映画専門家レビュー一覧

  • スクール・オブ・ナーシング

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      前半に幾つものくすぐりと小さなギャグがちょこちょこ入るのは邪魔な気がした。医療や看護の場に人間の生の様相があらわれてくることに着目していながら、観ているこちらがコケるようなザックリとした切り取り方で驚かされる部分もある。しかし、病や死を抱えている患者にまだ未熟な看護師が対するという一見負の要素の掛け合わせは確実に劇を発生させた。また、独自の技術や規範のある世界を紹介する、内幕ものジャンルに属する映画でもある。そういうところは?むものがあった。

    • 文筆業

      八幡橙

      熊本を舞台に描かれる、看護学生たちが実習中に接する人々の人生悲喜こもごも。一人孤独に末期を迎えんとする男を演じる榎木孝明の鬼気迫る演技は一見の価値あり。ただ、夫の浮気を疑いながら、完璧に美しく化粧を施され死に至る妻や、妻との関係が微妙な強面の僧侶など、登場する人々の捉え方が表層的で、実際の医療現場はこんなにきれいごとで何もかもが済まされるのだろうか? との疑念が拭えず。こなれ切れぬ脚本・演出、そして演技を、“素朴”と呼べば呼べるのだろうか……。

  • 父を探して

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      細胞を思わす同心円が次々入れ子状に登場し、極小から少年の等身大世界へと導かれる。抽象と具象、二次元から四次元、手書きとデジタルと相反する要素が共存し、ユニークな音と色彩の交響を奏でる。父を探して、世界を旅する少年の話なのだが、ムンクの画を思わせる父親と出会ったとの一瞬の喜びが、工場の大量生産物のように父親が次々出てくる不条理を介し、世界は揺らぐ。実写まで挿入され、メッセージが見え過ぎるきらいもあるが、いつしか少年と父と観客が一体化していく。

    • 映画監督

      内藤誠

      大手のアニメ会社の製作では見られない手作り感にあふれた作品だ。色彩、モンタージュ、キャラクター・デザインのすべてにわたり、芸がこまかい。セリフはないが、音楽と音響がメッセージを十分に伝達。農村から出稼ぎに出て行った父親を探しに旅立つ少年の物語が始まったとたん、大好きなマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットの「岸辺のふたり」のような切ないアニメかと思ったら、大都市に着いたところで辛口の批評精神が見えはじめ、作者は大きなテーマに挑んでいることが分かる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      タイトルと合わせて新しい意味が見えてくる現代アートのような一本だ。線描をベースに極端に抽象化された絵柄は安易な感情移入やフェティシズムを拒み、セリフらしいセリフのない作りはシンプルであると同時に難解でもある。抽象化は真正面から描けないことを語れる可能性もあるが、その世界に突如かなり象徴的な実写が挿入され、貧富の問題や環境破壊といった具体的なメッセージが提示される。これが「映画」の表現として成立するのかどうか、今の自分には判断できない。

  • ジョギング渡り鳥

    • 評論家

      上野昻志

      モコモコ星人というらしいが、べつだん、そんな名前を知らなくても構わない。ただ、なにやら、モコモコした物を頭から被った連中が、カメラや録音機や鏡などを持って、ジョギングしている者や、その道筋でお茶を配ったり飲んだりしている人や、酒場に集う連中のまわりをウロウロしているのが、面白い。彼らは、映画を撮っているように見えるが、モコモコ星人に映画という概念はあるのだろうか? だが、そう思った瞬間、そもそも映画って何なんだろうか? というギモンがせり上がる。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      映画でも芝居でも根底には遊びがある。そこから発するものこそが観る者に語りかける。だが、その遊びを失うことはあまりにも容易で、だからこの世には体裁だけ整ったものがはびこるが本作はその真逆。遊んだ。真剣に。体裁などなく素晴らしい右往左往が延々と展開する。映画のなかに、地球に落ちてきた宇宙人が撮ったという設定の映画が混ざってくる。その撮影行為こそが映画内の人々を見守り、結ぶが、映画「ジョギング渡り鳥」自体が世界に対してそれをやる。とにかく観てほしい!

