映画専門家レビュー一覧

  • ダウンレンジ

    • 映画監督

      内藤誠

      めったに車も通らないようなハイウエーを舞台に銃を撃ちまくる設定で、日本出身のプロデューサーと監督が、アメリカでなければ撮れない娯楽映画をつくってみせた。こんな物語は、日本ではできないわけだが、ダウンレンジ(射程圏内)にある男女をひたすら殺し続けるスナイパーはいかなる人物か、観客はその正体を終始、知りたくなるのだけれど、それは見てのお楽しみということで、バッドテイスト向きの作品。構成がここまで単純かつ一直線で、キャラクターを追求しないのには驚いた。

    • ライター

      平田裕介

      数メートル進めば携帯が圏外から圏内、車体は貫通できない弾丸、生贄のなかに狙撃に詳しい者がいるなどの状況をもれなく活かし、生き残りをめぐるスリルを盛り上げまくる。それに乗せられ、ビックリするくらいモッサリしたスローモーションの使い方も80年代B級スラッシャーを想わせて良しとなってくる。射殺体を鳥についばませたり、車で轢き潰したりする執拗な人体破損描写、最後までわからぬ狙撃手の素性、こちらの予想を覆す“殺される順番”などもいちいちわかっていて◎。

  • リグレッション

    • 翻訳家

      篠儀直子

      製作にワインスタインの名前を見つけて複雑な気分になるが、この映画自体はとても真面目な意図で作られた、古典ホラースタイルのサイコスリラー。どう書いても最悪のネタバレになりそうだから内容に具体的に触れるのは避けるけど、女性の描き方ではなく「罪」の主題という点において、アメナーバルがカトリック文化のなかで育ったゲイだという事実と切り離して観ることのできない映画だと思う。あと、すでに2015年の時点でエマ・ワトソンは、タフな方向へと舵を切っていたのだな。

    • 映画監督

      内藤誠

      90年代のミネソタで起きた実話に基づくとあり、イーサン・ホークが演じる刑事が父親の少女虐待事件と真剣に取り組む姿がのちのサスペンスを用意していく。彼の前に地方の都市特有の、奇怪だがリアルでもある事件が次々に起きる。古い教会や悪魔崇拝者による儀式、荒廃した家族関係、そこへ知ったかぶりの心理学者まで登場して、刑事は現実と幻想の迷路に落ちこむ。郷愁を誘う風景に突如異変が訪れるので、観客も終始、迷路に引っ張りこまれて、ジャンル映画とは別の恐怖を味わう。

    • ライター

      平田裕介

      催眠療法によって作られる虚偽の記憶、それに基づいて固められる事件のストーリー、そこに捜査陣が縛られて進む冤罪への道。恐怖や不安から広がるタイプの集団ヒステリー。両者の発生するシステムを、フードを被って顔を白塗りにしたいかにもな連中がいかにもな悪魔崇拝儀式をするみたいな画も挟み、オカルト・スリラーとしての体をしっかり保ちながら描く巧みさにハッとさせられた。ただ、主人公刑事が精神的に追い詰められる“弱さ”の背景が描かれておらず、そこに引っ掛かりもした。

  • きらきら眼鏡

    • 評論家

      上野昻志

      オーソドックスに引きの画面が中心で、金井浩人のアップなどは、神社のシーンだけではないかと思われるほど抑制した作り手の姿勢を好ましく思ったのだが……。彼が駅員として働く様子を丁寧に描いた点も悪くないし、きらきら眼鏡をかけているという池脇千鶴の明るさが、金井を惹きつける一方、余命わずかな恋人(安藤政信)にとっては、鬱陶しく、拒みたくなるという流れも頷けるのだが、全体にメリハリを欠いた印象を受けるのは、あの禁欲的な撮影スタイルによるのかもしれない。

