映画専門家レビュー一覧

  • 女と男の観覧車

    • ライター

      平田裕介

      キャラクター別に色味を変えていくヴィットリオ・ストラーロのカメラ、W・アレンならではのヒリッとしてニヤッとする台詞の応酬、そこで用いられる長回しにも魅せられるが、なにはともあれK・ウィンスレットである。「レボリューショナリー・ロード~」での彼女にも重なる役柄なのだが、たるんだというか、熟し切ったというか、くたびれたというか、年相応の迫力を醸す体つきと顔つきがキャラの凄みをも増幅。まさにヒロインとして物語を引っ張り、観ている者の心を持っていく。

  • 可愛い悪魔(2016)

    • 映画評論家

      北川れい子

      3年前に世間を騒がせた男性器切断事件。妻の不倫相手の弁護士のナニを、元プロボクサーだったという夫が、植木バサミでチョン切ったというアレ。この事件にひねりを加えて描いているのだが、3人の当事者のいきさつを再現ドラマ風に描く一方、妻につきまとう自称フリーライター男を登場させての進行は、台詞も演出も笑っちゃうほど薄っぺらで、もうイライラ。不倫妻の七海ななが空気人形のように受け身一方なのもイタダケナイ。ロマンポルノ初期ふうなからみの演出はワザと?

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      実際の事件がおもしろすぎて、いや、このおもしろいとはゲラゲラ笑うことではなく、加害者被害者どちらの立場の男性にでもなり得る自分を感じ、慄然としつつインタレスティングということだが、これを映画化して見せてくれることがもうバンバンザイ。なおかつちゃんといまおかしんじ脚本、佐藤寿保映画。もっと美術や映像がダークでヘビィであってもよかったが。私としてはタイヤが飛ぶとかJK作家が××を強要よりも切断チンコが川にプカプカ浮かぶほうに映画を感じてしまう。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      カラオケボックスで取材を受けるヒロインの表情がめまぐるしく変わる。それは実際に彼女の表情が変化しているのではなく、モニター映像の反射によって表情が七色に染められているに過ぎない。だが、外からの光によって変化する表情は、外からの視線によって彼女のある一面が引き出されていることを示唆しているようにも見える。観客が“覗いている”ような構図を点在させ、“覗かれる”“見られる”といった外的要因によると錯誤させることで、複雑な内面を解体してみせているのだ。

  • わたしに××しなさい!

    • 映画評論家

      北川れい子

      好奇心を煽る伏せ字のタイトルについ乗ってしまう人もいるだろうが、何のことはない、手を替え品を替え作られている胸キューン系のラブコメの変型版で、もう勝手に××していれば! 恋愛とは無縁の女子高生のウェブ作家が、恋愛小説を書くために仕かけたヤラセの恋。高圧的な態度で標的(!?)にアレコレ命令する彼女の内心の不安が見せどころなのだろうが、ウソの恋が本気にというミエミエの展開もおママゴト並。映画化権を賭けたライバル作家との公開バトルにも××しちゃう。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      私という四十過ぎのふたりの子持ちのハゲオヤジが継続的に延々とキラキラ青春恋愛映画を観続けさせられて何になる、でもやるんだよ!と今月も観たこの系統。文芸と実体験反映に関するヘミングウェイ的アプローチを恋愛小説と恋愛でやるような構造が面白くなくはないし既にテレビドラマ版が作られていたそうでそのスタッフキャストそのままという縛りもプラスに働いているだろうと思う。クライマックスは小説速書きバトルを題材とした近未来SF「決戦!プローズ・ボウル」みたい。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      恋愛経験ゼロの主人公が恋愛小説執筆のために恋をしてみるという姿は、例えば「殺人を知らなければミステリーが書けないのか?」という命題と同様のように思える。ところが本作は「実体験に勝るモチーフはない」と描くことで、奇しくも恋愛パターンを解析するという構成になっている。脚本・北川亜矢子の特徴のひとつである“御伽噺や童話の引用”が活かされつつ、階段の上下という位置関係によって、パワーバランスやヒエラルキーといった人間関係を視覚化させている点も一興。

  • カメラを止めるな!