    • 文筆業

      八幡橙

      3・11から5年。東日本大震災の後、映画における虚と実のバランスに確固たる変化が生じていることを改めて痛感。虚と実が混沌としているのは、なにも映画に限らないかもしれないが。映画美学校の俳優たちと、鈴木卓爾監督が即興的に編み上げてゆく、虚実に虚実を重ねて“入れ子”にした実験的SF青春群像劇。キワキワな線上を辿るように見守る157分は不思議と心地よく、自由なようで不自由にも思える渡り鳥たちの飛翔が、よくも見事に着地したなぁと、感服。各人のキャラがまたいい。

  • 風の波紋

      • 映画評論家

        上島春彦

        劇映画というのは見ればわかるという大前提があるが、こういう時間軸がやたら長いスパンの記録映画は、一度見たくらいでは分からないという曖昧さが必ず残る。それをお客さんには逆に楽しんでいただきたい。一応、物語の始まりは今から五年前の大地震で壊れかかった古民家をつぶさずに再建する小暮さん夫婦のエピソードであり、これは大成功に終わる。だが一方で壊すことになる民家の件も出てくるし、その画面もまた圧巻。幸せに生き幸せに屠られた山羊のエピソードとかに心なごむね。

      • 映画評論家

        北川れい子

        厳しい環境の中、自然と共存しながら農村生活を送っている人たちは大勢いる。この記録映画は14年前にあえてそういう生活を選んで東京から移り住んだ一組の夫婦と、その集落の人々との日常的交流にカメラを向けているのだが、どうもある種の押しつけがましさを感じないではいられない。夫婦がその地に根を張って生きているのは分かるが、カメラに写し出されたとたん、この集落での生活が別格化され、まるで立派でしょ、と言わんばかり。編集され、音楽が流れて美化される農村生活?

      • 映画評論家

        モルモット吉田

        田舎暮らしを称賛する映画ではないことはスタッフの顔ぶれでも明らかだが、じっくり腰を据えて撮ることで、自然と農業と生活と文化が重なりあう暮らしと、相互の協力が不可欠な場であることを示す。湯気が立ち込める食卓から圧倒的な食の魅力があふれるが、これ見よがしに食物のアップを挟まないのも良い。エエ声で唄う佐藤さんら地元の有名人もいいが、外部からの移住者を受け入れ、新たな文化が根付き、地元の文化を更に盛り上げる土地らしい開かれた空気が映画にも充満している。

    • ちはやふる 上の句

      • 映画評論家

        上島春彦

        競技かるたというのは誰でも知っているがやったことはない、というゲームの典型だろう。最大のクライマックス、全国大会は後篇だとして(冒頭描写がそういう感じ)、こちらはそこへ向かう前段階としてとりあえず文句なし。でも星はそっちにとっておく。過去のズルがトラウマとなって、以来ここ一番でのつきに見放された少年という細部も良い。主人公の少女はそういう葛藤とは基本的に無縁だが対戦相手のサド少年が「ソロモンの偽証」の不良で、この俳優の存在感がギャグっぽくていいぞ。

      • 映画評論家

        北川れい子

        部活を描いた映画には「シコふんじゃった。」「ウォーターボーイズ」「ロボコン」など、良質な娯楽作品がいくつもあり、部活の種目はさまざまでも、始めヘナチョコ、途中で迷走、さいごは本気でぶつかってと、その結果はどうあれ、やることはやったという達成感があった。が本作、まだ前篇ではあるが、どうも競技かるたの百人一首をからめた幼なじみ同士の三角関係がメインのようで、これまでの部活映画とは方向が違う。部員集めのくだりや練習、競技も形式的演出が目立ち、こんなもん?

