映画専門家レビュー一覧

  • ハッピー・デス・デイ

    • 映画監督

      内藤誠

      ヒロインの女子大生を演じるジェシカ・ロースが可愛さのなかに、バカっぽい表情をしのばせて熱演。彼女をとりまく校内の人間関係もリアルで、青春映画らしく笑わせる。ジェシカは酒に酔って男子学生イズラエル・ブルサードの部屋に泊まり、繰り返し悪夢を見るというタイムループものになっていくのだが、この実験的ともいえる手法が娯楽映画としてはよく考えられていて面白い。それには連続殺人鬼がかぶっているベビー・フェイスのマスクの無気味でおかしいデザインの力もある。

    • ライター

      平田裕介

      スラッシャー映画で真っ先に殺される存在である金髪ヤリマンをヒロインに据えた時点ですでに面白い。泣き喚くのは最初だけで、どうせ繰り返すのだからといろいろな殺され方や死に方、人前での放屁などを楽しむ彼女のキャラクターにも惹かれてしまう。また、ビッチ化する原因となったアレコレと向き合って成長する、“殺されるけど生まれ変わる”物語になっているのも上手い。ループしてれば死なないという弱点を回避すべくリミットを設けているが、いまいち機能していないのは残念。

  • ゴールデン・リバー

    • 翻訳家

      篠儀直子

      西部劇なのにガンアクションを、というよりもアクション自体を撮ることをすべて回避している不思議な映画で、描かれるのは、つかの間の桃源郷を折り返し点として、追跡し、追跡される者たちの魂の軌跡。彼らの桃源郷は、暴力的な父権を(および、もしかしたら女たちをも)排除したところにある。ジョン・C・ライリー好演。近年の西部劇映画には珍しい豊かな色彩で描かれる西部の生活と自然(ただしロケ地はヨーロッパ)が目に楽しく、デスプラの個性的なスコアが抜群にかっこいい。

    • 映画監督

      内藤誠

      フランスのジャック・オーディアールが監督する新しい趣向の西部劇。遠くで拳銃の火花が散る冒頭の場面からスタイリッシュで、次々に予期せぬ事件があり、サスペンスもある。ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックスの殺し屋兄弟がオレゴン一帯を取り仕切る提督に頼まれて、リズ・アーメッドを殺す旅に出る物語だが、せりふも文学的で、随所に笑わせるところもある。アーメッドは黄金を見分ける発明をした化学者でジェイク・ギレンホールがからみ、意外な展開を描く映像が秀逸だ。

    • ライター

      平田裕介

      殺し屋兄弟と化学式を握る者たちの追いつ追われつが展開するのかと思いきや、西部開拓時代が舞台のスローライフ称賛ドラマともいうべき意外にもノンビリした物語で、二組を描く配分もなんだかチグハグ。銃撃戦もあることにはあるがまったくもって派手ではない。それでも引き込まれるのは良い役者が揃い、各々がそれなりに魅せてくれるから。「ガルヴェストン」もそうだったが、フランス人監督がアメリカンな作品を撮ることで生じる良い意味での“ズレ”みたいなものは堪能できた。

  • ハッピー・デス・デイ 2U

    • 翻訳家

      篠儀直子

      何だかつじつまが合ってないところがいくつかある気がするがそこは目をつぶって、前作から続けて観ると馬鹿みたいに楽しい。1度目は悲劇でも2度目は笑劇だというあの言葉じゃないけれど、笑いの要素が爆走する今作は、まるで前作のパロディとして撮られたかのようだ。試練を経て並外れた度胸の持ち主となったヒロインはもはや何でも来い状態、意外な才能が開花するくだりには爆笑。並行世界だから演者がそれぞれ前作と違う顔を見せるのも面白く、人生についての苦く鋭い考察もあり。

    • 映画監督

      内藤誠

      前作はスコット・ロブデルの脚本構成に感心したが、好評につき続篇となった「2U」はクリストファー・ランドン監督が脚本も書いて、タイム・ループものに、パラレル・ワールドのSF世界を加味している。イズラエル・ブルサードのルームメイトとして道化役に徹していたファイ・ヴが理工学生として量子学研究室で物語の鍵を握る人物を演じるのだが、前作でいい味を出したせいだろう。キャラクターに微妙な変化があってジェシカ・ロースもマジメになり、映画はいささか理屈っぽくなった。

