すから始まるものでの検索結果

作品情報
条件「すから始まるもの」の作品 2188件)

人物
「すから始まるもの」を人物名に含む検索結果 5431件)

記事
「すから始まるもの」の検索結果 50件)

  • [caption id="attachment_39391" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ7 ある告白に関する物語』(奥 左から)吉田美月喜、津田真澄 (手前 中央)三井絢月 / 撮影:宮川舞子[/caption]   ポーランド映画の名匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督(1941-1996)の最高傑作の呼び声高い「デカローグ」(1989)。全10話のパートで構成され、合計で10時間近い上映時間をもつオバケ作品を、このたび日本の精鋭演劇人が集ってその舞台化に挑戦、東京・新国立劇場で絶賛上演中である。すでに1〜6話の公演が終了し、いよいよ最終プログラムに突入した。 現在上演されているのはデカローグ7『ある告白に関する物語』、デカローグ8『ある過去に関する物語』、デカローグ9『ある孤独に関する物語』、そして最終話となるデカローグ10『ある希望に関する物語』(7&8は上村聡史、9&10は小川絵梨子が演出を分担)の4話分。しかしデカローグ1〜6を見逃していても、各パートに連続性はなく、独立した物語であるため、今回のプログラムのみの鑑賞でもなんの問題もない。一話あたりの上演時間はキェシロフスキ版と同じく1時間前後の中編であり、一話分を終えると20分間の休憩が入るため、オムニバス映画を見ていくようなカジュアルな感覚で各パートを味わっていける。   [caption id="attachment_39393" align="aligncenter" width="908"] (左から)パンフレット『デカローグ1〜4』『デカローグ5・6』『デカローグ7〜10』[/caption] 付記しておきたいのがパンフレットの趣向。デカローグ1〜4、デカローグ5・6、デカローグ7〜10と合計3冊のパンフレットが作られ、販売されているが、3冊全部の表紙を合わせると、夕景にそびえる集合住宅をとらえた3枚続きのパノラマが完成する。ぜひ3冊とも入手され、作品世界にどっぷりと浸かっていただけるとさいわいである。   [caption id="attachment_39396" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ9 ある孤独に関する物語』(左から)伊達 暁、万里紗 / 撮影:宮川舞子[/caption] 「デカローグ(Dekalog)」とは、ポーランド語で旧約聖書における「モーセの十戒」のこと。「汝、姦淫するなかれ」「汝、隣人の財産を貪るなかれ」など、神の御心に沿って人間に課せられた10の掟であるわけだが、「デカローグ」全10話に登場する人々はみな十戒を立派に遵守できるような存在ではない。この10の物語はすべて十戒を侵犯する物語となるが、だからといって誰ひとりとしてマフィアのような確信や明確な策略をもって侵犯するのではない。みずからの弱さ、卑しさに負けて、侵犯者におちいってしまうのである。つまり、これは私たち弱き普通の人間による10の物語である。私たちのあやまちをひとつひとつ拾い上げるキェシロフスキの手つきは慈愛に満ちてはいるが、これみよがしの救済や同情はきびしく遠ざけている。   [caption id="attachment_39397" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ10 ある希望に関する物語』(右から)竪山隼太、石母田史朗 / 撮影:宮川舞子[/caption] デカローグ7『ある告白に関する物語』ではマイカ(吉田美月喜)とその母エヴァ(津田真澄)の長年の確執がとうとう決裂へと向かい、デカローグ8『ある過去に関する物語』では大学教授ゾフィア(高田聖子)の過去の罪悪感がアメリカ在住の女性エルジュビェタ(岡本玲)の訪問によってあぶり出され、デカローグ9『ある孤独に関する物語』ではロマン(伊達暁)とハンカ(万里紗)の夫婦関係はハンカの不倫によって深傷を負う。