映画専門家レビュー一覧
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CLIMAX クライマックス
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映画評論家
真魚八重子
相変わらず観客の不快感を煽りたいらしいG・ノエ節。字幕が上下逆さまになるなどの明け透けな挑発は、衰えを知らないなあと感心するが今の時代ではダサい。しかし前作「LOVE 3D」は嫌がらせ映画であっても、深い恋着のどうしようもなさがあってノエを受け入れられる気になったが、今回も些末な演出を描く群像劇で面白く観られた。ダンスのトランスと圧倒的な肉体の動き。LSDによってダンサーたちが狂乱に陥る各人各様のドラッグの影響の描き分けが多彩でドラマチック。
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IT/イット THE END “それ”が、見えたら終わり。
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アメリカ文学者、映画評論
畑中佳樹
前作は少年少女がとびきり怖い体験をするジュヴナイルだったが、今回は27年後に再集合した一同が思春期をもう一度卒業し直す泣かせる青春映画。極限の想像力をVFXの職人芸が克明に具象化する恐怖演出のあの手この手はゴージャスそのもの。女陰や膣のイメージ群が少年の性夢を思わせ、子供は大きなものが恐しかったのだと記憶を再生してくれる。メッセージは「エルム街の悪夢」以来の「それはあなたの心の中にいる。」前作と合わせて今後何十年も反芻できる汲めども尽きせぬ宝物映画!
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ライター
石村加奈
大人になったルーザーズの面々が、27年後に再びデリーに結集するリアリティが、前作からうまく引き継がれている。それは忘れられない子供の約束ではなく、恐ろしいピエロの記憶という消せないトラウマだ。本作から加わった美術のポール・デナム・オースタベリーが、1989年と現在を行き来するストーリーにリアリティをもたせる世界観を構築。特に最後の戦いの舞台は圧巻だ。続篇というハンデを払拭したホラー映画だが、やはり田舎の冒険には大人より子供たちの方が似合うなあとも。
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映像ディレクター/映画監督
佐々木誠
原作はキングの中でも上位に入る傑作。何よりその構成が秀逸で、子供時代と大人時代、時を超えた〈IT〉との対決が同時進行で語られる。その「視点」のやり取りが相乗効果で、この「大人への恐怖」を軸とした成長物語を得もいえぬ感動巨篇にまで昇華していた。この映画化作品は前後篇とし、大胆に「子供篇」と「大人篇」に分断して描いた。その整理された構成が功を奏しアトラクション的ホラーとしての完成度は高いが、私が読みながら号泣した“あの光景”とは似て非なるものだった。
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108 海馬五郎の復讐と冒険
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ライター
須永貴子
岩井秀人や秋山菜津子ら俳優たちが文字通り体を張り、濃い目に味付けされたキャラクターが放つセリフのやりとりで笑わせる、大人の艶笑もの。バリエーション豊かなセックスシーンからは、快楽やエロスよりも、己の決めた復讐ノルマに縛られ空回りする、主人公の空洞と悲哀が強く立つ。老いに伴う孤独への憂いや、SNS社会への批判なども込めた監督4作目にして、初のオリジナル脚本で、松尾スズキらしさがようやくストレートに表出した。ラストの先を想像する楽しみも。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
この映画をどう評していいのか悩んでしまう。「快作」と言うべきか。マルクス兄弟を思わせるナンセンスコメディ。設定からしてナンセンス、いい意味で。「バカバカしいことこそ命」と言わんばかりの開き直り、もちろんいい意味で。松尾スズキという役者に改めて感服する。バカバカしいことにがむしゃらに体当たりしているが、がむしゃらに見せないところが得難いセンスである。このままずっと見て笑っていたい……。これからだと思われるところで終わってしまった気がして、悔しかった。
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映画評論家
