映画専門家レビュー一覧

  • 無伴奏

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      成海璃子の表情がいい。あの時代に生きる不機嫌な少女の顔だ。「恋人たちの失われた革命」になるかと思ったが三角関係の描写は茶室などの室内になると濃密になるが外が弱い。役者も池松はどれも同じ芝居なので男側が弱くなる。露骨な胸隠しは、本作に限ったことではないが、本人・事務所・演出が互いにソッポを向いてそのまま撮ってしまったような違和感。見せないならそれで構わないが、それに沿った演出があるはず。最近は吹替えもダメなのだろうか? その分、遠藤新菜が出色。

  • ドロメ 女子篇

    • 映画・漫画評論家

      小野耕世

      かつての映画連作「学校の怪談」を思わせる作品で、配給会社の人に「女子篇から先に見た方がわかりやすいですよ」と言われたが、その通りだった。いろいろおもしろい。例えば女子高生たちは、お化けが出るとキャッと叫びすぐ逃げればいいのに、じっと見ていてしばらくしてから逃げる。そうしないと映画にならないのは承知しているが、それが何度もくり返されるので、彼女たちには自分の悲鳴を楽しんでから逃げる習性があるのかしら。女性とホラーについて多くを学べる映画。

    • 映画ライター

      中西愛子

      男子校と女子校の演劇部員たちが集う合同合宿。その間に起こる数奇な出来事を、女子と男子の視点から別個の作品として描く試みだ。青春映画かと思いきや、途中からホラー要素もちらほら。でも怖くないのでホラーとは呼びづらい。ただ、若者たちの何気ない会話やじゃれ合いを、ラフなスケッチ風に描き出す内藤瑛亮の演出力は手堅く、飽きないのだけど。女子篇では、登場する女子たちはみな達者で良いが、やはり森川葵のヒロイン性が映画の軸になっている。彼女のキラキラ感は面白い。

    • 映画批評

      萩野亮

      「ベートーベンの第九でモンスターをフルボッコする映画を撮るのが夢だった」と監督がいう通り、その結末部分が無類にみなぎっている。怪事件の連続によって合宿を中断されるも、バケモノ退治それじたいをむしろ部活のようにエンジョイするという、「ハウス」(大林宣彦)よりは「ガルパン」に通じる転倒ぶりがすばらしい。この調子で冒頭から行ってくれたら最高だったのだけど、本篇は設定がまるきり渋滞していてあれこれ散漫になっている。女子の面倒くささ、男子のアホさ、(?)

  • ドロメ 男子篇

    • 映画・漫画評論家

      小野耕世

      男子篇全体を通じて感じたのだが、最初のシーンから各カットの終りがひと呼吸長すぎる印象。つまり女子篇よりテンポがやや遅いと思った。同じシーンがいくつもあるが女子篇の方が見やすく感じたのはそのせいかも。男子が作った料理を食べた女子が「水っぽい」と味のなさを批判すると、「味じゃない。こころをこめて作った気持ちが大切だ」と男子が反論する場面には失望した。もし女子がまずい料理を作り、「味じゃなくて気持ちよ」と言ったら男子は納得するのか。男は遅れている。

    • 映画ライター

      中西愛子

      男子篇は、息子の女の子への感情を自らの死後も気にかけ、執念深くまとわり続ける母親の幽霊が出現。多少は怖くなるかと思いきや、女子篇の物語から何か発展があるわけでなく、女子に代わって男子のじゃれ合いが繰り返されるだけで、同じものを2度観ている印象。視点を変えた2作品、合わせると3時間ある。長い。それならたとえば「ピンクとグレー」のように、A面×B面的な創意工夫をするとか、映画スタイルへの斬新な挑戦をして、1本のユニークな作品を目指してほしかった。

    • 映画批評

      萩野亮

      教師のダメさ、はうまくとらえられているけど、もっと関係のドロドロ、煉獄の青春が見たかった。「学校」という閉域における暴力と差別の構造にあって、人間こそがもっともおそろしい「モンスター」にほかならないことは、この監督がもっともよく知っているはずだから。若い俳優たちは生きいきとしていて、小関裕太ののそっとしたたたずまい、森川葵の過呼吸っぷりがよかった。計三時間ほどになるが、重複するシーンも多く、二本立てならではの連立方程式のおもしろみには欠ける。