そしてデカローグ10『ある希望に関する物語』ではアルトゥル(竪山隼太)とイェジ(石母田史朗)の兄弟が父の残した膨大な切手コレクションによって罠にかかったかのように、滑稽な愚行のスパイラルにはまっていく。 一話ずつ独立した物語とはいうものの、各話のあいだにかすかな繋がりが見え隠れして、観客を楽しませもする。デカローグ8のゾフィアの倫理学授業で女子学生が披露する逸話は、デカローグ2で夫以外の男とのあいだにできた子を堕すかどうか悩むドロタ(前田亜季)の話がおそらく集合住宅中で醜聞になったということだろうし、デカローグ10で切手コレクションを遺して死んだ兄弟の父は、デカローグ8のゾフィアの友人として登場した切手コレクター(大滝寛)のことであることが明らかだし、その隣にはデカローグ9の不倫妻ハンカが住んでおり、兄弟に対してお悔やみを述べたりする。   [caption id="attachment_39392" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ7 ある告白に関する物語』(左から)吉田美月喜、章平 / 撮影:宮川舞子[/caption] デカローグ7『ある告白に関する物語』の主人公マイカ(吉田美月喜)と厳格な母エヴァ(津田真澄)の対立は、まるでスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンの映画のように胸が締めつけられる。親子愛はあったはずだが、それがどこかへ行方不明となってしまっている。そしていま、この母娘の対立のはざまでマイカの6歳になる娘が、大人たちの精神状態に振り回され、無為な移動をさせられ、勝手な都合で「もう寝なさい」とむりやり寝かしつけられる。デカローグ7は十戒では「汝、盗むなかれ」。さて、ここではいったい何が盗まれているのか。——おそらく、子どもが受けるべき愛と慈しみ、そして子どもが子どもらしく生きていける時間そのものが盗まれているのだろう。   [caption id="attachment_39399" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ9 ある孤独に関する物語』(右から)伊達 暁、宮崎秋人 / 撮影:宮川舞子[/caption] デカローグ9『ある孤独に関する物語』の主人公ロマン(伊達暁)はすべてを失う。医師に性的不能を宣告されただけでなく、妻のハンカ(万里紗)は近所の大学生と不倫している。しかしこれはロマンの悲劇と孤独への同情で終始する物語ではない。むしろ物語で試されている主体はハンカであり、彼女は侵犯者としての自分の進退をどのように向けようとするのかが焦点となる。全10話にわたって物語の舞台となってきたワルシャワの集合住宅において、ハンカは実母が転居した跡の空き部屋もキープし、そこが好都合な不倫現場となる。だがこの無人の余白こそ、彼女の弱点なのである。 筆者は「デカローグ」1〜4話について書いたレビュー記事、および5&6話についてのレビュー記事において、この未曾有の大型演劇プロジェクトの真の主人公は、人間たちのうごめく数棟の集合住宅である、と重ねて強調してきた。そしてそのうごめきを根底から支えるコーナーキューブ状の空間をしつらえた針生康(はりう・しずか)によるセット構造こそ、今回の連続上演の肝であり、ヨーロッパ演劇シーンでも高い評価を得てきたこの舞台美術家がエピソードごとに縦横無尽に組み替えてみせるセット構造が、人間生活の代替性、可塑性、非人称性、没個性を残酷にきわだたせているのだと強調してきた。 「デカローグ」1〜4話の記事⇒https://www.kinejun.com/article/view/37358 「デカローグ」5&6話の記事⇒https://www.kinejun.com/article/view/38264   [caption id="attachment_39395" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ8 ある過去に関する物語』(左から)高田聖子、大滝 寛 、岡本玲 / 撮影:宮川舞子[/caption] そして最終プログラムのうちデカローグ8『ある過去に関する物語』こそ、今回の連続上演の総括ともいうべき状況を作り出しているのではないか、と筆者は考える。