映画専門家レビュー一覧

  • 探偵なふたり:リターンズ

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      推理オタクと休職刑事の凸凹コンビに、元サイバー捜査隊のレジェンドが賑やかしとして加わり、トリオに。クォン・サンウとソン・ドンイルの、二人の快調なコンビネイション+新参のズッコケぶりは、そこそこ面白い。にしても二人が揃って妻に頭が上がらないのは不思議。コミカルな探偵物語を意図してのことだろうが、その分キレが不足。二人のキャラを工夫したらドラマが締まったかもと考えつつ、70年代の日本のTVドラマ、萩原健一と水谷豊の探偵コンビの愉快さを思い出す。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      コメディとシリアスの合わせ技バディムービー。続篇となる本作では、コメディリリーフとしての様相が目立つ超長身俳優イ・グァンスが加わって、コメディ映画としてのルックはさらに強化。肝心の事件は養護施設にまつわる犯罪で今日性も高いが、一方のコメディパートはコテコテ風味で、ギャグレベルの敷居はびっくりするほど低い。そのバランスの歪さゆえもはやこれが探偵ものである必要があるのかどうかという根本的な疑問に至る。ドリフターズや新喜劇のノリを楽しめるかどうかが鍵。

  • まく子

    • 評論家

      上野昻志

      サトシ役の山﨑光が、どこにでもいそうな男の子という感じで、鄙びた土地の空気に自然に溶け込んでいるのに対し、コズエと名乗る新音が、宇宙とは言わずとも、何処か遠い国から舞い降りた雰囲気なのが生きている。『風の又三郎』だと子どもたちだけの世界だが、これは、サトシの周りの大人たち、とりわけ草彅剛演じる温泉旅館の板場を預かる父親を中心にした俗な世界をベースにしているところに工夫がある。新音の枯れ葉を撒く姿もいいが、全体にもう少し弾んだ感じが欲しい。

    • 映画評論家

      上島春彦

      クライマックス、度が過ぎてシラけた感じはあるが楽しめる。「度が過ぎ」るというのは、秘密めいた小学生の話でよかったのに大人もファンタジーの世界に巻き込むのが今一つ分からない、ということ。基本的に『風の又三郎』と『謎の転校生』タイプの物語だが、問題の転校生が絶世の美少女。なので彼女に恋する少年の初めての夢精が描かれることになったりする。この時期の少年には実は自分の肉体こそが、コントロールの利かない他者なのである。浮気性の父親との和解の場面も滑稽で良い。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      最近は子どもを等身大の目線でリアルに描こうとするせいか、男性監督による男子像も、女性監督による女子像も画一的な印象を持つことが多い。本作の大人の目線で作り込まれた子どもと演技には、精緻な演出を施せばリアルを上回る虚構の中の自由が生まれることを実感させる。不思議な透明感を漂わせる大人びた新音が魅力的だが、大人未満子ども以上の宙ぶらりんな時期を煩悶しながら過ごす山﨑光の虚無的な表情が良い。草彅は脇に回ると手強い存在になると予想していた通りの好演。

  • Bの戦場

    • 映画評論家

      北川れい子

      俗言に、“美人は三日で飽きる。ブスは三日で慣れる”というのがある。この映画でお笑いのよしこが演じている主人公は“三日で慣れる”系だが、美人の頭文字もブスと同じB。いずれにしろ、B級ラブコメディとして人畜無害の作品ではある。“絶世のブス”以下、ブスの連発も陰湿さが皆無なのでただの記号ふうで、いや、それでもセクハラ絡みのことばであることは事実なのだが、主人公のキャラに自然体の愛嬌と誠実さがあり、よしこ、役者としても上々。ブス好き上司の方が差別的!?

