映画専門家レビュー一覧

  • SPL 狼たちの処刑台

    • 映画監督

      内藤誠

      サモ・ハン・キンポーが参加したアクション映画だが、舞台がタイのパタヤで、臓器移植を題材にしている。香港から来た警察官のルイス・クーとパタヤ警察のウー・ユエは息の合うところをみせ、娯楽映画らしいハッピーエンドかと思いきや、国家が裏で腎臓密売組織を操っているという話になり、タイの路地裏にトニー・ジャーやラム・カートンのような怪しげな人物が徘徊するので、パタヤの街ではそういうこともありかと思える。メリハリのきいた演出なのに、説明的な回想場面が多すぎた。

    • ライター

      平田裕介

      原題には「殺破狼」とあるし、監督も一本目と同じなのでSPLシリーズなのは間違いないが前2作とは趣が違う。相手の急所をゴキュバキユと破壊したり、刃物で斬り合うファイト・シーンは健在なのだが、全体的に“死”のムードが濃厚でとにかく陰惨。さらに正しいと思った行動が思いがけない結果を招くという、やるせない展開と深淵なメッセージもあって観ていて爽快感の欠片もないがそれがイイ。特別出演とはいえ、トニー・ジャーの扱いはアッと声を出してしまうほどショッキング。

  • SUNNY 強い気持ち・強い愛

    • 評論家

      上野昻志

      広瀬すずが頑張っていたね。友だちの危難に、鞄を投げ出して息巻くところなんかは、ちょっと、やりように困っている感じではあったが。あと、いい大人になった彼女たちが、いまの温和しい女子高生たちを、この子たちは、何を楽しみに生きてるんだろう、という目で見るシーンが、今昔の落差を思わせて面白かった。ただ、芹香の病床に奈美が添い寝して語り合う、本作一番の泣かせ所の音声が、エコーがかかったようにくぐもって聞こえたのには、ガッカリ。録音・整音、しっかりしてよ!

    • 映画評論家

      上島春彦

      オリジナル版を見た時こういう日本映画があってもいい、と思ったものだが実現するとは。もちろん国と時代が変われば彩られる楽曲も変わる。オザケンが筒美京平と組んで放った名曲で「踊る」という趣向である。クライマックス、新旧メンバー・キャストがごっちゃになっちゃうダンス場面が最大の見どころ、私みたいな中年には懐かしさいっぱい也。ただ森田童子とか若い人にアピールするかな。コギャルには90年代うんざりだったが、こうやって大挙して出現するとシュールで凄いかも。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      女子高生に仮託したオヤジ目線の説教臭さが皆無なのは、90年代コギャル映画への回答と言うべきか。しかし、絶妙なセンスを見せたオリジナル版がほぼそのまま流用されるので、「SCOOP!」の様にアレンジャーとしての才を発揮する場所がない。表層的にディテールが入れ替えられただけなので「モテキ」の90年代サブカルへの批評的な視点がコギャル文化でも発揮されるのを期待すると物足りない。もっともそれには、あの時代の渋谷を巨大セットで再現しなければ不可能だが。

