映画専門家レビュー一覧
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グランド・ジャーニー
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映画評論家
真魚八重子
人間関係の描写は取りこぼしなく、小慣れた手つきで生き生きと描かれていて文句はない。ただ、実話に基づく話なのでどうしようもないのだが、少年が渡り鳥と冒険をする出来事と結末は、当たり障りがなさすぎて面白みを感じない。当事者にとって大事件とはいえ、映画として観るにはもう少し旅の細部の演出に、遊びがあっても良いのでは。個人的には旅を巡る映画で、これまでに作られたいびつで魅惑的な作品群を前にして、ちょっといい話の本作をチョイスしないだろう。
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コンフィデンスマンJP プリンセス編
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映画評論家
川口敦子
ドラマ、スピンオフ、映画版第一作とシリーズになじみのある層には自明の因縁、関係があり、不勉強ながら初めて見ましたという観客には戸惑う要素も少なくない。それでもなんとかついていかせる脚本、コンゲームの部分はま、そんなものかと憤慨もしない代わりに感心することもなかったが、虐げられた少女に対する騙しのプロのヒロインの不思議な母性のようなものを描いてうるっとさせるのは面白い。長澤ファンだから点が甘くなったというわけではないと思うのだが……。
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詩人、映画監督
福間健二
詐欺師物として水準以上の大当たりだ。詐欺師の娘で不幸な育ちの、天使性もつプリンセスの設定がよくて、演じる関水渚はキュートに変身する。彼女なら巨万の富をわがものにする資格あり、とポリティカル・コレクトネス的にも納得させそうだ。長澤、東出、小日向のレギュラーと柴田が頼もしく、ゲスト出演的な面々も楽しんで演じている。テレビ出身の田中監督、映画やっている。お金の使い方と人の心がわかるのだ。内容的にも増村保造「青空娘」と二本立てにしたいくらいのものが。
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zk 頭脳警察50 未来への鼓動
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映画評論家
川口敦子
目の上のたんこぶ的世代の伝説的存在として同時代的には素通りしていたディランに迫ってアメリカとその時代をも堪能させてくれたスコセッシ「ノー・ディレクション・ホーム」と同様に、頭脳警察以上にそこで追われる時代がスリリングに迫ってくる。アメリカが近くにあったと基地の子PANTAが現地再訪で振り返る米軍軍曹とハモニカの思い出は、アメリカ映画の記憶とも重なるようで他人事でなく胸に迫る。傍らの人TOSHIの軽みの重さ、その貴重さを掬う眼差しも面白い。
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編集者、ライター
佐野亨
PANTA、TOSHI、次々登場する豪華な顔ぶれ、語られていることばはもちろん興味深いのだが、ほとんどが三脚も使用せずブレブレ。要するに、立ち合ったイベントで急きょ撮影した映像を話が通るようにつないでみせた、という以上のたくらみがない(頭脳警察を撮るのにお行儀よくやれとは言わないが)。クリミアでのライブにせよ、水族館劇場での50周年1stライブにせよ、そこでのことば、音楽を受けて、映画がどうそれに拮抗する表現たりうるかが重要なはずではないか。
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詩人、映画監督
福間健二
厚ぼったく年をとらない方がいいとしたら、PANTAは容貌も半世紀にわたる活動からおびる情報量も大変なことになっている。だが、彼はいいのだ。戦果の自認とオマージュに溺れることなく、茶目っ気ありの人としてすっきりしたところに抜けている。TOSHIとの頭脳警察。若いメンバーも入れて助けられていると思う。過去のこと、おもしろい話もあるが、とくに発見はない。整理に追われた感じの末永監督。この数年の「現在」がどう勝負になっているかを際立たせてほしかった。
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ぶあいそうな手紙
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映画評論家
小野寺系
老齢で視力をほぼ失うという深刻な事態に陥った主人公の物語としては、少々都合の良過ぎる展開に疑問が残ってしまう。とはいえ、“陽気な港”を意味する、監督の出生地ポルト・アレグレのおおらかな雰囲気には、希望を抱かせる穏やかな美しさがあるし、そこで表現される、人生に対する肩の力を抜いた楽観的な姿勢には大共感できる。けして観光的には撮られない街の風景と、ラストを彩るカエターノ・ヴェローゾの名曲が、さらにリアリティと豊かな味わいを本作に加えている。
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映画評論家
きさらぎ尚