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      面白い。本作の作り手が美人不美人の別はないとか、やっぱり心の美しさこそ大事、みたいな話で満足ではないことは、ヒロインが男に“私はブス好きだからあなたが好き”と言われて猛烈に反発するとか、彼女の個性を優しさ推しよりも立派に仕事をすること推しにするあたりにうかがえる。ガンバレルーヤよしこが完全に主役の器で走りきった。宣伝は絶対「美人が婚活~」と協働すべき。男が手前の汚いツラを棚にあげて女性の美醜を評し、それを彼女らの枷にしてきたことを問えばいい。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      挑発的なタイトルに騙されてはならない。どんなに辛いことがあっても常にポジティブな主人公の姿は、〈人は外見によらない〉という別の意味でのステレオタイプを導きながら、人に対する優しさや仕事に対する情熱を至極真っ当に説いてゆくからだ。芸人・よしこの表層的イメージを踏襲させることで、逆説的な〈美〉を感じさせるのは、演じるウェディングプランナーの内面を丁寧に積み重ねて描いている故。「どうせ吉本の映画案件でしょう?」というステレオタイプな揶揄は必要ない。

  • サンセット

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      ブダペストにきて高級帽子店で働くイリスのそばにカメラが貼りつき、彼女の正面、側面、後ろ姿をフレーム内におさめながら、その視点から見える光景を撮影していく。ダルデンヌ兄弟を思わせるその撮影手法によって、観客は混沌とした都会の現実のなかから、イリスが置かれている状況や、両親と兄と彼女に起きた過去を想像しながら観ることをうながされる。この方法論が時代劇でも効果的であることに驚く。主観でも客観でもない映画カメラの、対象との距離感についても再考させられる。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      ラースロー監督のデビュー作「サウルの息子」は、主題の衝撃と併せて、主人公の一人称目線といったらいいか、カメラの位置が気になっていた。それは今作も。ヒロインのイリスの目線として、1913年のブダペストから、歴史の出来事を映す。ただそれらは、冒頭部分で彼女が帽子のヴェールを上げて、テーマを暗示するも、はっきりとは見えない。それだけに難解ではあるが、結末のイリスの大きく見開いた曇りのない眼は、しっかり現代を見通している。着想は示唆に富み、果敢な作劇が◎。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      絶妙なタイミングで、然るべき相手と、思わせぶりな一言を交わすのみで、ドラマは展開する。極端に情報を制限された語り口はご都合主義と紙一重だ。ヒロイン個人の視点に即すという意図を理屈としては理解できても、彼女の存在自体が唐突で、物語の進行以上の役割を見出すことが難しい。何度も警告され、立ち去るチャンスを得ながら、なぜ彼女はその場に居続けることができるのか。ヒロインを演じたヤカブ・ユリの強い眼差しは一貫して変わらないが、迷いの無さは観客を突き放す。

  • ふたりの女王 メアリーとエリザベス

    • 翻訳家

      篠儀直子

      連ドラのダイジェストみたいな映画になってるのではと心配したが、力強い演出があってどんどん引きこまれる。「女王陛下のお気に入り」とは違い、本作でドロドロの奸計をめぐらすのは男たち。犠牲になる同性愛者へのシンパシーが表明され、気高く生きようとする女たちの絆が強調されるのだからとてもイマっぽい。それぞれに魅力的な女王ふたりがついに対面する場面が導入部分から最後まで素晴らしく、シアーシャ・ローナンのクロースアップに感動。シックな衣裳と美術もかっこいい。

    • 映画監督

      内藤誠

      「女王陛下のお気に入り」で、オリヴィア・コールマンがアン女王を迫力満点で演じるのを見たばかりだが、この作品でメアリーとエリザベスを競演するシアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビーの関係も凄い。女王役は女優たちの演技意欲をそそるのだ。ダーンリー卿役のジャック・ロウデンをはじめ、男優も粒揃いなのに、女王たちの前で権謀術策を謀りながら、かすんで見える。女性の演出ならではのメイクとコスチューム・プレイがよく、メアリーが処刑場に向かうときの真っ赤が印象的。

