映画専門家レビュー一覧

  • インサイド(2016・西=米)

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      謎の女が最強すぎる。その戦闘力は素人の一般女性の限界をはるかに超えており、どう考えてもヒロインに勝ち目がなさそうに見える時点でアウト。どんなに頑張って応戦してもヤラセっぽく思えてしまう。そもそも女の狂気も出オチ感が強く、筋書き通りの展開が否めない。その点リメイク元の「屋敷女」で同じ役を演じたベアトリス・ダルの説得力は半端なかった。ヒロインの耳が聞こえない設定も音楽効果的な印象に留まり、失聴した状態であることにほとんど意味が感じられなかった。

  • ジュラシック・ワールド/炎の王国

    • 翻訳家

      篠儀直子

      恐竜も怖いが噴火も怖い。次から次へとよく思いつくなあというピンチが繰り出され、夏にぴったりの楽しいスペクタクル。島から邸宅へと舞台が移るとややスケールダウンするけれど楽しさは持続。しかしだんだんと、夏休み気分でハラハラキャッキャしているだけでは済まない展開になっていく。このままだとブルーがシーザーになって、リブート版「猿の惑星」みたいな一大サーガになるしかなさそうだがどうなのかしら。充分活用されてない登場人物が数人いるが、続篇で活躍の予定?

    • 映画監督

      内藤誠

      恐竜のテーマパークがある島に、火山活動が始まり、恐竜たちを自然に委ねるか、救出すべきか、という議論から物語が始まり、絶滅しかけて貴重な生物となった恐竜たちを島から密かに運び出して競売にかける悪徳商人まで登場。石森章太郎監督の児童向けアニメ『大恐竜時代』の脚本を書いた者としては、びっくりするほど大人向けの展開だ。スピルバーグ総指揮のもと、恐竜は多彩で、恐竜と心を通わせるクリス・プラットと恐竜保護団体の女傑ブライス・ダラス・ハワードも大活躍する。

    • ライター

      平田裕介

      パークを再訪、そして舞台をガラリと変えてクライマックスを迎えるシリーズ第2弾「~ロスト・ワールド」を踏襲した構成に。などと冷静ぶって書いているが、前半の恐竜救出からパーク脱出のこれぞ冒険劇という畳み掛ける演出、まさかのゴシック的舞台への移動という驚き、そこで始まる「ルパン三世 カリオストロの城」を想わせる大乱戦に我を忘れた。J・A・バヨナの起用は大正解で、見せ場からシチュにいたるまで彼のフィルモグラフィー各作の妙味にしっかりと通じている点にも感心。

  • 君が君で君だ

    • 評論家

      上野昻志

      池松壮亮と満島真之介と大倉幸二が、ダンゴムシのように丸まって転げたりするさまは悪くないが、彼らが尾崎豊やブラッド・ピットや坂本龍馬になりきるというのが、単に、そう名乗っているという以上の具体性がないから、物語を動かす要因にならない。つまり、映画以前の設定にとどまっている。となると、あとはバカな三人組が、ヒメと崇めるソンことキム・コッピを隠れて覗き見ているというだけ。YOUと向井理の借金取り立てコンビが登場してからのドタバタで、一応形にはなるが。

    • 映画評論家

      上島春彦

      池松が女の髪をむさぼり始めた瞬間に既視感。そうか「スイートプールサイド」の監督だ。あれ同様ヘンタイさんは美しいという物語ではない。総括的に述べると「愛とは一方通行なんだ」ということ、もっともそれは始まりでも終わりでもない。ただの真理である。報われない愛を見守り活動に発散させる三人が出発点で、石野真子のシングルにこんな三銃士を歌ったものがあるのも思い出したが、世代が違う。これは終わりが始まりだという映画、それを二種類のエンディングが鮮やかに示す。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      ストーカー歴10年の男たちが著名なキャラになりきって、キム・コッピの部屋の向かいのアパートで共同生活しながら監視しているという設定だけの映画なので、舞台でやれば俳優の熱量で引っ張れる要素があるにしても、映画では失速していく。一見すると主人公たちは狂人じみているが言動は至って常識的で、一部にでも狂気や異様な執着を感じさせる瞬間があれば良いが、設定しかないので、結局は何故こんなことをしているのか分からず、なりきりキャラも活かされているとは思えず。

