映画専門家レビュー一覧

  • LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      手法に依拠した映画の不自由さと面白さ。キャストの熱演にも圧され飽かず楽しく観たが受け入れられないことが二つ。ひとつは最初のほうのラブシーンで、あの鎖骨にローション塗ってカラダ擦りあわせてアハーンっちゅうのは何なの。入ってないだろ。それとも私の考えるセックスの仕方が間違っているのか。妻も子もいるのだが。もうひとつは唐突で蛇足な勧善懲悪ラスト。いまだに「太陽がいっぱい」のドロンの逃げ切りを許さない感覚か。エンドクレジット途中の退出をお奨めする。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      冒頭約20分のワンカット、リアルタイム進行、密室における会話劇。これらの要素によって「劇団主宰者による演出だから舞台的なのだ」と単純に紐付けてしまうのは勿体ない。例えば、“公務員”という言葉の持つ固定観念によって観客をミスリードさせ、劇中のカメラに記録された映像を観ているという体の我々観客にフレームの外側を想像させていることを窺わせる。そして、日本映画界の現状に苦言を呈してきた三上博史が、14年もの時を経て主演を引き受けた点にも本作の意味がある。

  • バジュランギおじさんと、小さな迷子

    • ライター

      石村加奈

      歌って踊って、大いに笑って泣いて、盛り沢山な、ザッツ・マサラムービーである。主人公パワンのバカがつくほどの正直ぶりは、人気俳優サルマン・カーンの魅力もあいまって、壮大な物語の中でだんだんと心揺さぶられていくのだが、喋れない迷子の少女シャヒーダー(オーディションで、5000人の中から選ばれたハルシャーリー・マルホートラ)の、アンニュイなかわいらしさに反する、手癖の悪さはいかがなものか? そんな些末なことが気になるのは単に観る側の狭量さゆえかも知れないが。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      インド映画の長尺を云々するのはお門違いだが、内容から言って159分は長い。釈迦に説法ながら100分に編集し直したらもっと良くなるのではないか。口の利けない迷子の少女は6歳。しかし自分の住んでいた村の名前くらいは書けないものか。世界中の幼稚園児が英語を学んだりしている時代なのだから。しかしそれを言い出すと、本作の成り立ちそのものが崩れてしまう。ここは印パの国境対立が話をややこしくし、サスペンスを持続させる点を受け止めて楽しむべきなのだろう。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      迷子になった少女を気のいいオッサンが面倒を見る。よくある設定。展開はご都合よすぎるし、泣かせ笑わせの描写は泥臭くしつこい。相変わらずのインド映画だと思いつつ引きこまれていくのは、そこに娯楽映画、その根本の精神があるからか。歌舞場面が香辛料のようにピリリと効いて、役者連もいい味を出して。それよりも少女が口を利けない。その沈黙が言語や宗教や国境を超越して人間同士を結びつけた。それを誰にでも分かるスタイルで描いて。あ、これ、社会派の説法映画なんだと。

  • ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      『ライ麦畑でつかまえて』や『フラニーとゾーイ』などの小説は読んでいたが、謎めいたサリンジャーの生涯はよく知らなかった。コロンビア大学で創作を学ぶも第二次大戦は戦場の最前線で過ごし、やがてベストセラー作家になるもファンに追いかけられて田舎に隠棲する。師事した教授や編集者、恋人や妻とのドラマを交えながら説得的に描く。アメリカ映画離れした陰影の濃いライティングと、東海岸のヨーロッパ的な建築物や室内装飾のなかに作家の成長と喪失が刻みこまれた見事な作品。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      『ライ麦畑でつかまえて』を何度か読んで知った気になっていたJ・D・サリンジャー。だが映画のニコラス・ホルトのサリンジャーは、活字の中にのみ存在していた作家に肉を付け血を通わせてくれる。ストーク・クラブに足繁く通う青年のウーナ・オニールへの恋。軍隊生活に戦争体験。PTSD、禅やヨガへの傾倒。そうか、ホールデンはサリンジャーだったのか。ケヴィン・スペイシーのストーリー誌編集長との関係が見どころ。二人のラストが余韻を残す。きれいにまとめた半生記だ。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      映画的な文学というものがあるとしたら、これは文学的な映画だ。映画が表層だとしたら文学は内面であり、本作の映像文体は内面から組み立てられているように見える。ニコラス・ホルトは作家という厄介な、そして愛すべき生き物の醜さに、実に美しく寄り添っている。サリンジャーといえばその生涯の長きは隠遁生活であり、生前から半ば伝説的な存在となっていたが、その神秘性がまた彼の文学性を高めたともいえる。このような映画が作られたのも本人の没後だからこそできたことだろう。