  • バンクシー・ダズ・ニューヨーク

    • 翻訳家

      篠儀直子

      アーティストのゲリラ的活動を(にわかファンもたぶん多いだろうとはいえ)熱狂的に追いかける人たちがNYにはこんなにいるのかと、あの街の豊かさにまず素朴に驚く。露わになるのはそれだけではない。この映画の主題はバンクシーというよりNYそのものであって、人々の行動力、エネルギー、したたかさ(そうした反応もまたバンクシーのアートの一部ではあるが)が、次々と描き出されていく。何度塗りつぶされても立ち上がるグラフィティー・アートにも似た、強靭なストリートの知性。

    • ライター

      平田裕介

      ものはいいよう。アジテーションも悪ふざけも芸術を名乗れば芸術になるし、そこに批判性を盛り込むと支持者が付く。こうしたセオリーを熟知したバンクシーの術中にはまるのは悔しいが、狂乱のNYと踊らされる人々が“作品”になっていくさまはやっぱり痛快で引き込まれる。しかし、騒ぎを追うだけでは物足りないと感じたのか、都市の再開発がグラフィティー・アートを表現する場を失わせているなんて問題にも触れているが蛇足気味。これはこれで興味深いので別個で撮ればいいのに。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      グラフィティー作家バンクシーのドキュメンタリー、といっても彼は指名手配中なので画面には現れない。予告した場所に作品を残し、野次馬や警察が駆けつけた時にはすでに姿を消している。まさに怪人二十面相だ。作品が引き起す社会現象も作品と考える七十年代に流行ったコンセプチュアル・アート、寺山修司や赤瀬川源平などの仕事を思い出す。SNSで大勢の人が動きネットオークションで高値を呼ぶというIT時代の狂騒を描いたドキュメンタリーとして大変面白かった。

  • 光りの墓

    • 翻訳家

      篠儀直子

      象徴の解読へと人を誘うものが次々映し出されるので、物語の設定にも何らかの象徴性を見出したくなる。重層的な時間、夢と現実とのあわいを漂うような世界であり、そのなかで主人公はやがて、「リアルなもの」との遭遇を望みはじめる。だが、星をつけるという行為にこれほど違和感を覚える映画もない。それはこの監督が、われわれの知る「映画」とは、何か違うものを目指しているからかもしれない。「ブンミおじさんの森」には、映画的なアクションがもっと横溢していたと思うのだが。

    • ライター

      平田裕介

      眠る兵士たち、眼をカッと見開くオバサンなどが、クーデターを繰り返してきた歴史、軍事政権への沈黙や注視といった、微笑んでばかりではないタイという国を比喩。ということなのだろうし、ユニークでもあるが、延々の長回し&ロング・ショットが、自分のような多動性映画が好きな者には堪える。そこへスヤスヤしている眠り兵の皆さんが映し出されると、御一緒したくなる。青・緑・赤と色を変える治療機器は、形も発色も新宿・歌舞伎町セントラルロード入口のアーチに似ている。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      タイの東北部、眠り病で眠り続ける兵士の病院を訪れた二人のボランティア女性と患者の兵士―ー三人の夢、想い出、深層心理、霊能力による交信などが美しい自然を背景に静かにゆっくりと描かれて行く。吹く風、流れる時間を感じさせる画面だ。最近スローライフなどという言葉をよく耳にするが、さしずめスロー映画とでも言ったらいいかもしれない。安らぎと心地よさを感じさせる映画で、一見古風に見えるが、物質中心の近代社会批への批判がこめられた実験性を持つ作品だ。