      • 映画評論家

        モルモット吉田

        人気漫画原作の前後篇ものなので期待していなかったが小泉徳宏が初めて脚本も兼ねたことも幸いしたようで過去作にないリズムと語り口が心地良い青春映画の佳作になっている。ハイテンション演技を血肉化させた広瀬が屈託のない表情で廊下を突進する姿など実に魅力的。カルタ取りの画は工夫が少なくやや単調で、広瀬の研ぎ澄まされた聴力がクライマックスまで放置されているのも不満。能力が使えなくなっていた設定が欲しいところだが前篇だけでも成立する構成と演出の配分は見事。

    • 僕だけがいない街

      • 映画評論家

        上島春彦

        原作者は藤子・F・不二雄の『未来の思い出』のファンかも。過去に意識が戻り何度も同じ時間帯を繰り返しつつ未来を変えるという設定が似ている。でも、こちらは幼女連続殺人が絡んで、人々の必死さの度合いがケタはずれ。現在と小学生時代を行き来して事件を未然に防ぐ主人公のがむしゃらぶりに感動必至である。彼が「リヴァイヴァル」と呼ぶほんの数秒単位での過去の繰り返し、やり直しも面白い。ネタバレ厳禁で多くは語れないが『あさが来た』の少女の妙な色っぽさが抜群。

      • 映画評論家

        北川れい子

        時間が何度も同じ場面に巻き戻るといえば、桜坂洋の原作を基にしたトム・クルーズ主演のSFアクション「オール・ユー・ニード・イズ・キル」があるが、こちらの主人公は、短い時間逆行を繰り返したあげく、母親が殺されたことがきっかけでドーンと18年前の少年時代に戻ってしまう。しかも当時、子どもが次々と殺されていて、というのだが、事件の気色ワルさと時間の逆行がうっとうしく、時間と事件をお手玉する主人公の唐突さもご都合主義的。独り忙しげな藤原竜也、お疲れサマ。

      • 映画評論家

        モルモット吉田

        SF設定をご都合主義の道具にしか思っていない凡作。主人公の母は洞察力に優れた元報道人という設定なのに誘拐未遂を目撃しても届けないわ、注意されてもアパートの鍵を掛けない。主人公も自分で疑われる方向に仕向けているとしか思えない。大人の視点を持って小学生時代に戻るのに邪な感情を描く気がないなら、せめて昔は何でもないと思っていた同級生が一目置ける奴と気付くぐらいの描写は欲しい。2時間で設定と登場人物を消化することに追われて何も描かれていないに等しい。

    • 最高の花婿

      • 映画・漫画評論家

        小野耕世

        「なんでこうなっちゃうの?」を意味するフランス語の原題どおりのコメディー。一家の四人の娘たちが、それぞれアフリカ系、アジア系など異なる人種の男たちに恋をし結婚式をあげるはめになり、両親はあわてふためくのだが。娘や花婿や相手の親たちが出会っての会話がとびきりはずんでおかしく。楽しめる。娘たちはそのことにまったくこだわらず平然としているのに、意地になって見栄を張ったりするのは男たちだ。むしろ多国籍・多人種のほうが今後あるべき家族かもと、私には思えてくる。

      • 映画ライター

        中西愛子

        フランスの白人中流家庭。娘たちの結婚相手は、アラブ人、ユダヤ人、中国人と外国人ばかり。末娘には同じカトリック系の婿を期待する両親だったが、彼女が選んだのは同じ宗教を持つ黒人青年だった。異文化が凝縮した家族の大騒動を、機知に富んだ面白さで描くヒューマン・コメディー。14年にフランスで大ヒットしたというが、翌年の不幸なテロを思うと、“家族的なユートピア”で多様性を括る理想の限界も感じる。とは言え、異質なる者への意識が低い日本人としては大変勉強になった。

      • 映画批評

        萩野亮

        本国フランスでは一二〇〇万人が見たというからおどろいた。フランスの観客がもとめていた語りの形式がここにあったと想像するほかないのだけれど、どれだけベタでご都合主義的(エスプリ?)であろうとも、異人種・異文化という決してたやすくはないテーマをこのように描けるということ、そしてこうした作品に観客が駆けつけ、劇場でともに笑い声をあげるということに、小さくない意味があると思う。各国で動員するなか、ロシアではさっぱりだったというのがその意味では興味ぶかい。

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