    • ライター

      平田裕介

      今度はタイムループだけでなく、パラレルワールドからも脱却するという二段構えのスリルを用意。コメディ色はかなり強くなり、発電所の大爆発を筆頭に見せ場も派手になっており、ヒロインをのぞく前作登場キャラクターの“パラレルぶり”も楽しくはある。しかし「1」同様にこちらの世界に残っても悪くはないという弱点がチラつくし、そこで葛藤させる展開にもさせているが、やはり盛り上がりには繋がらず。SFコメディにシフトして続きそうな気配だが、これで止めたほうがいい気が。

  • ウィーアーリトルゾンビーズ

    • 映画評論家

      北川れい子

      確かにゲームやアニメを盛り込んだポップなビジュアル演出は、テレビCMやプロモーション・ビデオを連想させなくはない。けれども冒頭にカミュ『異邦人』のあの有名な書き出しをそっくり引用し、終盤では同じく不条理作家カフカの『城』にまで言及するペダンチックぶりは、それを口にするのが親が死んでも泣けない子どもたちだけに、逆に説得力があり、脚本も書いている長久監督の周到な計算は、実にスリリング。“あらかじめ失われた子どもたち”の「変身」的旅立ちに拍手!!

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      劇中バンドが歌い奏でる曲の、ない、ない、とhave not とdenaial を重ねる歌詞と、ウィー・アーの語にちょっと電気グルーヴの曲ふたつくらいを連想するが、それがこどもっぽい声で叫ばれるところに、90年代的世紀末的ヤケクソさから打って出ることがもっとチャーミングに生きなおされている感じがあった。昨今のゾンビという概念のポップ化はぶち殺されてもいいものとしてゲームで使用され続けた結果の再発見。そこにアイデンティファイしてからの再生。それは強い。希望でしかない。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      平成の終わりに作られ、令和という“新時代”のはじまりを告げる作品だ。前作に続いて長久允監督は、ゴミ箱視点・魚視点・清掃車視点などの奇妙な主観、幾何学的で虚無な俯瞰ショットなどの個性的な視覚的表現を実践。それらは現実と非現実、有機質と無機質との境界線を構築。“神の視点”のような俯瞰ショットは〈生と死〉を想起させ、同時に「人生はゲームではない」という反定立をも導いている。奇抜な映像や厭世観に騙されてはならない。あくまでもこの映画は、人生讃歌だからだ。

  • パージ:エクスペリメント

    • 翻訳家

      篠儀直子

      「パージ法」が試験的に発令されていきなり殺し合いが始まるわけではなく、とりあえずみんなパーティーを始めちゃうというのがすごいリアリティ。そのあとひとひねりあってからまさかの展開、マイノリティによるアツいレジスタンス映画になる。感情移入できる登場人物を最初に複数提示することで、観客が当事者感覚を持てるよう工夫されているし、ここぞというアクション場面の撮り方もなかなか迫力あるのだから、ある種のホラー映画によくあるこけおどし的な音の演出は勘弁願いたい。

    • 映画監督

      内藤誠

      経済が破綻し、犯罪が増えるのを抑止するためにアメリカ政府はニューヨーク州スタテン島で、12時間、殺人を含む犯罪をしてもよいという「パージ法」を実行。参加者には5千ドルを支払うという、とんでもない話だが、アメリカの貧困層対策として奇妙なリアリティがあって怖い。実験時間中は仮面をつけた群衆や反政府デモ、右翼や暴力団の出動で、アナーキーな大混乱。ジェラード・マクマリー監督の演出もメリハリが効いているのだが、見終わったあとはアメリカという国にあきれはてる。