吉田広明
SNSで妻の浮気を知った男が、奪われる財産を減らすため金で風俗嬢を買いまくり、遂には「女島」へ。そもそもSNSを鵜呑みにする辺りで頭悪いだろと思ってしまうし、ギャグが下品なのはいいとして、ほとんどが上滑りしていて笑えない(これは個人差があるだろうが)上に、何が描きたいのか(エロなのか愛なのか。それにしては裸こそ多いが全くエロを感じないのは決定的にダメだろうし、妻への捩れた愛もとってつけたようで、中山美穂の無駄遣い)どこを取っても中途半端。
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ロボット2.0
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非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト
ヴィヴィアン佐藤
インド史上最高の興行収入を記録した前作「ロボット」。VFXはじめハリウッドの豪華お墨付きメンバーが集められ製作された。しかしそれはハリウッドのお古を譲り受けてきたようなもので、作品内容もハリウッドの豪華なB級といった趣。しかし本家と異にするのは終始斜に構えており、映画をまったく信頼していない姿勢。そこが心地よい。お決まりの歌い踊るエンドクレジットは本篇より増して豪華であるし、見応えがある。インドのエンタメ精神は決してハリウッド化され得ない。
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フリーライター
藤木TDC
楽しいナリ~。科学理論無視、人命軽視、シッチャカメッチャカな小学生世界を精鋭VFXマン総動員で描く超弩級コロコロコミック。前半は怪獣映画でビオランテ、レギオン、メーサー殺獣光線などの記憶が脳裏に。終盤は予想どおり巨大ロボ対戦で、オタクな私はトランス何とかじゃなく「ロボ・ジョックス」を感じ薄笑い。作り手が娯楽性だけじゃ不足を感じたか現代文明批判を交えてるが、なら本作制作にまつわる膨大な浪費はどうよ? と反問も。ま、この手のメルヘンに難癖は野暮か。
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映画評論家
真魚八重子
確かにスマホに対する不安や不信感はまだ人の根底にあるのだが、その象徴的な表現として“鳥が死ぬ”というのはプリミティブすぎる。でもそんなドッチラケ感やロボットの非現実味も、ラジニカーント作品の持ち味といえて、最初から気にせずただ楽しむべき作品。マーベル映画のキャラクターのようでありつつ、その亜流版として問題なく肩肘張ることもない娯楽映画として、堂々と大味で存在している。制作費がかかりつつもアウトサイダーアートのような美術や演出のあり方は独特。
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ザ・レセプショニスト
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映画評論家
小野寺系
異国の地で違法労働を行うことを余儀なくされるアジア人女性たちの存在にスポットライトをあてたという意味では、いま最も意義があると感じられる一作で、彼女たちを襲う過酷な現実を通して弱者を踏み潰す傲慢な存在を浮き上がらせることにも成功している。題材の選び方にセンスを感じる一方、弱者同士の連帯を熱く描く演出や物語の展開は、かつてのアメリカンニューシネマなどの焼き直しにも思える。もういくつか新しいアイディアを用意すれば、時代を代表する傑作になり得た。
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映画評論家
きさらぎ尚
台湾出身で英国在住の女性監督に、この映画を作らせたのは、セックスワーカーをしていた友人の自殺だったそうだ。それだけでも胸が痛いが、違法マッサージ店の女経営者、アジア系の従業員たち、受付係のヒロイン、客たちの誰一人として、登場人物に幸せな人はいない。移民の、それも学歴や資格のないアジア人の現実だと言われればそうかもしれない。ヒロインの眼を通した身も蓋もない露骨な描写は、監督の思いの切実さか。その場所から離れても、この問題は解決しないのがやるせない。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