  • TAXi ダイヤモンド・ミッション

    • 翻訳家

      篠儀直子

      下ネタありのお下劣コメディ映画の系譜というのが確かにフランスにはあるのだが、語りのアイディアや間合い、編集のリズム等が笑いを引き出す要素になっていれば、笑いの感覚がフランスと異なる日本でも、結構喜ばれたりする。でも、この映画の前半のように、役者たちのくどい演技にもっぱら頼るのでは、生理的にまったく受けつけない人もたくさん出てきそう。ばかキャラばかりが出てくるせいで余計にそう思うのかもしれないけれど、主人公の恋の相手になる女性整備工がかっこいい。

    • 映画監督

      内藤誠

      オリヴィエ・プリオルの『美女と拳銃』(中条省平、志穂訳)によると、リュック・ベッソンは後輩に対し面倒見がいい人物だが、この作品も「TAXi」シリーズを少年時代に見たF・ガスタンビドとM・ベンタルハのコンビがベッソンの協力のもとに仕上げた作品らしく、アクションの仕掛けや、いささか下品なギャグまで含めてベッソン流である。舞台をマルセーユにしたところが効果的で、おなじみベルナール・ファルシーが名物署長から市長に転じて、いきいきと演じているのも笑わせる。

    • ライター

      平田裕介

      リブートだと思い込んでいた10年ぶりの新作だが、主人公コンビの片方にダニエルの甥を引っ張り出すことでかろうじて本線維持。彼が叔父とは真逆のダメ男で、旧4作におけるエミリアンの役割を担うのが面白い。とはいえギャグはベタベタ、奇人変人揃いのキャラを活かし切れていないのは相変わらず。あのプジョー改造タクシーも登場、インパネのタッチパネル化などの今風のバージョンアップを期待したがタブレットを付けた程度でガッカリ。新主人公の片方、F・ガスタンビドゥは◎。

  • マイル22

    • 翻訳家

      篠儀直子

      続篇製作が前提になっているのか、主人公の設定も組織の設定も、いきなり「全部載せ」の過剰な状態で提示される。盛り沢山なこと自体は別に悪いことではないのだが、カット割りが滅茶苦茶せわしないのも手伝って、面白い要素しか出てこないのに全部消化不良、という印象を受けてしまう。あと、ボゴタを東南アジアに見立てて撮影しているけれど、やっぱり南米にしか見えないのはどうしたものか。最高にかっこいい儲け役はイコ・ウワイスで、特に医務室での素晴らしい格闘シーンは必見。

    • 映画監督

      内藤誠

      マーク・ウォールバーグひきいるCIA機密特殊部隊がアメリカ東海岸の町でロシア諜報部を相手に秘密作戦を敢行するところから始まるのだが、構成はいつのまにか複雑化し、架空の国インドカーが舞台になって、盗まれたセシウムをめぐり、当地の警官イコ・ウワイスを無事アメリカへ亡命させるミッションへと物語が切りかわる。二つの話はつながっているのだけれど、その間に様々な武器を使った銃撃戦やイコの格闘技が入り、カメラも多面的にショットを重ねるので、筋を追うのがたいへん。