    • 評論家

      上野昻志

      撮影現場の右往左往が好きなんだろうな、この監督。最初のシーンで監督役を登場させ、撮影風景と見せながら、表にゾンビが出たあたりから、スプラッター・ホラーに持ち込む手順はなかなか。反面、草むらでの追っかけでは、撮影の失敗と見えるショットがあるし、追われるヒロイン役が屋上で泣き叫ぶショットなど長すぎると思わせもする。ところが、後半、それらが撮影手順の狂いで、そうなったと見せられるので、思わず笑うのだが、これをシリアスなドラマを軸にやるのをぜひ観たい。

    • 映画評論家

      上島春彦

      カメラのレンズについた血をぬぐう布が見えたので「後で何かあるな」とは思ったのだが、ここまで仕掛け満載とは。さらに前後半でキャラが変わっちゃう人もいて、それがまた過剰なまでに合理的。そう、これは終わったところからまた始まる映画。どうしてそうなるかは見ていただくしかないわけだが、アクシデントとアドリブが、綿密なはずだった準備をあっさりほったらかしにして勝手に展開していく様はアッパレと言うべし。ただ感受性が鈍い観客には理解できないかもしれない。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      パロディは原典に匹敵する熱量が必要とされると言いつつ、そう簡単にいかないのが常だが本作は違う。1カットでゾンビ映画が展開する冒頭37分は手法が言い訳になっておらず、多少の瑕瑾はあれども感嘆。中盤のメイキングパートは落ちると思っていると、これがショー・マスト・ゴー・オンを成立させるために不可欠な描写だったのかと気付かされるラスト30分。冒頭の〈瑕瑾〉も全て計算尽くしだった! 不自由さを課して壮大な自由を獲得してみせたとんでもない才人監督の登場である。

  • キスできる餃子

    • 評論家

      上野昻志

      宇都宮の餃子に、子連れ離婚の女に、壁にぶつかったプロゴルファーの三題噺。離婚話の途中で切れて、亭主の顔を殴った勢いで、故郷の宇都宮に帰ってくる足立梨花扮するヒロインの跳ね方は悪くないが、肝腎の餃子作りが、見た目だけで終始するのが、なんとも物足りない。いや、餃子を焼くところは何度も出てくるよ。だけど、それ以前の、材料の選択や配合などがスルーされるので、どんな工夫がされているのか、わからない。これじゃ、タイトルが目を引いただけで中身なし、で終わる。

    • 映画評論家

      上島春彦

      宇都宮だから餃子だという御当地的態度は正しい。また主演が絶対の御ひいき足立梨花だから十分楽しめるものの、客観的にそれだけでは評価は難しい。何といっても話が薄い。餃子篇とゴルフ篇であぶはち取らずになった観がある。もっとも企画のコンセプトは二つを融合させるところにあったわけだが、ミスマッチのおかしさ狙いにしてはありきたりな出会いに終始する。男をいい人にし過ぎて喜劇風味が薄れたのではないか。それと餃子が普通。もっとデタラメな餃子を見せてほしかったです。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      何でもこなせるのが災いしてか、酷い映画にばかり出演させられているのが気の毒になる足立だが、地域振興の餃子映画でも同様。閉店した父の餃子店を出戻りの足立が引き継ぐが、最初からそこそこ作ることが出来てしまうので、そこから改良に励むなら味や食感、匂いの違いを映像でどう見せるかに腐心してもらいたかった。ラブコメ部分は足立の愛嬌で見ていられるが、感情を全部口に出してしまうので閉口。老人を嬉々として怪演し、ドライに徹する浅野和之が映画の支柱になっている。

  • 焼肉ドラゴン

    • 評論家

      上野昻志

      まず、舞台になるこの店の佇まいが素晴らしい(美術=磯見俊裕)。そして、一家の要となるアボジに扮するキム・サンホとオモニを演じるイ・ジョンウンが圧倒的な存在感を見せる。とくに、キム・サンホが、日本兵として片腕を失い、帰還する機会を逸して、この地で生きてきたことを「働いた、働いた」と語るときの顔には、彼自身は知らぬであろう在日の戦後が鮮やかに浮かび上がる。大阪万博前後の在日の一家の葛藤を描きながら、ある者は北へ、ある者は南へと別れる結末も心に残る。

