映画専門家レビュー一覧

  • 青くて痛くて脆い

    • 映画評論家

      北川れい子

      大学生のボク(吉沢亮)の幼稚な自意識の迷走、暴走を、サスペンス仕立てで描いているが、開けてビックリの独り相撲で、まさにタイトルに偽りなしの“青さと痛さ”。ま、それを言えば、ボクに嫉妬という種をまくことになる彼女(杉咲花)も、“世界を変えよう”“なりたい自分になろう”が口ぐせの青くさ系のキャラだが、彼女は本気でそう思っていて、ボクのような自意識はない。杉咲花の裏表のない口跡の良さはこの映画の救いだが、そんな彼女をKYふうに扱うのも何だかね。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      小説を映画化する際に、なんのためらいもなくモノローグを多用する芸のなさ。現代日本メジャー映画によく見られる悪癖のひとつである。この映画でも心情説明はすべてモノローグ。さらに「コミュニケーションが苦手」「空気が読めない」といったキャラクター類型から一歩もはみ出さない人物演出の貧しさがそれに追い打ちをかける。吉沢亮、杉咲花、岡山天音、松本穂香、森七菜といまもっともイキのいい若手陣に柄本佑まで出ていて、この精彩のなさはどういうことか。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      最近の大学。こんな学生もいてそんなサークルもあるだろうと思わせるくらいにはよくできているが、不満も募った。原作者住野よるから設定と物語以外にも貰うべきものがあったはずだ。他人との距離をおきたい主人公の楓。吉沢亮と狩山監督なら、消極性ゆえの誤解から復讐を企むだけじゃない「新しい男性」にできたのではないか。鈴木常吉、出ていて涙だが、彼の風情にそのヒントがあった気もする。杉咲花演じる秋好も「痛い」登場をしながら、いまらしい「痛い」を担いそこなった。

  • ソワレ

    • 映画評論家

      北川れい子

      おお、舞台が紀州・和歌山ということで、さりげなく(いや誰でも気付くか)安珍・清姫伝説を引用、そういう配慮を含め、かなり野心的でアクティブな脚本・演出だ。きつい状況設定で、若い男女をイッキに逃避行させるのも、ドラマ性に欠けるヤワな話ばかりの日本映画にウンザリしているこちらには刺激的。ただ刺激的ではあるけれども、若い男女のどちらも新聞の社会面から切り抜いたような既視感があり、逃避行もごっこのノリ。もっと挑発的な展開をしてほしかったと思う。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      孤独な魂の寄り合いの旅路。観ながら、さまざまな映画の記憶がフラッシュバックした。風景そのものに人物の心象を語らせようとする手つきは「地獄の逃避行」を思わせる。撮影は、とクレジットを確認すると「岬の兄妹」を手がけた池田直矢。なるほど、巧い。いまこのタイミングで観られるのにふさわしいつつましさ。外山監督と製作の小泉今日子、豊原功補に「映画屋」の矜持を感じる。そして、孤独と痛みを引き受ける役柄を演じさせたら右の出る者のいない俳優となった村上虹郎、いい。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      メインタイトルまで三十六分。バタバタもするが、アラブ音楽の前奏的な自信にみちたタメを感じた。外山監督、進むべき道に躍りでている。このつなぎでその画をもってくるのかという快い驚きが何度も。最初から逃げきれそうにない逃避行だが、村上虹郎の翔太も、芋生悠のタカラも、まさに生きる理由にむかって輝きを増していき、ラスト二十分、本当にいい。「安珍と清姫」の芝居も決まった。大島?「青春残酷物語」や長谷川和彦「青春の殺人者」ができなかったことが、確かにここに。