  • 判決、ふたつの希望

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      パレスチナやヨルダンで難民キャンプを訪問したが、ナクバから70年も経つと難民生活が定着し、都市の一部になっていた。本作で描かれるように、レバノンのパレスチナ難民が国籍を持たないがために、安価な労働力として使われたり、雇用主の都合で解雇されたりということは如何にもありそうだ。ふたりの男の諍いに端を発する法廷ドラマにしつつ、現代的な右派のヘイト・クライムの主題や、知られざる虐殺の歴史を提示するところなど、社会を多角的に切りとる手腕にうならされる。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      発端は、排水管工事をめぐるパレスチナ人とレバノン人の諍いだが、舞台が中東レバノンなので、片方が正しくもう片方が間違っているといったレベルの話に収まらないと予測。案の定、全国民が注目する事態に発展。難民VS地元民のこの裁判劇があぶり出すのは、実は国が抱える政治や民族など、過去からの問題。映画が優れて特徴的なのは、国は難民問題に忙殺され、地元民、つまり国内問題の犠牲者に手が回しきれていないという視点。政治が招いた人の分断、国の実情。この裁判を忘れまい。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      序盤のつかみが上手い。事の発端となる些細な諍いの見せ方が秀逸で、ご近所トラブルから大事件に発展するような三面記事的な展開は日本社会にも容易く置き換えられ、実にリアリティがある。そこに民族的な背景を絡めたシナリオもいい。しかしそこはタランティーノ組出身の監督だけあってただの社会派では終わらない。大衆やメディアを巻き込んで大風呂敷を広げ、法廷劇もダイナミックなカメラワークで見せる見せる! ただ、ややエンタメに寄りすぎて結末のご都合主義感は否めない。

  • ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      テレビで昨今のテニスの試合を観ると、カメラの切り替えの見事さに舌を巻く。伝説的な名対決を映画化するにあたり、当然、監督は中継より劇的に演出する自信があったのだろう。スロー、真上からの俯瞰、ネットをナメた選手のアップなど、考えうる限りのショットが満載だ。特徴的なのは、不安定な手持ちやステディカムの浮遊感を使った、ボルグとマッケンローの表情をとらえる寄りの切り返し。映像面でもふたりの顔と表情のドラマにしており、こうやって編集するのかと感心した。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      ボルグを主体にしたこの映画で、マッケンローの有名な悪童ぶりは評判のまま。氷の男ボルグのウッドラケットが繰り出す力強いストローク、冷静沈着な試合運びを目の当たりにして感動した記憶とは反対に、彼も少年時代に悪童だったことが興味を引く。プレースタイルが完成したのは、デビスカップの監督だったコーチの薫陶よろしきを得ての結果だったのだ!? 両者のウェアにお馴染みのブランド・ロゴがないのは間の抜けた感じだが、後半の決勝戦の臨場感はスポーツ映画の中でも出色。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」に続くテニスもの。こちらはシンプルに男と男の闘いだ。ラブーフとグドナソンはヴィジュアルを本人に寄せつつ映画的に好演、そしてコーチ役のスカルスガルドの存在感ときたら。ウィンブルドンやウェアといったテニスカルチャーも楽しめる。約20分にわたりほぼ無言の打ち合いを見せる終盤の試合シーンはさすが。ただし、勝っても喜びより安堵の色を濃く滲ませる演出が音楽の使い方にもうかがえて切ない。コートの外で顔を合わせた二人の距離感が生々しい。

  • ダブルドライブ 狼の掟

    • 評論家

      上野昻志

      車狂の間では垂涎ものかもしれぬスポーツカーの走りは、確かにスピード満点だが、それに較べて物語の展開は、メリハリを欠いて緩い。そんな車を走らせる主人公を、やくざが弟を殺された恨みで追うというのが本筋だが、追われる者と追う者の距離感が曖昧なままなので、サスペンスを醸し出さない。主人公が路で出会った女に導かれて行った地方都市の、カラオケ以外何もなさそうな風景とか、その土地にへばりつく悪ガキグループとか、突っ込めば面白くなりそうな部分もあるのだが。

    • 映画評論家

      上島春彦

      主人公の二人組はルックスもキャラも抜群。なのだが、いかにも途中から途中まで、という作りの感じで(事実そうなのね)残念です。こういう趣向は波岡一喜の闇金業者(「闇金ドッグス」シリーズの常連)に関しては有効、さすがの貫祿。問題は兄の復讐のために主人公を追いつめるヤクザの存在であり、どう決着がついたのか説明不足なのだ。波岡の件は次作に持ち越される。これは自然。主人公が乗り回す車が一方の主役であり、ディテイルでお客さんを満足させてほしい。次に期待したい。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      脇に配されたネチョネチョ生きることを選んだチンピラたちが良い。「893愚連隊」の現代版の如く、やくざにならずにリーダーを総理と仰いで組織されているあたりも目配せが効いている。同作の天知茂のように主人公が愚連隊へ合流する構成も手堅く、中島貞夫の教えを受けて監督になった中でも最もプログラムピクチャーに近い位置で量産する元木隆史の面目躍如な70分。気弱な役ばかりでなく変幻自在になってきた駒木根隆介の愚連隊リーダー役がカンロクと優しさを併せ持ち出色。