ウルグアイとアルゼンチンの軍事政権を逃れてブラジルで暮らす老主人公とその隣人に、孫世代のブラジル娘が加わり、とてもいい話が展開。ディテールの積み重ねの上手さが、主題にぴったり寄り添う。視力を失いつつある主人公は、話の鍵になる手紙が読めない。それに加え、祖国の言語スペイン語とブラジルの言語ポルトガル語との、言葉の問題も。全篇に散りばめられた高齢者の切実な状況とよどみないユーモアに和み、未来を手に入れる3人に安堵する一方、日本の厳しい現実がよぎる。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
派手な展開は皆無ながら最後には歳をとるのも悪くないと思わせてくれる素敵な小話で、頑固ジイさんと小悪魔娘との会話には滋味深さを感じるし、殆どアパート内で進む物語にまぶたが重くなる頃合いで夜の街に繰り出すシーンは解放感に溢れており、そこからは一気に面白くなるのだが、いっけん端正で堅実な演出は、人物の頭が切れた構図、主張強めな粒立った音楽の差し込み方、次のシーンの音を先行させる手法の濫用など微妙にクセがあり、映画のリズムを?むまで少し時間がかかった。
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誰がハマーショルドを殺したか
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
世界の覇権国はアフリカを植民地支配し搾取してきた。いわゆる南北問題だ。デンマーク人の映像作家と相棒ヨーランは、アマチュア探偵か調査ごっこ宜しく約60年前の国連事務総長の不審な飛行機事故を追跡していく。手腕や作業はどれもこれも素人臭く笑いを禁じ得ない。しかし後半になると世界の闇の深淵へと一気に引きずり込んでいく。「この物語は世界的な殺人事件か、呆れた陰謀論か」。ドラマもドキュメンタリーも、あらゆる映像とは真実であると同時に妄想でもある。
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フリーライター
藤木TDC
戦慄のドキュメンタリー問題作。NETFLIX作品『ジャドヴィル包囲戦』にコンゴ動乱の転換点として登場する1961年の国連事務総長搭乗機墜落事故は当初から暗殺説が根強く、2015年に始まる国連の再調査は今も続いて米英の非協力が問題視されている。しかし映画の核心はそこでなく、中盤以降のネタバレ厳禁な驚愕展開はセンセーショナルすぎてフェイクに受けとめられかねない。ここで私が真贋を判断するのは難しいが、時局とシンクロしており確実に物議をかもすだろう。
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映画評論家
真魚八重子
観客を煙に巻こうとする技巧が効きすぎて、本筋さえも疑わしく思えてくる作品。ただでさえにわかには信じがたい証言と指摘だけに、ぼんやりとした輪郭で語られると茫洋とした印象を受けてしまう。世紀の発見というより、ヒストリーチャンネルの眉唾物なドキュメンタリーのようで戸惑う。その分、巧みに話をそらしたような、あえて信憑性を追求しない演出は上手く出来ているのだろう。愛嬌のようなものは時々のぞくが、淡々とした進め方でとりつく島がないような。
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グレース・オブ・ゴッド 告発の時
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映画評論家
小野寺系
フランソワ・オゾンが奇抜な演出を排して、かなりオーソドックスな撮り方をしているのが印象的。それはカトリック教会の児童への性的虐待問題が、それほどシリアスなのだという意思表示でもあるだろう。衝撃的なのは、被害者の訴えに対し、教会の担当者が親身に話を聞いて神父が素直に謝罪するものの、それ以上の具体的な責任を教会側が何一つとろうとしないところ。つまり被害者をなだめて落ち着かせる以上のことは何もしたがらないのだ。よくぞ、世にこの悪行を知らしめた。
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映画評論家
きさらぎ尚
聖職者による性的虐待行為の報道を目にするようになったのは2000年代に入ってからであり、その後はしばしば映画でも描かれてきた。F・オゾンがこれを題材にしたとは意外に思えたものの、見終わって納得。加害者を告発するための、被害者の一致団結を描くものではない。おぞましい記憶に苦しむ3人を、被害者としてひと括りにしない。事件から現在に至る各人の心情・事情と向き合って群像劇に仕立てているのだ。要は監督の視点。得意とする作風をもって描いた問題作である。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
フランソワ・オゾン監督作であることを疑ってしまうようなオーソドックスな演出から、事件を世に問うことを第一義としていることが窺える力強い実録映画ではあるのだが、信仰者である被害者の怒りと拮抗するはずの「赦し」には深く踏み込まず、彼らを多角的に描きながらも結局は「変態神父許すまじ」の視点に終始してしまっている作りには物足りなさを覚えるし、潔く罪を認めながらも罰を拒む神父側をもう少し掘り下げて神と人間の対立構図を際立たせてほしかったという思いが残る。
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WAR ウォー!!