  • ふたつのシルエット

    • 映画評論家

      北川れい子

      1にjan and naomiの楽曲、2も同じ、3、4がなくて、5が佐藤蛍。いや、これは言いすぎか。演出も達者である。思い出の海岸で偶然再会した元恋人どうしの男と女。忘れられない過去か。忘れたい過去か。その記憶と時間のズレを、別れたときに相手が着ていた衣服で視覚化する辺りは巧みだし、相手の不誠実さを互いになじりあうシーンの背後の柳の揺れ。それでも別れるべくして別れた2人の再会メロドラマとしてはスケッチの域を出ず、楽曲の余韻の方が断然、強い。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      「ソワレ」には印象的な「シルエット」のシーンが出てくるが、この映画は徹頭徹尾ふたつのシルエットの交錯と反発のなかでなにかを描き出そうとしている。それがなにか、画面を見るかぎりではわからない。わからないが、ただ二人で時間を共有することがかけがえのないいとなみに感じられる。それだけを静かに見つめる竹馬靖具監督の視線には一切の虚飾がない。こういう瞬間、たしかにあったな、と思った。音楽が重要なファクターとなるが、ラストは無音。なかなか唸らせる。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      jan and naomi の曲の長いPVだとすると、持ち込まれた芝居が内容的にも演技の質としても硬直していて、音楽のじゃまをしているだけということになりそうだ。三十七分の尺だが、言い切っているものがない。竹馬監督も、演じる佐藤蛍と足立智充も、いろいろと計算違いがあると思う。たとえば過去と現在を衣装の変化で見せようとしているが、その衣装が記号でしかなく、ちゃんと着ている服になっていない。そもそも、こんな焼けぼっくいに火をつけてどうなるんだというつまらない話。

  • ようこそ映画音響の世界へ

      • 映画評論家

        小野寺系

        トーキー出現以前からの映画音響の歴史を追いながら、音楽、効果音、音声の3つの大きなカテゴリーに映画音響の作業を分類しつつ、さらにそれを細分化した9つの要素で紐解いていく大労作。さらに「スター・ウォーズ」の効果音を担当したベン・バートはじめ、音に情熱と創造力を注ぐ人々の姿をとらえるなど、この一本で映画音響における概要を全て網羅しようという試みがすごい。ただ、ここでの詳細な解説が映画の“魔法”をたね明かししてしまう面もあるので、注意すべし。

      • 映画評論家

        きさらぎ尚

        ひと口に映画の音響といっても、セリフ(同時録音orスタジオでのアフレコ)、音楽、効果音(ナマ音or作られたSE)があり、各作業はそれぞれに複雑である。このドキュメンタリーは映画におけるサウンドを解りやすく紐解く。サイレントからトーキーになり、さらにフィルムからデジタルに。変遷した音響の、クリエイター、もしくはエンジニアたちの話は面白く為になる。個人的には肩に食い込むナグラの重さ、幅広の磁気テープ、スタジオのコンソール等々、70年代の仕上げ作業を回顧。

      • 映画監督、脚本家

        城定秀夫

        作中の名だたる監督、技術者たちが異口同音に語っているように、映画にとって音というものは映像と同等、あるいはそれ以上に重要であるにもかかわらず、音楽以外の音については語られる機会が多いとは言えず、かくいう自分も実作者として映画に携わる前は音響効果の奥深さを理解していたとは言い難いのですが、出資サイドに冷遇されがちな音響デザイナーの地位向上のためにも、この映画をきっかけに足音ひとつにも映画人の魂が宿っていることを広く知ってもらいたいと切に願います。

    • オフィシャル・シークレット

      • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

        ヴィヴィアン佐藤

        政府職員キャサリンの「政府は変わる。私は政府ではなく国民に仕えている」という言葉。今の日本の政府と政府役人のことを想うとあまりにも胸に突き刺さる。組織に従うだけではアイヒマンと同じではないか。国と世界の平和を想う彼女の姿勢。イラク戦争を起こした米英の状況下、実在のキャサリンの起こした行動と周囲に起きた実際の出来事を、よくここまでエンタメサスペンス風に脚本を書き上げた。登場人物たちの様々な生き様。国家とは名前と顔のある個人の集合体なのだ。

      • フリーライター

        藤木TDC

        イラク戦争直前、米国が英国に依頼した謀計を国家情報部職員が内部告発する実話。背景にあるブレア首相とCIAの関係をポランスキーの「ゴースト・ライター」で予習すると理解しやすい。内容が生真面目すぎ、主人公の造形も単純で映画的旨味が小さいのが短所。この題材なら直情型ヒロインの前のめりと周囲の過剰な支援が偶然実を結びハッピーエンドと描くほうが似合う。主人公逮捕後の措置をわが国と比較すると日本司法の人権侵害がよく分かる。我々だったら確実に長期拘留だ。