  • 映画 暗殺教室 卒業編

    • 映画評論家

      上島春彦

      こういう『飛び出せ!青春』みたいな話は手放しで好き。殺せんせーが村野武範クラスの包容力で生徒の心を包みこむ。ひねったシチュエーションだけどひねり過ぎないのがありがたく、基本、小ネタの連続ではあるが一本ちゃんと芯が通っている。ただし、せっかくアクションに凝っているのに決めが未消化だったりするのは問題で、落っこちる前後があるのに落下そのものが描かれなかったり銃撃戦が単調だったり。黒沢清を見習いたい。むしろ素手による生徒同士のバトルの方が出来は良いかと。

    • 映画評論家

      北川れい子

      いやぁ、殺せんせー、もう好きにならずにはいられない。生徒をわざと挑発し、やる気を起こさせるというのはよくある手法だが、設定もキャラクターも限りなく突拍子もないのに、殺せんせーの言動、説得力がある。アソビやムダ口、そのリアクションも楽しい。E組の生徒たちの変わりようも大したもので、反面教師・殺せんせーは間違っていなかった。今回、殺せんせーの謎も描かれていて、この辺り、ちょっと重苦しいが、ラストはワルくない。ドラマを引っ張るVFX技術も絶好調。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      殺意も殺気も殺す痛みも微塵もないような映画など殺してしまえと思うほど苦痛。浦沢義雄が脚色して清順テイストなナンセンス暗殺劇にでもしてくれたら面白くなりそうな話だが、説明台詞だけで強引に話を進めて感動話にしようとするのだから無理がある。レクターとクラリスを二宮と桐谷でやるのは例の拘束服も含めて失笑しかなかったが、桐谷が白痴にしか見えないのは如何なものか。今さらながら「BR」の深作は漫画ゲーム的な設定を活かしつつ殺す痛みを残していたのを思う。

  • 砂上の法廷

    • 翻訳家

      篠儀直子

      思わず「何ですと!?」と言いそうになった結末には賛否両論出そうだが、アメリカ映画の法廷物はそもそもテッパンとはいえ、複数回ある衝撃の展開で、毎回必ず大きな衝撃を与える演出はかなり巧み。面白さのポイントは、映画の開始と終了を裁判のそれと一致させていることと、被告となる少年を、法律の知識と観察眼を有する明敏な秀才に設定したこと。当初主役にはダニエル・クレイグが予定されていたらしいが、キアヌが演じたことで作品の色合いがどう変わったかを考えるのも一興かと。

    • ライター

      平田裕介

      人種や貧困という問題を、スリリリング極まりない犯罪劇へと落とし込んだ「フローズン・リバー」。その監督の第2作、しかも彼女自身も弁護士資格を保有。ゆえに期待が高まったが、なんとも陳腐な出来栄え。真実を追わずに無罪を作り上げる米法曹界の実情を抉ろうとしているのは伝わるが、なんとなくわかってしまう真犯人、安っぽいメロドラマな真相、これ見よがしに映す“正義の女神”像と、決定的な証拠が出てこぬ物語に反してダメな要素が続々と突き出されて萎えたまま閉廷する。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      ネタバレを気にする風潮が映画の観客や言説を衰弱させているという説が最近ある。良い映画はネタバレ如きで価値をなくさないと言うわけだ。基本的に賛成だが例外もある。ヒッチコックの「サイコ」、ワイルダーの「情婦」、クルーゾーの「悪魔のような女」のような結末の意外性に賭けた作品だ。本作もその一つ。最後まで意外な結末を期待して面白く観た。脚本は一寸ズルイところがあり、結末の詰めがいささか甘いが、良くできている。ミステリーファン必見。ネタバレを読まないで観て欲しい!

  • スクール・オブ・ナーシング

    • 評論家

      上野昻志

      導入部分で、もう少しメリハリ良くいかないか、と思ったが、看護師養成の具体的な話になって、語りのリズムは気にならなくなった。機材を使っての練習から生身の人間相手、さらには、実際の患者に関わっていくという、それぞれの段階で看護師という仕事のありようが見えてくるのがいい。ドラマの核は、桐島ココの主人公が、榎木孝明演じる余命僅かの患者の内心に踏み込むところにあるが、その始末の付け方も悪くない。舞台の人吉に行ってみたくなった。お竜さんの生地でもあるしな。

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