    • 映画評論家

      上島春彦

      船橋市の御当地映画。ここは山から海、都会から田舎まで何でも揃っている稀有な土地柄で満遍なくロケも行き届いている。過剰に陽気でアグレッシブな女主人公と、逆に、受けに徹する芝居の男主人公との交流というのが演出上の特色。男は数年前に恋人を事故で失い、一方、女には余命いくばくもない恋人がいる。時間の流れと共に移り変わっていく両者の心情は良く捉えられていた。過去に囚われる男と未来志向の女、それぞれの物語がすれ違い、きっちり?み合うわけじゃないのが惜しい。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      池脇千鶴だけに犬童一心と空目しそうになるが、「つむぐもの」で堅実な演出を見せた一利の方である。それだけに純粋すぎると思わせるベタな純愛劇ながら感情過多に陥らない引いた視点が穏やかに持続し、静かな語り口と池脇の柔らかな存在が際立つ。主人公が勤める鉄道会社のさり気ない描写が上手く、大半が改札と事務室ながら限られた空間を活かして主人公の日常を巧みに映し出す。この監督には同じきらきらでも、今度は易きに流れがちなキラキラ青春映画も手がけてもらいたい。

  • 飢えたライオン

    • 映画評論家

      北川れい子

      緒方作品を観るのは「体温」「子宮に沈める」、そして今回と3作目だが、孤独や疎外感を切り口に、社会のダークサイドを抉っていくその作品歴は、安易な救いがないだけに、観ているこちらの体力、気力がかなり消耗する。“情報の暴露”を描いたこの作品は特にそれが著しい。しかも前2作同様、救いはともかくその先の展望が全くないので、不快なまでにリアルな再現ふうドラマという印象は否めない。場面の切り替えごとの黒い画面も、世界を閉じ込めているようで息苦しい。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      映画らしくあることに背を向ける異様な険しさ。その姿勢と画面は出来事の苛烈さを表すため独自の映像のスタイルを発明しようとした作品「私は絶対許さない」を連想させもするが、それよりはむしろ、おわかりいただけただろうか、のナレーションが流れる「本当にあった!呪いのビデオ」に近づいているかもしれぬ。そう、わかってくる。段々面白くなるのだ。意図なく撮られ、誰にも見られない映像をベースとすること。そこにも本作の主題である、安易な主観の洪水への警戒がある。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      タイトルに〈目〉のアップが重なるが、〈目〉=見ることは本作のテーマのひとつ。基本的にカメラは、離れた位置から現場を“覗き見”しているようなアングルで構成。印象的なのは映画館でスクリーンを注視する客席を映し出したカットだ。ホラーに恐怖し、ドラマに涙する劇中の観客にとって、映画と現実は当然のことながら別世界。そのモンタージュが、世の“無関心”を抽出させている。表情の変化を排除して外見と内面の乖離を演じてみせた松林うららの演技アプローチも素晴らしい。

  • 愛しのアイリーン

    • 映画評論家

      北川れい子

      超絶ギャグか、ブラックコメディか、暴走、狂騒、やけのやんぱち、その全てが不快感を誘ってとても付いていけない。結婚を焦る42歳のマザコン男と、彼がフィリピンで金を払って“物色”したアイリーン。日本に連れ帰って以降の展開は、暴力的なワルふざけとしか言いようがなく、流されてばかりの42歳男の不甲斐なさには目を伏せたくなる。いや、フィリピンでの嫁探しツアー自体にも違和感を覚え、アイリーンの家族の描き方も無神経。無責任に面白がればいい?私はダメだった。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      漫画家新井英樹や古谷実(あと、ここには直接関係ないが佐藤信介によって実写映画化された「アイアムアヒーロー」の花沢健吾)の描く人物たちの言うことや姿は現代においてもっとも強いリアルを実現しており、映画はなんとかこれに遅れぬようついていくのが精一杯だ。作家による徹底の表現行為に見える漫画のやることを妥協の表現であるかもしれない映画が追う、苦しい戦い。しかし「銀の匙」「ヒメアノール」そして本作を手掛けた吉田恵輔は良い挑戦良い戦いをしていると思う。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      過酷な人生を歩んできた人間は、目の前の悲惨な出来事に対する比較対象の度合いが、穏やかな人生を歩んできた人間とは明らかに異なる。比較対象がより過酷であればあるほど、目の前の過酷さにくじけないのだ。同様に、本作の冒頭から積み重ねられるように描かれる“過酷さ”は、観客にとっての比較対象となる。その“過酷さ”が、原作にも描かれている「姥捨」を現代の「楢山節考」として可能にさせている。そして、子を想う〈鬼〉と化してゆく木野花の入魂の役作りは賞賛に値する。