    • ライター

      平田裕介

      やはり、ピーター・バーグも「ガントレット」「16ブロック」みたいな“護送もの”を撮りたかったのだなと当初はホクホク。大使館、市街地、店舗など場所をめまぐるしく移動、刺客たちとの攻防も銃撃、爆破、格闘、爆撃と多種多彩で飽きさせないのは立派だが、最も戦いが派手に行われるのが高層アパート。で、イコ・ウワイスも出演なわけで「ザ・レイド」を撮りたかったのかと気づいた。そこで留めればいいのに、色気を出してさほど仰天しないどんでん返しを入れ込んだせいでちょい醒め。

  • チワワちゃん

    • 映画評論

      北川れい子

      えっ、チクワちゃん!? むろんこちらの早トチリ。でもあながち間違っていないのかも。都会のピカピカした溜まり場で、金魚のフンのように仲間たちの間を漂いながら、いつしか独りはぐれ、あげくバラバラ死体となるチワワちゃん。彼女ほど悲惨ではなくとも、そのチクワの穴にも似た無自覚的空洞感は、多くの青春に共通するものがあるし。過剰なほどバブリーでポップな演出が、逆に彼らの孤独感と不安を浮上させ、その辺りもスリリング。都会の青春というメッキが?がれた終盤も痛烈。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      げ、「スプリング・ブレイカーズ」のパクリか、と若干疑わしい眼で見始めたものの、エキストラも含め出演者陣がビキニと海パンを若い肉体で着こなし、跳ねる動きに高さがあり、本家に迫る堂に入ったノリで画面に汗と精液と愛液の臭いを充満させたことには唸りました。なおかつ模倣の限界を知り、そこからは独自の語りやイマココ感を出してきたのも良かった。岡崎京子原作?(観終えてから資料で知った) 余裕で岡崎京子原作映画化の最高傑作だと思う。ノスタルジアじゃないから。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      多角的な証言によって“チワワちゃん”の実像を積み上げてゆくという原作に沿った構成。奇しくも平成最後の時代に製作された本作は、現代の「市民ケーン」(41)とも評すべき。そして音楽をはじめとする文化や文明の利器が変わっても、若者たちが社会へ抱く不信と不安は普遍的であると指摘。岡崎京子の教典を基に、その精神を受け継ぎながらも若者たちが皆“地方出身者”であると描いた終幕は、ある意味で原作を凌駕。“チワワちゃん”のビジュアルを体現した吉田志織も素晴らしい。

  • 映画 めんたいぴりり

    • 映画評論家

      北川れい子

      ドラマ版も作られているそうだが、うーん、この劇場版、映画というより吉本新喜劇の舞台中継でも観ているようで、場面も似たようなシーンばかり。主人公役・博多華丸の目玉と口だけの演技からして芝居のそれだし、彼が“めんたいこ”作りに夢中な理由も台詞でアッサリ片付けるだけ。そもそも“めんたいこ”作りに精進する場面すらない。ま、主人公を軸にした人情劇と言えないこともないが、戦争の傷跡とかもついでに盛り込んだという感じ。女房役の富田靖子もただ出ているだけだった。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      もう何カ月も放映されているドラマを途中の回から観た感じ。クレジット画面や本篇中のセットがまたNHKの連続テレビ小説のようで。……と思っていたらテレビ西日本が制作したドラマの、同じ監督、主要キャスト同一俳優による映画化。だがそのことも悪くないし、けなす理由にもしたくない。何か全篇に好ましいものがある。皆様ご存じの、という口上に続く演者が確信に満ちて見事な場合、ご存じない者は恥じるのみ。第一、富田靖子が「この国の空」を思い出させる良さではないか。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      明太子なるものは、一粒ではなく一粒一粒が幾つも集まって明太子を形成する。例えば、冒頭の酒盛り、あるいは、山笠。そこには人の姿で溢れ、ひとりひとりの存在が集まって、一つの集合体を形成することを映し出している。つまり、人々が暮らし、集うことで街が形成されている福岡・中洲という街並もまた、明太子のようだと感じさせるのだ。人と人が寄り添いながら生き、そこには人生の機微もある。本作は群像劇としてもそのことを描いている。明太子はまるで人生のようではないか。

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