  • ファミリー☆ウォーズ

    • 映画評論家

      北川れい子

      わざと顰蹙を買うような一家や奇妙な連中を登場させ、行き掛かり的に死体を増やし、パワーショベルまで持ち出してセッセと死体の穴埋め作業、いろいろ仕込みも大変だったろうにホント、ご苦労サマ。けれども全く面白くない。これが長篇デビュー作だという阪元監督は、アブナい橋を渡ったつもりなのだろうが、キャラも設定も実にチープで薄っぺら、話題作りのために奇を衒っただけとしか思えん。確かに残酷映画は表現の解放区的な面もあるが、表現というより演出が大袈裟なだけ。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      元気があってよい。島田角栄監督作「家族ロック」を連想。あるいは森田芳光「家族ゲーム」と石井聰互「逆噴射家族」から小林勇貴「全員死刑」を繋ぐ迷惑なミッシングリンクか。ただガンガン殺って血と内臓ドバドバはいいとして、そのインフレに対する戦略が弱いか。早々にギャグの方向に舵を切っているがもっと殺傷アクション描写を痛く重くエグくしたほうが映画のパワーは増すはず。餅とマンナンライフの蒟蒻畑を大量におじいさん(名優)に与えるあたりの酷さとおかしさ。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      世界で同時多発的に疑似家族的な人間関係を描く作品が製作されている反動として、本作は血縁による人間関係を起点とした歪みが描かれている。しかし、躊躇ない暴力描写を見せつけた「ハングマンズ・ノット」の監督が、そう易々と〈家族愛〉に帰着させる訳もない。重要なのは、半径5メートル以内の狭い範囲で起こった凄惨な事件が、世間から誤認され、隣人さえも実体を正確に把握していない点にある。ある種の“無関心”こそが、この世界の混沌の根源であるようにも見えるからだ。

  • 輝ける人生

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      老年者向けの月刊誌に、4年半のあいだ「シネマの中の高齢者」という連載をしていた。なので、このジャンルには実はうるさい方だ。本作でも描かれるように、退職後の第二の人生を豊かにするキーワードは「サークル活動」と「恋愛」だろう。その両者を通してヒロインが自分自身を発見する物語は、堂々と王道をいっている。映画を通じてシミュレーションをくり返してきたから、今から老後が楽しみで仕方がない。映画鑑賞はほどほどにして、残りの人生を謳歌するつもりでいる。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      親友と夫との、浮気の現場を妻が目撃して以後、ほぼ予想通りに展開し、恋あり友情ありで流れに逆らわず結末に至る。だからといって、がっかりすることはない。物語にはアルツハイマー病に介護、住宅事情、病気と終末医療、終活など、シニア世代の多くの人が思いわずらうであろう事情が、巧みに織り込まれていて、共感多々。もちろんベテラン俳優のアンサンブルの良さがあってのこと。シニア映画という分類があるとすれば、名優の国イギリスは近年、世界をリードしている。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      リチャード・ロンクレイン監督は「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」でシニアジャンルにおける頭角を表したが、本作はその適性を決定づけたと言っていい。親でも祖父母でもない、現在進行形で歳を重ねつつある等身大の男女の姿がそこにはある。もちろん「パワフルな高齢者」というだけでなく、心身の衰えや迫り来る死も同じように描かれる。そこで一役買うのがダンス。キレキレのパフォーマンスよりも魂の解放を感じさせるステージがいい。高齢女性が泳ぎに集まる野外の池は妙案。

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