  • 3D彼女 リアルガール

    • 映画評論家

      北川れい子

      あゝ、もう類似の学園ラブコメを何回観たことか。むろん、大人の観客はほとんど近づきそうもない少女コミックの映画化だけに、少女たちが楽しんで観ればそれで充分なのだが、美女と野獣ならぬ美少女とおたくボクの調子っ外れの恋、英勉(どうしてもエーベンと読んでしまう)監督のリズムのいい演出に引っ張られ、それなりに面白く観た。女子が上位で、男子は後手後手、画面から飛び出してくるアニメキャラの扱いや、友人カップルのお節介も、イヤ味がない。劇中の大人もいい。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      自閉してるけどそれがあるとき積極的な美少女によって突破され、彼のすばらしさが証明される。それが非リア充の十代男子を勇気づける?ポルノのドラマツルギーだがそれなりに面白い。ちょっと女性に対しての口のききかたや態度が偉そうなのが気になる。スクールカースト下位の男子でも覚醒しはじめたらカースト上位女子を上回るという男尊女卑感性があるのか。いまだに女性からディメンションはひとつ奪われている。ゆうたろうが上白石萌歌を代弁して告白する場面はかなり良い。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      この映画は“ポジションの映画”である。それは、彼と彼女の立ち位置(ポジション)によって、その場で心理的なイニシアティブを握っている側を表現しているからだ。例えば、“階段”の段差を使った彼と彼女の高低差は、その場の主導権の移ろいを感じさせるし、あるいは、その場に立っていた彼が彼女の隣に座り、ふたりの視線が同じ高さになることで、ふたりの立場も同等になっていることを演出しているように見える。つまり、ポジションがふたりの関係を視覚化しているのである。

  • プーと大人になった僕

    • 翻訳家

      篠儀直子

      「パディントン」と違ってこちらのクマ(と仲間たち)が縫いぐるみなのは、原作どおりだから何も間違ってはいないのだが、リアルな自然のなかで彼らが動いている光景は、やっぱりシュールで可笑しい。そして後半の展開で、彼らの縫いぐるみっぷりが最大限に生かされるのがなかなか上手い。お話自体に特に目新しさはないが、1950年代の大衆社会の到来が背景になっているのが興味深い。トム・マッカーシーが脚本に参加。音楽を担当するはずだった故ヨハン・ヨハンソンへの献辞あり。

    • 映画監督

      内藤誠

      ぬいぐるみのプーが俳優の演じるクリストファー・ロビンと共演するファンタジーでは、現実世界の方がきちんと表現されていないと成立しない。その点、舞台の100エーカーの森やロンドンの市街地がノスタルジックで美しいから、感情移入しやすい。ユアン・マクレガーとヘイリー・アトウェルのコンビがよく、ユアンの勤務先の旅行鞄会社の上司、マーク・ゲイティスの悪役ぶりも、リアルで笑わせる。プーが習近平主席そっくりで、批判の象徴にされて、中国では上映禁止だとはホントかね。

    • ライター

      平田裕介

      大人になった正太とQ太郎が再会する『劇画・オバQ』に似た話なのではないかとなんとなく思いつつ、そうした苦く切ない展開を期待した。しかし、ディズニーゆえにそんな夢も希望もない話になるわけがなかった。プーさんがこれまでの物語を通して訴えていた“なにもしない”ことの大切さは時世的に重要視されていることなので、こちらも観ていてしっくりきてしまうし、うっかりホッコリもしてしまう。本気でぬいぐるみなプーやピグレットは可愛いような気もするが、やはり不気味。

7561 - 7580件表示/全11455件

今日は映画何の日?

注目記事