  • ルームロンダリング

    • 映画評論家

      北川れい子

      部屋や家に出没する幽霊といえば、外国のゴシック・ホラーや「残穢 住んではいけない部屋」を持ち出すまでもなく、怨念やら未練やらのおどろおどろしい話が付いて回るものだが、その点この映画の、単身者向けの賃貸アパートに現れる幽霊たちは、万事が“安・近・短”で友だち感覚、幽霊もずいぶん軽くなったものだ。というか、命の軽さ? こういう脚本がTSUTAYAのオリジナル企画に入賞し、映画化されるのもご時勢なのだろうが、私には思いつきレベルの幼稚な“物件”だ。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      オダギリジョーのどう見ても一般社会で穏当に生きてるように見えない存在感、マージナル感は、そのへんでなんだか怪しいことをしてる男だったり、「プラスティック・シティ」「エルネスト」みたいな諸作において外国でディープな闘いをするアジア人の男だったりしたが本作はそれらとも違う新たな境界線、前衛を彼とともにつくった。主演池田エライザはこんなふうにダルそうにしてるほうが可愛さが底光りする。オダギリ、渋川清彦が池田をまだ女として見ない大人の男なのも良い。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      オダギリジョーという役者は、なぜか〈裏社会〉が似合う。しかも、“どっぷり”ではなく“ふわっと”足を突っ込んでいるような印象を不思議と与えるのだ。このどちらでもない感じが、あの世とこの世を結ぶキャラクターに合致している点が秀逸。劇中に登場する“橋”はその象徴とも言える。本作はまるで〈プロローグ〉のような作りになっているだけに、願わくば毎回大物俳優をゲストに呼ぶことでシリーズ化させる、あるいはテレビドラマ化させることに向いている企画のように思える。

  • 菊とギロチン

    • 映画評論家

      北川れい子

      タイトルこそ挑発的だが、昨年の大林監督「花筐」と根っ子の部分で共通する青春群像劇の秀作だ。物語の軸になっているのは、さまざまな過去を持つ女力士たちで、革命団“ギロチン社”の面々は狂言回しに近いが、関東大震災直後という時代の空気の中での両者のすれ違いを、半端ではない登場人物の、半端ではないエピソードで繋げ、ガツンとくる。その割に重苦しさは控えめで、この辺りの脚本・演出もみごと。字幕やナレーションを使って情報を補足、いささか駆け足気味だが納得だ。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      お話をつくり、語ることの強く大きな意志を感じる映画だった。しかし、命革めることの流行らないいまの時代、これをどう広めていけばよいのか……序盤の女相撲興行の場面で女力士=女優たちがその肉体の力感を画面にあふれさせたあとは一気にノレて観れたが、それが鍵だろうか。私もまたこの映画のなかの男たちと同じく、血を吐くように“強くなりたい!”と表明する女性の姿をいくつかの映画の中で目撃したことによってハッとして、そのことで何とか生きてきたのだと思い出した。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      すべてのカットに「これを撮りたい!」という瀬々敬久監督の魂の叫びを感じさせる。その姿勢に牽引されたであろうスタッフ・キャストの熱も、当然のことながらスクリーンから溢れ出ている。世の不寛容さを伴った大正から昭和へと向かう端境期。その時代性が現在とシンクロする点に、本作を“いま観る”意義がある。女相撲を通して人間としての強さと生命力を身につけてゆく花菊の成長を眼差しと佇まいで表現した木竜麻生、その対となる韓英恵の演技アプローチが何よりも素晴らしい。

  • セラヴィ!