    • ライター

      平田裕介

      メアリー・スチュアートに一目を置くも激しく嫉妬もしている。そんな複雑な感情を抱いているイングランド女王であるエリザベス一世だが、妙に出番が少ないうえにそうした感情が生まれる経緯が取り立てて描かれるわけではないのでなんだかのめり込めず。また、美貌にまつわる妬みも演じるのはマーゴット・ロビーなので、天然痘で肌がボロボロになろうが髪の毛が抜け落ちようが美しいのだ。女王同士の対峙というテーマで女性監督。期待したのだが、メアリーの悲劇で留まってしまった。

  • 月夜釜合戦

    • 映画評論家

      北川れい子

      ズケズケしたもの言いの女たち。いいかげんでその場しのぎの男たち。16ミリフィルムで描かれる釜ヶ崎はどこかロマンポルノの、それも神代辰巳作品から抜け出してきたような男女が賑やかに押すな押すなをしていて、そのとりとめの無さが妙に懐かしい。盗まれた“お釜の盃”騒動と、再開発による立ち退き騒ぎの二つが絡まって、天下分け目の、オットット!? 雑多な人物の登場も釜ヶ崎カラーとして小気味良く、一匹狼ふうのヒロイン(太田直里)が墓地で歌い踊るシーンも心憎い。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      ジョン・ウー「マンハント」の倉田保昭登場場面(釜ヶ崎)は本作の露払いだった。ひとが息をつける場所を見つけて知らせるもしくはつくりだすのが映画の役割であり本作はそれを為した。「夕陽のギャングたち」でロッド・スタイガーの銀行破りが気づかぬうちに思想犯の解放になり、盗っ人の彼が革命の英雄に祭り上げられてしまうのにも似た本作の川瀬陽太の押し出され場面は運動がこれぐらいいいかげんで野放図でいいという、監督佐藤零郎の確信と実感だろう。その愉快さ、美しさ。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      本当は存在するはずなのに“見ないフリ”や“無かったフリ”をすることで、街並の近代化を是と押し進める〈日本社会〉という名の盾。再開発をめぐる騒動は外部の都合によって生まれ、そこに居住する人々の都合は加味されないという現実。フィルム撮影による質感は、フィクションでありながらも舞台となった釜ヶ崎の“どこか淀んだ感じ”という生々しさを映像によって伝えることへ適している。関西出身者ではない川瀬陽太と渋川清彦に違和感がなく、街並にほぼ同化している点も一興。

  • たちあがる女

    • ライター

      石村加奈

      冒頭のシーンで、環境活動家“山女”として荒野に立つ主人公ハットラに、すっかり魅了されてしまった(ジョディ・フォスターがリメイクを熱望したのも納得)。装い変われば、合唱団の講師然とする、女性らしい、軽やかな変化も痛快だ。後半、アイスランドからウクライナへの舞台転換も気持ちいい(過去を洗い流し、恵みをもたらす雨!)。ハットラが少女と出会うシーンでは、彼女の描く絵も、ブラスバンドから一転したピアノの音色も、全てがぴたりと調和して、やさしい時間になった。

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      およそデタラメな通俗性から遠く隔たっているかに見える荘厳な景観の只中にあって、北欧の地で通俗活劇は可能なのか、という問題に監督エルリングソンが自覚的かは疑わしい。さしずめ関心は自然と文明の調和だろう。ところが映画とは不思議なもので、通俗に無自覚な精神に、高貴なる通俗性(これは語義矛盾ではない)が宿ることがある。精錬工場、鉄塔、ドローンなどの垂直物を破壊しながら横へ横へと逃走するヒロインは、「北北西」からどこへでも進路を取り得る活劇的存在だ。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      自然破壊の大企業に抗して、ひとり闘いを挑む中年女性。そのあの手この手の奇抜なゲリラ作戦が面白く。本人は必死だけど、演出にどこかトボけた味があるのが嬉しい。特に伴奏音楽のミュージシャンが、随所で画面に登場する趣向が気に入った。「馬々と人間たち」の監督か。なるほど。官憲に追われての逃亡シークエンスも意外にサスペンスフルで。彼女を応援する牧場主の男、双子の姉、不運続きの旅行者など人物設定も愉しい。世の中に闘いの種は尽きまじ――てな幕切れに不屈の精神が。

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