映画専門家レビュー一覧

  • グッバイ、リチャード!

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      余命宣告された大学教授の役柄なので、ハサミ男や白塗りメイク、あるいはエキセントリックなまでにキャラの立ったJ・デップを見慣れた身には、序盤はちょっぴり拍子抜けの感。が、自分の余命を知った彼がしがらみから解放されて過激な言動にはしる後半からは、本来の持ち味が出ている。お涙頂戴の難病ものでなく、人生を考察させるエピソードが面白い。特に大切にしている妻と娘について、実は彼は何ら理解してなかったという皮肉の効いたユーモアを評価したい。旅は犬連れ……。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      シーン1、カット1で何の脈絡もなくいきなり余命宣告されるジョニー・デップからはじまるこの映画、観ている我々は主人公が自分だったらどうするだろうと考えざるを得ない作りになっており、序盤は皮肉屋の大学教授と問題だらけの家庭を喜劇調に描くことで油断させ、中盤以降、気が付けばいつの間にか死神が片足を?んでいるという狡猾さを発揮しながらも、紆余曲折の末、主人公が導きだした死生観は極めて凡庸なものであり、凡庸であるがゆえに逃げ場がなく、リアルで、恐ろしい。

  • ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

    • 映画評論家

      小野寺系

      地味な男子学生が大人の扉を開く青春映画といえば、学年に君臨するアメフト部員を打ち倒したり、女王の座にある女子学生と一夜を過ごすなどの展開がお決まりだが、本作はこのジャンルの主人公の性別を女子に変更するだけでなく、学校内の地位やコンプレックスに縛られず、学生たち全てを尊重する新しい視点を与えたことが画期的。ここで表現される女子同士の友情が、世の中の重圧から自分たちを守り合う同志としての関係や、互いの生き方を認め合う関係として描かれているのがいい。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      勉強はテキトウで遊びはシッカリ(のように傍目には見える)な子が、良い大学に進学を決めた、どうして……。地頭の良し悪しはさておき、ガリ勉女子のヒロインの気持ちはごもっとも。アメリカの、卒業前のパーティにかける気合いは日本とは比較にならないにしても、まるで失われた高校生活を一気に取り戻すがごとくのパーティ潜入を、アクション&アドベンチャー風に仕立てたのは面白い。酔っ払ってハイになる等、パーティ場面の平凡さはあるが、監督のコメディ・センスに+★ひとつ。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      いわゆるアメリカンハイスクールのプロムで勝負かけるぜモノといえば主人公はチェリーボーイと相場が決まっているのだが、本作は性格が捻じれてる太め体型(個人的にはナイスバディ)女学級委員長とレズビアンの親友という変わり種コンビが暴れまわるコメディで、物語はつねに物語の都合で進み続けるがゆえ、リアルな感情で考えると何かと疑問も残るのだが、抜けのいい笑いと、瑞々しく思い切りのいい演出に乗せられ、いつしか彼女たちを応援しているという、バディムービーの快作。

  • ワーニング その映画を観るな

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      ジャンルへの自己言及を好むのはホラーの作り手の万国共通の傾向だが、「エクソシスト」から「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」まで多くのホラー映画のタイトルが飛び交う本作もそんな系譜にある一作。もっとも、直接的なレファレンスとして頻出するのはJホラー、特に中田秀夫の「女優霊」や「リング」だったりするのだが。筋立てと序盤はいいのに、肝心の恐怖描写にオリジナリティがなく、展開も尻すぼみになっていくのは近年の韓国ホラーに多くみられる課題だ。

