブルビーがいちいち可愛く、ベビーフェイスのロック少女チャーリーは、ヘイリー・スタインフェルド最高の当たり役と言えそう。小道具の使い方も上手で、あのエピソードが大詰めで生きてくる構成に感動。
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映画監督
内藤誠
宇宙を舞台にしたアニメのアクションから地球のライブ撮影に切り替わるところが素晴らしい。「トランスフォーマー」は若者に人気があってヒットしたけれど、新シリーズも車からバンブルビーへの変身が愉快で、ロボット好きには受けるだろう。クリスティーナ・ホドソンの脚本はワーゲンに乗り、ジェームス・ディーンの「理由なき反抗」を見ていたシニアの感情に訴え、懐かしい作品となっていた。ヘイリー・スタインフェルドの屈折した気分の描きかたなど、製作スタッフも楽しんでいる。
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ライター
平田裕介
苦悩や傷を抱えたヒロインが、そうしたものを乗り越える場としてクライマックスが機能。ストーリーに重きを置いたうえで、見せ場を構築する。作劇法として当たり前すぎる術なわけだが、従来の「トランスフォーマー」シリーズがそれをことごとく無視していたので驚くと同時に異様に興奮してしまった。バンブルビーとヒロインの日々をいつまでも眺めていたいと想わせてくれるだけでも映画として成功しているといっていいだろう。このテイストでシリーズを続行させてほしいのだが。
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ビリーブ 未来への大逆転
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翻訳家
篠儀直子
アーミー・ハマー演じるマーティンの「理想の夫」ぶりにもぐっと来るが、もうひとつ見逃してはならないのは、この映画が女三代の継承の物語として構築されていること。個人的には、ハーバード法科大学院に女子学生入学を初めて認めた学長が、女性の権利を擁護する進歩的ヒーローとして描かれそうなものなのに、(現実にこういう人だったのか、検証する材料をわたしは持たないが)性差別意識を露わにする人物になっていて、ルースが倒すべき敵として立ちはだかることに興味を惹かれる。
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映画監督
内藤誠
ルース・ギンズバーグを演じるフェリシティ・ジョーンズが男性優位の社会に断固対抗して、颯爽と歩く姿は、さすが時代のヒロインという感じ。だが、1956年当時、彼女が入学したハーバード法科大学院には女子トイレがなかったとは驚く。しかも女性、母親、ユダヤ系であることで、夢であった弁護士になるのさえ容易ではなかったのだ。それだけに、弁護士となってから女権拡張のために戦う長い法廷場面は圧巻。彼女の甥が脚本を書き、女性が監督していて、家族の関係も興味深い。
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ライター
平田裕介
女性の権利を?むだけではなく、男女それぞれに植え付けられた“らしさ”も取り払おうとするギンズバーグ。その真の平等精神に加え、物語の核となる裁判で彼女が助けるのは老母の介護に困窮するオッサンである。おかげで中年男も引き込まれるし、M・レダーならではの無駄なき演出、きっと彼女も映画業界でジェンダーにまつわる嫌な経験をしてきたんだろうな……というこちらの勝手な思い込みも相まって見入ってしまった。とりあえず、F・ジョーンズはギンズバーグに似ていない。
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ブラック・クランズマン
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翻訳家
篠儀直子
ブラックコメディ(この「ブラック」に人種的意味はない)と言っていいタッチで進行し、端正なカタルシスが待ち受ける。これだけなら70年代黒人映画オマージュを含んだ爽快な娯楽映画で終わるのに、そうしないのがスパイク・リー。そのことは、序盤のクワメ・トゥーレ(演じるのは「ストレイト・アウタ・コンプトン」でもかっこよかったC・ホーキンズ)の演説に、映画全体を不均衡にさせかねないほどの強さを持たせていることからも明らか。A・ドライヴァーが内省的な持ち味を発揮。
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映画監督
内藤誠
グリフィスの「國民の創生」からトランプまでアメリカの歴史が映像として引用されるのを見ながら70年代のコロラド州の町でジョン・デイヴィッド・ワシントン演じるストールワース青年が黒人として初めて、刑事に採用されたという事実に驚く。しかも当時の新聞にKKKに関する広告まで出ていて、それが事件の発端となる。スパイク・リー作品がラジカルになる歴史的事実は充満しているわけだ。アダム・ドライヴァーが演じる同僚の白人刑事や悪役のトファー・グレイスが好演。娯楽性もある。
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ライター
平田裕介
映画人だからこそKKKと切っても切り離せない「國民の創生」を許さない姿勢、コミカルでシニカルなタッチ、そして爆破をめぐるシークエンスで発揮するサスペンスとしてのスリルを忘れぬ職人気質。ヘイトの精神が堂々とまかり通るようになった現在のアメリカ社会に対する怒りが、スパイク・リーの持ち味を炸裂させまくる。さらに、ラストで現実のヘイト関連事件の映像を引っ張り出し、国家の緊急事態を表す逆さになった星条旗を映し出すあたりには本気の危機感が伝わってくる。
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探偵なふたり:リターンズ
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批評家、映像作家
金子遊
以前ミステリーの脚本を書いていたので、トリックや推理にはうるさい方だ。妻子を抱える中年男性によるバディもので、喜劇的な作品としておもしろく見たが、推理オタクの探偵が観察眼によって「流行らない中華料理店の料理人」を推理する件は、ありきたりで弱い。軽いタッチの作品なのはわかるが、犯人の動機から主人公に逆さに推理させるのはご法度だろう。現場に残された物証で観客も一緒に推理できるようにすべき。いくら元刑事でも、警察が捜査に動いてくれる現実感もわかない。
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