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      さすが「最強のふたり」のトレダノ&ナカシュ。古城での豪華な結婚式を裏から支える給仕やスタッフやコックたちは、東欧系、アラブ系、ブラック・アフリカ系と多彩な顔ぶれである。今年のフランス映画を代表するような娯楽作のなかでも、ちゃんとダイバーシティが確保されている。物語は誰でも楽しめる人生喜劇であり、マイノリティや人種問題が話題になることがないだけに、彼らの「顔」がスクリーンに登場し、フランス人の多様さが映像的に示されることが重要なのだ。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      結婚式や告別式などは、つつがない進行が当たり前。粗相があってはならないイベント。よって、結婚式をめぐるトラブルで爆笑を誘うこの物語は、形式的儀式を重視する日本人には特にウケがいいのでは。ましてや社会問題をキレのあるシャレにして、独特のスピード感で観客の心を?むトレダノとナカシュだもの。期待値も自ずと高くなる。が、持ち前のサービス精神に足を掬われたか。詰め込んだ話に途切れることのない会話、会話。人種問題や階級社会を風刺するも、芯のない笑劇に。残念。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      コメディとしてはギャグレベルはそれほど高くなく、キャラクターもいまいち弱いのだが、何ひとつ計画通りにいかず先行きのわからない結婚式に寄り添うアヴィシャイ・コーエンの劇伴がぴったり。ジャズのセッション風のアレンジが生もののライブ感を煽る。クライマックスで流れるウェディングソングもいい。一瞬の花火カットはどんなシチュエイションであっても美しいものは美しいことを証明すると同時に、それが美しいほど、前後の文脈から切り離された演出の残酷さを物語っている。

  • バトル・オブ・ザ・セクシーズ

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      三拍子そろった映画ではある。「リトル・ミス・サンシャイン」の監督たちの新作で、男性至上主義の元テニス選手と女子テニスのチャンピオンの男女対決という実話、70年代前半の魅力的なファッションに、エマ・ストーンら俳優陣の役づくり。もっとおもしろくなっても良い作品なのだが……。ビリー・ジーンが夫を持ちつつ、ツアーを重ねるなかで同性とのランデヴーを楽しむ恋愛模様は、女性解放運動とそのイデオロギーがスポーツ選手の私生活に与えた影響として新鮮に映った。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      ビリー・ジーン・キングの功績を描いているが、伝記的アプローチは淡白。主題は彼女が言う「女が上だとは言ってない。ただ敬意を払って欲しい」にある。E・ストーンを中心に、主題を支えるS・カレル、A・カミングらの配役センスの良さ、彼らの持ち味と達者な演技で、そこそこ楽しい。特にお調子者キャラの男性優位主義者を演じるカレルは◎。さて性差の壁を破るために挑んだ’73年の一戦から今日までの変革は……。あぁ、映画業界は未だ圧倒的な男性社会。見て楽しんでから一考しよう。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      今をときめくエマ・ストーンがイケてない。冴えない髪型にほぼすっぴんで洒落っ気のない眼鏡。テニスウェアを着ても若い女性プレイヤーらしい華やかさはなく性別も年齢も不詳な感じ。しかしこれは決して本人の劣化でも衣裳メイク部の不備でもない。むしろなぜイケてないように見えるのかが本作の最大のテーマである。そしてなぜ彼女をイケてないと思ったのか、己の価値観を見直すことになった。それをふまえて観ると、序盤の美容室のシーンはなんとロマンティックな瞬間だろうか。

  • 縄文にハマる人々

      • 評論家

        上野昻志

        縄文の土器や土偶は、確かに不思議だ。なんで、あんな形をしているのか、なんで、あんなにデコラティブなのか、それ自体の奇妙な面白さと同時に、何故、なんの目的で、このような形にしたのかと考え出すとキリもない。弥生の土器が、機能に合わせてシンプルになっているので、なおさら縄文が不思議に思える。だから、多くの人がハマるのだろう。この映画は、そのような人たちの見解を紹介するのだが、それで納得するというより、夥しい発掘物を見せることで、見る者を縄文へと誘う。

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