集合住宅のセットは絶えず組み替えられ、あらゆる人々の喜怒哀楽を飲み込んできた。それは小宇宙と化し、社会/人間生活についての仔細なジオラマを形成してきた。 ところが『ある過去に関する物語』において、大学で倫理学を講じる女性教授ゾフィア(高田聖子)と、彼女の著作を英訳してきたアメリカ在住の女性エルジュビェタ(岡本玲)のあいだの苛酷な過去の宿縁が白日のもとに晒され、ゾフィアという倫理学者の依って立つ倫理性が再審にふされた日、集合住宅内の自宅にエルジュビェタを招待したゾフィアは、なぜかはよくわからない理由でエルジュビェタを見失ってしまう。勝手知ったるはずの集合住宅のいつもの階段、いつもの廊下、いつもの隣人が、突然に気味の悪い未知の領域へと転移していってしまったかのようだ。   [caption id="attachment_39394" align="aligncenter" width="1024"] 『デカローグ8 ある過去に関する物語』(右から)高田聖子、岡本 玲 / 撮影:宮川舞子[/caption] さいわい再び姿を現したエルジュビェタとゾフィアは、ふたりサイド・バイ・サイドで集合住宅がずらりと数棟並ぶ風景を当惑げに見上げる。 「変わったアパートですね」「そして変わった人たち」 さらにもう一度見上げて、「変わった国」とつぶやく。ここに至ってついに、集合住宅という無人格化された神の視点が、そこにうごめく人々――ここではエルジュビェタとゾフィア――の目線を借りて転移し、映画とは異なる演劇にとっては絶対に不可能であるはずのショット/リバースショット(切り返しショット)が仮構されてしまう瞬間に、私たちは立ち会うことになるのである。 その切り返しショットとは何だったのか? そう、それは登場人物と、実際には彼らには見えていないはずの「第四の壁」たる客席とのあいだで交わされたショット/リバースショット(切り返しショット)である。おもむろに客電が薄ら暗く点灯し、女性二人は私たち客席の群衆を見上げる格好となる。今回の壮大プロジェクト「デカローグ」で起きたこととは、不可能であるはずのショット/リバースショット(切り返しショット)を仮構しつつ、舞台を見ているはずの私たち観客を登場人物が見返すことであり、私たち観客は、この巨大作品の主人公たる集合住宅の建築物そのものへと転化させられる形となったのである。このような異様な試みによって、私たちは、知らず知らずのうちに作品内へと吸収されていたわけである。物語環境への観客の吸収というこの事態に、私たちは大いに戦慄すべきである。 文=荻野洋一 制作=キネマ旬報社  【『デカローグ7~10』[プログラムD ・ E 交互 上演]公演概要】 【公演期間】2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝) 【会場】新国立劇場 小劇場 【原作】クシシュトフ・キェシロフスキ、クシシュトフ・ピェシェヴィチ 【翻訳】久山宏一 【上演台本】須貝 英 【演出】上村聡史/小川絵梨子 デカローグ7 『ある告白に関する物語』 演出:上村聡史 出演: 吉田美月喜、章平、津田真澄/大滝 寛、田中穂先、堀元宗一朗、 笹野美由紀、伊海実紗/安田世理・三井絢月(交互出演)/亀田佳明 デカローグ8『ある過去に関する物語』 演出:上村聡史 出演:高田聖子、岡本玲、大滝 寛/田中穂先、章平、堀元宗一朗、笹野美由紀、伊海実紗/亀田佳明 デカローグ9 『ある孤独に関する物語』 演出:小川絵梨子 出演:伊達 暁、万里紗、宮崎秋人/笠井日向、鈴木将一朗、松本 亮、石母田史朗/亀田佳明 デカローグ10『ある希望に関する物語』 演出:小川絵梨子 出演:竪山隼太、石母田史朗/鈴木将一朗、松本 亮、伊達 暁、宮崎秋人、笠井日向、万里紗/亀田佳明 【公式HP】https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog-de/
