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略歴 / Brief history
【フランスとアメリカを往復し、人間性を探求した監督】フランス北部、ノール県テュムリー生まれ。父は砂糖工場と鉄工業を経営する大ブルジョワの家系。14歳の頃から映画に傾倒し、1951年に映画高等学院(IDHEC)に入学。卒業後、53年にジャック=イヴ・クストー監督のドキュメンタリー「沈黙の世界」の製作に参加。25歳の時に自己資金で製作した「死刑台のエレベーター」(57)で映画デビューを果たす。セットではなく、実際のパリの夜の街を移動撮影で捉えた映像、バックに流れるマイルス・デイヴィスの即興演奏などが話題となり大ヒット。当時の新しいフランス映画の流れ=ヌーヴェル・ヴァーグ(厳密にはルイ・マル自身はカイエ・デュ・シネマ派に属していないが)の初期を飾る1本となった。翌年に手がけた「恋人たち」(58)でも成功をおさめ、以後、レイモン・クノーの原作をスラップスティック・コメディに仕立てて今なおカルト的人気を誇る「地下鉄のザジ」(60)や、ブリジット・バルドーとマルチェロ・マストロヤンニというスターを起用した「私生活」(62)、エリック・サティのピアノ曲が印象的な「鬼火」(63)、ジャンヌ・モローとバルドー共演のミュージカル調ドラマ「ビバ!マリア」(65)など、好調な仕事ぶりを続ける。「恋人たち」はヴェネチア映画祭サンマルコ銀獅子賞、「鬼火」は同映画賞審査員賞、イタリア批評家賞をそれぞれ受賞。【自らの生きた時代をノスタルジックに描く】1977年にアメリカに渡り、人気新人女優のブルック・シールズ主演作「プリティ・ベビー」(78)、初老の元ギャングと女賭博師が活躍するアクション「アトランティック・シティ」(80)、社会派ドラマ「アラモベイ」(85)など多彩な作品を手がけ、この時期のフランス出身の監督として、アメリカで最も成功した一人となった。「アトランティック・シティ」はヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞。二度の離婚を経て80年には女優のキャンディス・バーゲンと結婚、一女をもうけている。87年、10年ぶりにフランスに戻り、「さよなら子供たち」を監督。自伝的色彩が濃厚なナチス占領時代の少年もので、セザール賞で作品賞など7部門を受賞。大好評をもって凱旋帰国を果たした。続いて手がけた「五月のミル」(89)も、五月革命さなかのフランスの田舎町を舞台に、母の葬儀のために集まったブルジョワ一家の様々な人間模様を描くドラマで、自らの生きた時代を愛情と苦味をこめてノスタルジックに回想し多くの共感を得た。息子の恋人に惹かれる男を描く「ダメージ」(92)の後、再びアメリカで、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を上演しようとするニューヨークの劇場を舞台にしたドキュメンタリー・タッチの「42丁目のワーニャ」(94)を手がけるが、これを遺作に95年にガンで死亡。母国フランスとアメリカを行き来する中で、様々なジャンルや題材を手がけながら、人間そのもの、人生そのものを探求していった監督であった。
ルイ・マルの関連作品 / Related Work
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42丁目のワーニャ
制作年: 1994アンドレ・グレゴリー演出によるチェーホフの『ワーニャ伯父さん』の通し稽古を、稽古のままフィルムに納めながら、そこに既存の映画・演劇の枠を越えた人間のドラマを映し出す演劇ドキュメンタリー。監督は「死刑台のエレベーター」「ダメージ」の才人ルイ・マルで、95年死去した彼の遺作となった。本作の収録版は、アンドレ・グレゴリーのために「摩天楼を夢みて」の劇作家/映画監督のデイヴィッド・マメットが現代的な解釈を加えて脚色した台本を用いて、89年から延べ4年に渡ってリハーサルが続けられたものだが、正式の舞台公演はされていない。マルは91年にこの通し稽古を見て映画化を思い立ち、94年5月に実現した。マルは『My Dinner with Andre』(81)でグレゴリーとウォーレス・ショーンの対話劇を取り上げており、二人はそれ以来の友人。撮影は「リービング・ラスベガス」のデクラン・クイン、美術はユージン・クイン、編集はナンシー・ベイカー。音楽は著名なジャズ・サックス奏者デューイ・レッドマンの息子であるジョシュア・レッドマン。出演は、「最後の誘惑」など映画出演もあるアンドレ・グレゴリーが演出家、その俳優たちに「ミセス・パーカー ~ジャズエイジの華~」のウォーレス・ショーン、このリハーサルを見たロバート・アルトマンにより「ショート・カッツ」に配役されたジュリアン・ムーア、「羊たちの沈黙」のブルック・スミスなど、ブロードウェイを中心にアメリカ演劇で活躍する名優たちが顔を揃える。 -
ダメージ
制作年: 1992イギリスの上流社会を舞台に、息子のガールフレンドと情事を重ねた男が家族と共に破滅していく姿を描く恋愛ドラマ。監督・製作は「五月のミル」のルイ・マル。国際的なベストセラーとなったジジョゼフィン・ハートの同名の処女小説を原作に、「ストラップレス」(監督・脚本)のデイヴィッド・ヘアーが脚本を執筆。撮影は「ミシシッピー・バーニング」のピーター・ビジウ。音楽は「ふたりのベロニカ」のズビグニエフ・プレイスネルが担当。主演は「KAFKA 迷宮の悪夢」のジェレミー・アイアンズ、「ポンヌフの恋人」のジュリエット・ビノシュ、本作でゴールデン・グローブ助演女優賞を受賞した「ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー」のミランダ・リチャードソン、「モーリス」のルパート・グレイヴス。また、「巴里のアメリカ人」「リリー」などの往年のミュージカル女優レスリー・キャロンが共演している。80点 -
ラヴィ・ド・ボエーム
制作年: 1992パリを舞台に、3人の芸術家のボヘミアン生活を描く。監督・製作・脚本は「コントラクト・キラー」のアキ・カウリスマキ、原作はアンリ・ミュルジェールの小説『ボヘミアン生活の情景』(Scenes de la vie de boheme)、撮影はティモ・サルミネンが担当、音楽はセルジュ・レジアニが歌う「僕は飲む」、しのはらとしたけが歌う「雪の降る町を」などの既成曲を使用している。70点