    • ライター

      石村加奈

      ホラー映画のヒロインとして、百点満点のソ・イェジの佇まい(声のトーンも低くて素敵)に魅せられて、ストーリーにぐいぐい引き込まれていく。ヒロインに「生きてること自体がホラー映画になるぞ」と迫る、伝説の映画監督を、チン・ソンギュが鬼気迫る怪演で体現する。劇中に登場する、廃墟と化した映画館が、実際に心霊スポットとして知られる場所と知れば、恐怖度も増すというもの。警告を象徴する赤いランプが印象的に使われるが、ホラー映画なのに、照明と音設計が雑なのが残念。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      「映画制作についての映画」というお馴染みのメタフィクションだが、これがホラー独特の後味の悪さとはまた違う、実に嫌な作品だった。本作は、ジャンル問わず、映画を作ること、公開することで制作者が対峙する葛藤、そして“恐怖”を再現している。某映画公開10年後に巻き起こった「面白ければ何をやっても良いのか」という議論も思い出したが(本作の劇中映画も10年前の作品という設定だ…)「映画」の罪深い側面を「映画」で突きつける多重のメタ構造が見事。

  • きっと、またあえる

    • ライター

      石村加奈

      あえて(?)芝居ではなく脚本や編集で日めくりカレンダーのように時間経過を見せる手法は最近(特に日本の作品)の流行りだろうか、あっさりしすぎて物足りない。本作のオープニングに、すわインド映画もか!? と落胆するも杞憂に終わった。エンディング・ソングの見事な転調の如く、緩急の効いたダイナミックな展開に、143分間はらはらドキドキしっぱなし。中でも、バスケットボール大会決勝戦の、ラスト6秒には大興奮した。大学生と中年を演じきった俳優陣の巧さにも感動。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      お気楽な学園コメディと思いきや、いきなりシリアスで衝撃的な展開。そこから現代と92年の名門工科大学寮での青春の日々が交錯して進む。寮内に格差があり、主人公たち「負け犬」組は寮対抗多種目試合に挑むのだが、これがサッカー、バスケの他にチェスやキャロムもあるというのが面白い(監督の実体験がベースらしい)。しかし合格者1%のこの大学に入れること自体すでに超エリート。その違和感が現代パートに活かされ、ヒエラルキーの構造を浮き彫りにしている。

  • はりぼて

      • フリーライター

        須永貴子

        「スポットライト 世紀のスクープ」に通じる、調査報道の醍醐味に興奮しながら、ジャーナリズムの力を信じたくなる余韻が残る。不正を追求された議員たちの、「虚偽発言→証拠を提示されてしどろもどろ→謝罪会見→辞職」のループをテンポ良く処理。ある議員の自宅を取材中、玄関先でたまたまそこにあった狸の置物のショットをインサートする皮肉なユーモア。狡猾な政治家vs愚直な記者の対決の構図を俯瞰で捉える、記者のナルシシズムに酔わないスタンスと編集の勝利。

      • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

        山田耕大

        保守王国・富山の市議会の不正疑惑を追及したドキュメンタリー。「はりぼて」という言葉が懐かしい。しばらく聞かなかった気がする。それにしても滝田洋二郎、久世光彦を生んだ富山県が「有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一」とは知らなかった。不正は、政務活動費の私的利用などの御なじみのもの。それが次々に発覚し、議員たちが芋づる式に辞職していく。が、議員たちも追及するテレビ記者たちも、妙に人間味がある。これが良くも悪くも日本人の顔なのであろう。

      • 映画評論家

        吉田広明

        市議が政治資金不正利用疑惑を直撃されて言葉に詰まると、その直後に辞職の記者会見で頭を下げるという展開が繰り返されて、スラップスティック・コメディかと。しかし自民一強、公務員までTV局の取材を市議に内通するという忖度ぶりを見ていると当然現政権のことが連想されるし、また全国どこで同様の不正が行われているものか想像して暗澹たる思いにもなる。粘り強い取材には敬服するが、報道方針を巡る闘争がTV局内部であったならそこにも踏み込むべきだったのでは。

    • 13月の女の子

      • フリーライター

        須永貴子

        口づけすら交わされないが、至近距離で微笑み合う女子高生二人の間に流れる、友情を超えた感情。その想いに突き動かされて世界線を超えていった先のディストピアで、どんなにひどい世界でも、好きな人と一緒にいることを選ぶ本作は、『「百合映画」完全ガイド』の続篇が刊行されるなら、間違いなく収録されるだろう。荒廃した世界をサヴァイヴする女子高生たちの「汚し」の甘さに脇の甘さを感じる。映画としてよりも、若手女優カタログとしての利便性を追求したのだろうか。

      • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

        山田耕大

        パラレルワールドと来れば、普通あっちの世界は楽園と思いたい。が、死んだ親友に会いたくて行ったあっちの世界は、震災後の山間に閉ざされた、息の詰まるような高校だった。そこは、女生徒と教師しかいない閉ざされた世界なのだ。食糧はやがて底をつく。女生徒の一人が、誰かを外界へ偵察に向かわせようと提案。それは体のいい追放なのだ。その誰かが投票で決まり、みんなに見送られて学校から出ていく。元々の舞台作品が震災設定を得て、面白くなったようだ。

      • 映画評論家

        吉田広明

        一種の異世界転生ものと言えるだろうが、当該ジャンルでは主人公が、現実世界の特性を持ったまま異世界で生きてゆく、その経験が主題となる。異世界だろうが、それなりの制約下で生きてゆくその過程こそが重要なのだ。しかし本作では異世界の中で主人公はただ周囲の出来事を消極的に眺める視点に過ぎず、その中で真に生きていない。これでは異世界の意味が全くないし、よってディストピアめいた設定も白々しいのみ。異世界は単に死んだ親友を生き返らせるためのギミックに過ぎない。

    • この世の果て、数多の終焉

      • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

        ヴィヴィアン佐藤

        変わった戦争映画だ。仏領インドシナで、兄夫婦を惨殺され独り生き残ったウリエル扮するロベール。ヴォー・ビン・イェンへの復讐とヴェトナム人の美しい娼婦マイとの逢瀬。しかしその両輪は次第に盲目的な復讐へと傾斜。国家間の争いが戦争であるが、個人的な動機や本能しか原動力として機能しなくなる。そして最終的には復讐する相手の顔すら輪郭がぼやけていく。目的を忘却した個人はもはや彷徨い続ける哀しい亡霊のように永遠に迷宮に残留する。まるで日本の能を見ている様だ。

      • フリーライター

        藤木TDC

        ヘルツォークをさらにゲテモノ化した味つけ。アート映画風でありつつ、見てはいけないものを見てしまった虫唾感を残すエモい怪作だ。ヴェトナム戦争の前段、フランスが敗退するインドシナ戦争開戦前数カ月の仏軍兵士の日常軍務と溶解する内面を悪趣味映画的手法を交えて幻想的に描写する。東南アジアの密林を汎神論と女性性の領域とし、侵略の象徴として男根が何度もモロに大写しに。そこにキリスト教世界と男性性の敗北の比喩があり、フーコー哲学的でフランス映画らしい。

      • 映画評論家

        真魚八重子

        グロ描写とセックスが最近のフランス映画らしい。戦争中とは思えない心理ドラマの幕も開けて、謎めいた青年ロベールの物語が立ち上がる。ただ過去のトラウマとなった出来事や、追い回す仇敵について視覚的な情報が少ないため、ロベールがどんな狂気に駆られているのかはピンと来ない。動機に寄り添えず、戦争状況も見えないのでどこに突き進んでいるのか把握しづらいのが瑕。ウリエルの佇まいが良く、戦争という非日常の中で現れる甘美で退廃的なドラマは心惹かれる。

    • ディヴァイン・フューリー 使者

      • 映画・音楽ジャーナリスト

        宇野維正

        日本でも大人気の『梨泰院クラス』でお馴染み、あと、あの「パラサイト」にもチラッと顔を出していたパク・ソジュンの主演アクション作。格闘技の世界チャンピオンがヴァチカンの神父と悪魔祓いに奔走するというかなり荒唐無稽なプロットだが、興味深いのは10~20代がメインターゲットのこのような作品においても、韓国社会に根付いているキリスト教の価値観が前提にあること。しかし、ご都合主義で奥行きのない設定と展開には、監督自身によるオリジナル脚本の弱さが露呈している。

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