  • 東京の路地裏にある、中華店のような佇まいの料理屋〈一香軒〉。その店主は、料理の腕は超一流だが、客の悩みを勝手に“勘違い”し、見当違いなアドバイスで困惑させるズレたオヤジだった──。足立和平の異色グルメ漫画を仲村トオル主演でドラマ化した『飯を喰らひて華と告ぐ』が、7月9日(火)23:45にTOKYO MXで放送開始。店主と客たちを捉えた場面写真、ならびに店主が自信満々に“格言”を発するシーンの映像が到着した。       上司に叱責されてむしゃくしゃしているサラリーマン(田村健太郎)、夫との旅行がキャンセルとなり肩を落とす主婦(猫背椿)……。一香軒に足を踏み入れた客たちは、店主の応対に困惑したり立腹したり笑ったりしながら、少しだけ元気を取り戻していく。   https://youtu.be/DeeVhMuluyc 第1話『ハンバーグ』に登場する「美きものにて事を成す」をはじめ、各話で披露される謎の“格言”も見どころだ。なお原作コミック完結編となる第4巻が本日(6月28日)発売、併せてチェックを。   『飯を喰らひて華と告ぐ』 主演:仲村トオル 各話ゲスト:田村健太郎、猫背椿、吉村界人、きたろう、高橋ひとみ、三河悠冴、華村あすか、福井俊太郎(GAG)、山崎紘菜、山城琉飛、円井わん、柄本時生(※放送話順) 原作:足立和平「飯を喰らひて華と告ぐ」(白泉社「ヤングアニマルWeb」連載) 監督:近藤啓介、井上雄介 脚本:近藤啓介、神谷圭介、金子鈴幸 主題歌:フィッシュマンズ「ごきげんはいかがですか」 制作プロダクション:オフィスクレッシェンド 製作:「飯を喰らひて華と告ぐ」製作委員会 公式サイト:meshikura.com 公式X:@meshikura_drama
  •   1960〜70年代に人気を誇ったロックバンド、ブラッド・スウェット&ティアーズ(BS&T)。東欧ツアーで彼らが巻き込まれた“政治の渦”に迫るドキュメンタリー「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?」が、9月27日(金)より恵比寿ガーデンシネマ、シネマート新宿、シネ・リーブル池袋ほか全国で順次公開される。メインビジュアルと予告編が到着した。     “鉄のカーテン”の向こう側で撮影された門外不出のフィルム、BS&Tメンバーや関係者が提供した写真と証言、禁じられたロックに沸く聴衆が印象的な未発表ライブ映像、ニクソンとヘンリー・キッシンジャー国務長官が交わしたアメリカ政府文書、ルーマニアの秘密警察のファイル──。数多の機密データから、ロック史のみならず分断の世界史も明らかに。   https://www.youtube.com/watch?v=eWMqhvSaS-g   監督は「PEACE BED アメリカVSジョン・レノン」(2006)「ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン」(2016)のジョン・シャインフェルド。「本作は音楽愛好家やBS&Tファンのためだけのものではない。政治スリラーであり、驚くほど力強い共鳴と、今日世界で起きていることとの類似性を持っている」と語っている。帰国したメンバーに待ち受ける事態まで、衝撃の一部始終を見届けたい。     「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?」 監督:ジョン・シャインフェルド 出演:ボビー・コロンビー、スティーヴ・カッツ、デヴィッド・クレイトン・トーマス、ジム・フィールダー、フレッド・リプシウス(以上BS&Tメンバー)、クライヴ・デイヴィス(プロデューサー) 字幕:山口三平/2023年/アメリカ/112分 原題:What The Hell Happened To Blood Sweat & Tears? 配給・宣伝:ディスクユニオン 配給協力:アルファズベット 公式サイト:https://www.bloodsweatandtearsmovie.com/
  •   リチャード・リンクレイター監督(「6歳のボクが、大人になるまで。」「スクール・オブ・ロック」「ビフォア」シリーズ)とグレン・パウエル(「トップガン マーヴェリック」「恋するプリテンダー」「ツイスターズ」)がタッグ結成。“偽の殺し屋”の実話に基づくセクシーでスリリングなクライムコメディ「ヒットマン」が、9月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国で公開される。ポスタービジュアルと予告編が到着した。     ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソン。大学で心理学と哲学を教えつつ、地元警察に技術スタッフとして協力していた。そんな中、殺人の依頼者を捕まえる囮捜査にあたって殺し屋役となるはずだった警官が職務停止に。その代わりを務めることになったゲイリーは、容姿も人格も次々と変える才能を発揮し、手柄を立てていく。 ところがマディソンという女性が支配的な夫の殺害を依頼してきたことで、運命が一変。彼女を逮捕するどころか、ゲイリーは「この金で家を出て新しい人生を手に入れろ」と見逃してしまうのだ。二人の関係は危機の連鎖を引き起こし……。   https://www.youtube.com/watch?v=xbTGZccCBCA   1990年代の“偽の殺し屋”の実話を知ったグレン・パウエルが、「エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に」で組んだリチャード・リンクレイターに電話したことで、企画がスタート。両者の共同脚本をもとに完成した映画は、2023年ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映され、サンダンス、トロントなど数々の映画祭に招待された。 夫殺しを依頼するマディソンを演じるのは、「モービウス」のアドリア・アルホナ。ゲイリーが選ぶべき姿は“殺し屋”か素の自分か、そしてマディソンとの恋の行方やいかに?     「ヒットマン」 監督:リチャード・リンクレイター 脚本:リチャード・リンクレイター、グレン・パウエル 出演:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ 原題:HIT MAN/2023年/アメリカ映画/英語/115分/シネスコ/カラー/5.1ch 日本語字幕:星加久実 配給:KADOKAWA PG12 © 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED 公式サイト:https://hit-man-movie.jp/
  • 46年前の1978年6月24日、全米公開から約1年、日本中の映画ファンが待ちに待った「スター・ウォーズ」が日本で初公開(先行上映)された歴史的な日だ。前年の5月に全米公開され、未曾有の大ヒットを記録、その約1年後、日本列島をその熱狂の渦で包み込んだ。その後、映画史に残した足跡、伝説は語るまでもないが、その始まりの前夜にどれだけの物語が存在したのか。 もしかしたら、この伝説はすべて夢となっていたかもしれない── フランスですでに8万部以上を売上げた大ベストセラー、「ルーカス・ウォーズ」。ジョージ・ルーカスの生い立ちから「スター・ウォーズ」誕生までを描いたこのバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)からその裏側を読み解きたい。  【全4回ー④】   ルーカスに影響を与えた(!?)『ヴァレリアンとロールレンヌ』 バンド・デシネのSF金字塔と呼ばれた『ヴァレリアンとロールレンヌ』はどうだろうか。ルーカスが同作から影響を受けたと言及したことはないが、同作の原作者のひとりであるピエール・クリスティンは「スター・ウォーズ」には彼らの作品との共通点を多数見出したと当時認めており、実際、80年代にはフランスの人々は「スター・ウォーズはヴァレリアンをパクったものだ」という認識が支配的だったと語っている。 共著者のジャン=クロード・メジエールは「スター・ウォーズ」に対しては厳しいスタンスだったが、クリスティンの方は「私たちもヴァレリアンを創作するにあたってアイザック・アシモフやレイ・ブラッドベリを参考にした。ルーカスも彼らの本を参考にしただろうから、似てくる部分があるのは当然だろう」として寛容な態度を示している。 実際のところはどうなのだろうか。個人的には『ヴァレリアンとロールレンヌ』の影響があった確率は五分五分くらいではないかと思っている。その理由は「ミレニアム・ファルコンのデザイン」だ。『ヴァレリアンとロールレンヌ』には主人公たちが駆る「イントルーダーXB982」という宇宙船が登場するが、これが「平べったい円形」のデザインで、確かに「ミレニアム・ファルコン」に似ていると言える。 