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映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
アクションのアイデアの豊富さもさることながら、平均的ハリウッドアクションの5倍くらいの見せ場を時制を操りながらスピーディーに見せていく構成の巧みさに唸った。インド映画ならではの観客へのしつこいサービスも、本作の場合は観客を見くびっているからではなく、そのスピードについてこさせるための礼儀と受け止めた。もはや比べるべきは「M:I」シリーズや「007」シリーズとなるが、主人公が定まらないことによる仕掛けとサスペンスはスタンドアローン作品の強み。
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ライター
石村加奈
ベストを尽くして、それまでの人生で失ったものを取り戻す、男たちの熱い戦いが描かれる。男が惚れる男、カビール少佐は、家族を。憧れの少佐抹殺の命を受けたハーリド大尉は、信頼を。151分の壮大な物語は、あらゆるエピソードを回収する(最初と最後のカビールのライティングまで、ドラマチックに繋がっている!)緻密な構成で成り立っているため、全く飽きない。インド映画に欠かせないダンスあり、飛行機、バイクにカーチェイスで盛り上げた後は素手でのアクション勝負。満足。
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映像ディレクター/映画監督
佐々木誠
「M:I」「フェイス/オフ」など数多くのオマージュ満載! いくつ当てられるか?と解説に書かれていたが、もはや隠す気がないという潔さ。しかし、これが時間と金をかけまくった力技で本家と遜色なく、というか本家を超えているシーンもあり、オリジナリティって何だ、と考えてしまった。擬似ワンシーンワンカットをはじめ、アクション描写の映像的な完成度は高いのだが、それ故肉体的な面白さが半減しているのが残念。アクション映画は、その絶妙なさじ加減が難しい。
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ドンテンタウン
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フリーライター
須永貴子
前の住人が残していったカセットテープに吹き込まれた日記を聴いているうちに、スランプに陥っているシンガーソングライターの想像力が刺激されていく。パレットの上で異なる色の絵の具が溶け合うように、2人の人生が混ざり合う奇妙な展開に、困惑しつつも心が躍る。アロハシャツの使い方や、ラストシーンでの驚きのある配役からも、映画における「見せ方」の可能性を探る監督の遊び心が見てとれた。佐藤玲と笠松将が演じる男女が、団地の部屋にとてもチャーミングに存在する。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
世の中には、陽の目を見ない素晴らしい企画や脚本が五万とあるし、はち切れんばかりの思いを抱きながら、撮らせてもらえない監督も書かせてもらえないライターもいっぱいいる。そんな中でこういう映画が出てくると、つい涙が出る。「何悩んでんの? こうすればいいんじゃね?」てな感じで出来たんだろうか。映画になっているとは思えない。映画が侮辱されているとさえ思った。何も感じさせず、虚無感だけが胸の中に広がっていく。埋もれている才能の数々を思い、やはり僕は涙する。
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