    • 映画評論家

      上島春彦

      日韓混成キャストが効果的でセットも大がかり。練られた物語で大いに楽しめるのだが、舞台の方がさらにいいんじゃないのか、と思わせ満点とはならず。とはいえ三姉妹にトップレベルの女優陣を揃えるのが映画ならでは。みんな原作に惚れこんだのだと分かる。代表作となった。気が強い次女の結婚生活のトラブルが話を進める作りが上手く、これだけで十分に思う。つまり長男のいじめ問題が舌足らずな感じ。これは私が日本人だからそう思うのかな。調理場の仕切りの木の扉がユーモラス。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      舞台版はさぞ面白いだろうなと思わせる点では成功している。結婚・いじめの問題が一家を悩ませるが描写は平板で、息子の死という大きな事件も一挿話に収斂されてしまう。見事なスタジオセットが映画的な空間として活用されたとは言い難い。頻繁に登場する飛行機の轟音は意匠に留まり、会話が遮られるわけでも、よど号の話題が出るわけでもない。在日コリアンの地域社会は映されていても、その外の世界が感じられない。大泉が悪目立ちせずに絶妙の存在感で振る舞うあたりは感心。

  • 天命の城

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      高校で「世界史」をとらなかったので損ばかりしてきた。中国史は「敦煌」と「ラスト・エンペラー」を観て、勉強した気になった口だ。この映画を観ると、漢民族中心の明や、満州族の清と政治的なバランスをとりつつ生き抜いた、17世紀前半の李氏朝鮮の姿が見えてくる。清の皇帝が送った軍勢に対して、朝鮮王と大臣たちが籠城した南漢山城はソウル近郊だから、こんな南まで攻めこまれたのかと驚く。本作のおかげで「丙子の乱」は頭に叩きこまれた。しばらく忘れないと思う。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      よどみないストーリーの展開。人気と実力を兼備した俳優陣。安定した映像。これらの要素が絶妙に?み合った端正なスペクタクルである。対立する二人の大臣と王との政治的な緊迫を描く主筋に加え、鍛冶屋や孤児の少女を登場させ、観客の情感のツボを刺激する術を心得た緩急よろしき展開に、残酷な場面は辛いが、感心する。世界情勢が目まぐるしく動く中、惨状を極める日本の政治。テーマが発するメッセージはリアリティをもつ。歴史は過去でなく現代への道であり、無論未来に繋がる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      国王を頂点に大勢の家臣同士が意見を闘わせる政治ドラマ。といっても一方向を向き「畏れながら申し上げる」的な会話劇が基本で、王の前では面を上げられないのだろう、常に俯き加減の伏し目がち。さらにイ・ビョンホンの役は朝鮮王朝時代の服装文化ゆえ室内でも帽子のようなものをかぶっている。ただ、それがメッシュ素材でその下の顔が透けて見えるのがポイント。一枚フィルターを被せたような影が出て演出的にも映像的にも面白い。大規模な戦闘シーンの映像はとにかく美しくて圧巻。

  • オンリー・ザ・ブレイブ

    • 翻訳家

      篠儀直子

      米国の森林消防隊についての知識が事前にあればもっと面白いかもしれないが、訓練の実際や、アリゾナにはこんな暮らしがあるのか等々、地味な展開のなかで見るものすべてが新鮮でじわじわうれしい。そして、男性的世界と家族の原理の相容れなさが話の軸のひとつかと思いきや、ことはもっと複雑だとやがてわかってきて、新たな洞察への扉が一瞬開きそうになるのだけれど、クライマックスの突然の凄絶さと、続いて喚起される感情の奔流に、あっという間に押し流されてしまうのだった。

7841 - 7860件表示/全11455件

今日は映画何の日?

注目記事