だが、そもそもファルコンのデザインに関しては、当初、コリン・キャントウェルがデザインした初期案があり、ミニチュアも作られていたのだが、これが当時テレビで放映中だったSFドラマ『スペース1999』に登場する宇宙船「イーグル」に似ているということでルーカスが気づいて却下。急遽新デザインを作るように求めた。この時、「平べったい円形のもの」という方向性をルーカスは指示しており、これをジョー・ジョンストンらが現在の形の「ミレニアム・ファルコン」にまとめ上げた。 この時、もしルーカスが『ヴァレリアンとロールレンヌ』を知っていて参考にしたのであれば、そもそも「平べったい円形」などという指示は出していなかったはずだ。だから少なくとも第1作の時点でルーカスはこのコミックを「知らなかった」と推測できるわけだ。ただし、それ以降の『帝国の逆襲』や『ジェダイの帰還』の頃にはルーカスや、少なくともデザインチームの誰かが知っていた可能性はある。それほどこの2つのコンテンツには類似点があるからだ。これが「五分五分では」と考える理由である。 「スター・ウォーズ」登場でさらに広がったSF映画市場 いずれにせよ、多くのSF&ファンタジー作品の中で展開されていた「センス・オブ・ワンダー」の数々をルーカスが換骨奪胎していったことは間違いないだろうし、これがやがて「スター・ウォーズ」として結実することになった。そしてその後はルーカスが生み出した「スター・ウォーズ」が逆に世界中に多大な影響をもたらしていくことになる。 2017年、リュック・ベッソン監督が『ヴァレリアンとロールリンヌ』を映画化した「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」が公開された。画面の隅から隅まで凝りに凝ったこの作品は実にウイットに富んだフランスらしいSF大作で、すべての観客を魅了する美しい美術デザインも含めて、まさに「バンド・デシネ」が生んだ新しい映像作品となっていたが、これも1977年の「スター・ウォーズ」の歴史的成功によって切り開かれたSF映画という市場と、それに続く数々の技術革新がなければ実現できなかっただろう。 また、英語圏以外では「知らない人はいない」とまで言われる『アステリックス』も1999年からジェラール・ドパルデュー主演で実写映画シリーズが作られているが、古代ローマ時代を描いた物語なのに、たびたび「スター・ウォーズ」のギャグが登場するのだが、これも「スター・ウォーズ」の持つ文化的な懐の広さゆえの結果なのだろうと思う。 余談だがこのシリーズはフランス映画界で記録的な製作費をかけて製作され、記録的なヒットを続けてきたのだが、毎回豪華なゲストが出演し、バカバカしいコメディを真面目に演じているのが面白い。第1作「アステリクスとオベリクス」にはカエサルの副官としてイタリア人俳優のロベルト・ベニーニが、第2作「ミッション・クレオパトラ」(2002年)ではモニカ・ベルッチ、第3作「アステリックスと仲間たち オリンピック大奮闘」(2008年)ではカエサル役にアラン・ドロンが登場。 また、戦車競走の場面ではほとんどフェラーリにしか見えないドイツのチームが出場するのだが、戦車を駆るのは元F1王者のミハエル・シューマッハで、チーム監督をなんとフェラーリ時代の監督ジャン・トッドが熱演していて、F1が好きな人には堪らない場面となっている。他にもサッカーのジダンなど世界各国の著名アスリートがカメオ出演している。第4作「アステリックスの冒険〜秘薬を守る戦い」(2012年)にはカトリーヌ・ドヌーヴが女王を演じ、最新作「アステリックスとオベリックス ミドル・キングダム」ではカエサルをヴァンサン・カッセル、クレオパトラをマリオン・コティヤールという顔ぶれになっている。原作は全世界で3億5000万部以上を売り上げたという国民的コンテンツなだけに、これだけの予算とこれだけのキャストを集められるものだと、バンド・デシネの底力を見せつけられた思いである。本書によってスター・ウォーズとバンド・デシネに興味を持った方は、ぜひご覧になってみることをお勧めする。 文=河原一久 制作=キネマ旬報社   【書籍名】ルーカス・ウォーズ 【著者名】ロラン・オプマン 作 ルノー・ロッシュ 画 原正人 翻訳 河原一久 監修 【ISBNコード】978-4-87376-491-7 【判型・頁数】A4判/208頁/書籍 【刊行年月】2024年5月 ▶本の詳細・購入はコチラから