      • 映画評論家

        真魚八重子

        最近実話ベースで、出来も予算も中レベル程度の映画が量産されているのは、昨今の世界情勢の慌ただしさにまつわる予感と結果報告なのだろう。本作は映画内で何度も主人公が、他者から直接的なエールを送られる場面がある。まるで映画自体も、自分の主義や理想を声高に訴える中心人物に思えてくる。キーラ・ナイトレイが正義感に駆られ感情的に思想を語ったかと思えば、我に返って恐怖からメソメソし始める弱さもリアル。レイフ・ファインズの登場で映画の格調が上がる。

    • シチリアーノ 裏切りの美学

      • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

        ヴィヴィアン佐藤

        ベロッキオ81歳。マフィアではなく、直訳すれば「俺たちのもの」というコーザ・ノストラと自分たちを定義。家族を神聖なものとし貧しきを守る理念。イタリア80年代に366人もの逮捕状が出た歴史的な実話。一見、一族を斬殺されたトンマーゾ・ブシュッタの改悛劇であるが、コーザ・ノストラの生き様を固守した男の物語だ。復讐はあくまで法治国家国民として。劇的なアクションはないが、イタリア的叙情で叙事を描写。家族を尊ぶ姿勢はイタリア人には普遍的本能か。国技か。

      • フリーライター

        藤木TDC

        コッポラやスコセッシからマフィア映画をイタリアに取り返した、という感じの優雅で血生ぐさい秀作。このジャンル好きには文句なく薦める。80年代、シチリアの組織に大打撃を与えた大物ブシェッタの自白の過程とその後を描く実録篇は、P・ファヴィーノの悠然たる大物演技が魅力的で裏社会に生きた男の虚ろで複雑な「正義感」が胸をうつ。時制が錯綜し筋が分かりにくい弱点はネットフリックスの記録映画「裏切りのゴッドファーザー」やちくま新書『イタリア・マフィア』で補完を。

      • 映画評論家

        真魚八重子

        俯瞰的に物語が追えるか、ドラマが動いたその都度を説明できるかと言われたら自信がない。重要事項がセリフだけで説明されたり、大量の登場人物の顔と名前が一致する前に、時間が座標もなく経過していったりするので困惑する。前半と後半のリズムの違いも大胆だ。ベロッキオは「肉体の悪魔」で法廷内の檻が極めて印象的だったので、本作での再登場は目が覚める思い。風変わりなベロッキオがさらに老人力を身に着けて撮っており、通常の理解では補いきれない長篇になった。

    • ブルータル・ジャスティス

      • 映画・音楽ジャーナリスト

        宇野維正

        劇中から無自覚な「政治的誤り」が漏れ出ている作品は批判を免れない昨今だが、本作ほど腰が据わった反動性に対しては、観る側が居住まいを正す必要があるだろう。ユーモアや共感性を排除して、敢えて人種的ステレオタイプを踏み抜き、ノワールやピカレスクロマンの美学に溺れることなく、ひたすらリアリズムに奉仕する長回し主体の159分。S・クレイグ・ザラーが反抗しているのは時流に対してだけではなく、現代アメリカ映画の「スピード」そのものであることがわかる。

      • ライター

        石村加奈

        チラシに書かれた「肉フックに吊られたような緊張感」という言葉に引っかかりながら観始めたが、警察組織の正義に絶望した、万年ヒラ刑事・ブレット(メル・ギブソン)の拳銃を手放せない弱さも、漁夫の利を得たヘンリー(トリー・キトルズ)のラストシーンも、二人を繋ぐライオンの暗喩も、どこかで見たことのある描写だ。目的のためなら内臓をえぐり出すのも厭わぬ犯罪者のやり口をはじめ単純に暴力的なシーンが多い中、ブレットの相棒(ヴィンス・ヴォーン)の最期が恰好いい。

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