    • ライター

      平田裕介

      第1作こそ白人中間層の生活圏が舞台のホラーだったが、前2作はパージで淘汰される弱者たちの対抗組織と権力側の戦争映画とも呼べる仕上がり。今回もそれっぽくはあるが、立ち上がるのが“レペゼン、スタテン島”を掲げるギャングなのがミソ。パージで敵対組織に襲われると警戒するつもりが政府の思惑に気づき、地元愛と正義に目覚めて銃を取るという展開に燃えに燃えてしまった。今回も倒されてしまうのが惜しい優れたキャラのパージャー(参加者のこと)がワンサカなのも◎。

  • ずぶぬれて犬ころ

    • 評論家

      上野昻志

      住宅顕信という俳人を知らなかったが、本作に出てくる彼の自由律の俳句は、かなり面白い。彼の、病気とはいえ、あまりにも生き急いだ短い人生を辿るのというのも興味深い。ただ、それだけでは伝記映画になってしまうので、現代との関係性をつけるために、学校でイジメを受けている中学生を配し、彼が顕信の句に親しむなかで、勇気づけられていくという話を作ったというのもよくわかる。ただ、両者をつなぐ教頭の描き方というか、彼と子どもとの関係が、いまひとつ物足りない感じがする。

    • 映画評論家

      上島春彦

      夭折の俳人の最後の十数年をたどるというコンセプトで悪くなかったはずなのに、いじめ問題を不用意に入れ込んで台無しにしてしまった。ここまで教師が無能では、社会からいじめがなくなるわけはない。いじめられる子どもにとって、この俳人の存在が救いになったと思えないのだ。それに元々そういう俳句じゃないだろう。悩む少年を最初と最後だけ提示して、中は評伝風に句の成り立ちと俳人の関係を描くぐらいに留めておくべき。義務教育中の子どもをドロップアウトさせてどうするの。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      静かな佇まいの学生時代から、やがて僧籍を得て病と共生することになる短い時間を描く中で、純粋さを増していく住宅顕信を演じる木口健太が素晴らしい。余計な夾雑物が削ぎ落とされていくかのような表情の変化が良く、病室の限定された空間の中で情熱をあふれさせる演技のスケールに魅せられる。言葉にまつわる映画を作る困難さに正面から向き合うシンプルな構成が功を奏した分、現代のいじめ問題との二重構造がラスト以外では弱く見える。両者と関わる教頭の無能ぶりが気になる。

  • スノー・ロワイヤル

    • 翻訳家

      篠儀直子

      日本公開題名は「バトル・ロワイアル」のもじりだろうか。その名のとおり、父親による息子の敵討ちが、やがて二つの犯罪組織総がかりでの盛大な殺し合いへと発展する(ちょっと黒澤の「用心棒」みたいな事態でもある)。でもアゲアゲのアクションではなく、少しずつずれている感じのオフビートな可笑しさ。利発な男の子を中心に、お前ごときがこの子を息子に持つのはもったいないと言いたくなるそのダメ父と、息子を失った父親二人とが集結する終盤の図式も、女たちの賢明さも面白い。

    • 映画監督

      内藤誠

      ノルウェーの監督モランドがアメリカで自作品をリメイクするという試み。全篇、寒々とした雪景色の中でリーアム・ニーソンが運転する除雪車が迫力満点。息子を麻薬ギャングに殺されたニーソンの復讐物語だが、最終のターゲットになるトム・ベイトマンがこれ以上いやなキャラクターはないという人物を演じて話をもたせる。いつも陽気な先住民族のギャング団もトム・ジャクソン以下、作品に味をそえる。婦人警官役エミー・ロッサムなど描きたりないが、スタイリッシュな娯楽作品だ。

    • ライター

      平田裕介

      オリジナル版「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」と同じ監督が手掛けているわけだがハリウッド的味付けを一切することなく、復讐の連鎖や拡散、先住民と先住民面をする移民の対立といったテーマをこちらでもガツンと打ち出している。ただし主人公がリーアム・ニーソンであるため、はなから無双なオヤジにしか見えないという欠点が生じてしまっている。オリジナル版はステラン・スカルスガルドゆえに実直なオヤジが復讐鬼になる凄みと笑いがあったのだが……そこが少し残念。

11421 - 11440件表示/全11455件

今日は映画何の日?

注目記事