終始揺れてる手持ちカメラやぶっきらぼうなカッティング、退色気味なグレーディングなどはいかにも賞を獲りそうなアート映画のルックであるのに対し、物語運びや芝居の質、感情を分かりやすく底上げさせようとする音楽などはかなりの割合で娯楽映画のそれに寄っているというチグハグな印象を受ける演出で、それらが相まって妙なムードが出ていた側面もあるとはいえ、ミミズの挿話などは直接的にすぎると感じてしまうし、この話で生オッパイを出さないことにも踏み込みの甘さを感じた。
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T-34レジェンド・オブ・ウォー
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映画評論家
小野寺系
ナチスとの戦いを描いているにせよ、兵器でドンパチする様子を、自国の暴力にフォーカスせずに高性能兵器の活躍を娯楽として見せていくという内容の無邪気さに茫然とする他ないが、それでも戦車同士の戦闘における戦略性や“どんくささ”、車体に敵の弾がかすめ金属音が響くだけで乗員が失神するリアリティには抗しがたい魅力があることもたしかだ。とはいえ、CGを利用した“バレットタイム”風演出の多用は、近年の米国戦車映画「フューリー」などと比べると周回遅れの感は否めず。
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映画評論家
きさらぎ尚
砲弾の発射口の大写し、目標地点に向かう弾丸のスローモーション、戦車の試乗場面のBGMは《白鳥の湖》!? 第二次世界大戦下で捕虜になったソ連兵4人対ドイツ軍の戦いを描くこの映画は、ハリウッド風盛り上げがたっぷり。砲弾を残したままソ連兵に戦車を渡すナチス・ドイツ軍の迂闊ぶりはツッコミたくなるが、「特攻大作戦」や「大脱走」に通じる面白さがあり、ラブロマンスまで用意されている。クライマックスでの一対一の戦車対決は、西部劇のヒーロー対敵役の、決戦のようだ。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
反戦的なテーマを感じさせる余白を与えない戦争娯楽アクション映画で、戦死者やその家族のことを思うと、どんな感情で観ていいのか戸惑ってしまうのだが、しかし、まあ面白い。圧倒的な弱者達が強大な敵に立ち向かうという、人間が原初的に面白いと感じる物語を真正面から語り、さらには砲弾が六発しかないという限定シチュエーション、友情、恋愛、好敵手との一騎打ち、超絶VFXによるド派手な戦車アクション……どこかうしろめたさを感じつつも気がつけば手に汗握り観入っていた。
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風水師 王の運命を決めた男
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映画評論家
小野寺系
時代劇ということを考慮に入れたとしても、そもそもの話として“風水”という古代からの思想に対する批評性が作品から感じられず、だからといって「陰陽師」のようなファンタジーに振り切っているわけでもない内容は、風水に対して民族学的な興味しか持っていない筆者のような観客からすると、かなりのストレスを覚えてしまう。保守的な世界観にくわえ、心因性の障害への偏見も見られる。革新的な韓国作品が公開されるなか、こういうのも依然としてあるのだなと確認できる一作。
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映画評論家
きさらぎ尚
この邦題でドラマの内容がほぼ解る。で、実際、内容は想像どおり。けれど衣裳、小道具に大道具、セットのしつらえ、カメラワークなどに、想像を超えた様式美の集積を見る。その反面、風水師による吉凶に翻弄される王族たちの心理や権力争いのドロドロも、衣擦れにかき消されたか? 伝わってこず、もどかしい。韓国の歴史に明るくないせいもあるが、人物個々の区別がつきにくく、よって感情移入ができず、贅を尽くしたせっかくのドラマも味わい尽くせないような、モヤモヤが残る。
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映画監督、脚本家
城定秀夫
序盤に地形や人の流れなどから栄える土地を見極める描写があり、なるほど風水って結構科学的な側面もあるんだなと思ったのも束の間、物語は父親の墓をどこにするかで王族の運命が決まるというオカルト学を拠り所に進んでゆき、それはもはや当たるも八卦当たらぬも八卦的な概念すら存在しない絶対的なものとして扱われ、実際に完璧な精度で的中してゆく。展開のうねりは面白く飽きさせないが、占いごときで死闘が繰り広げられているのはふと冷静になると何だか不思議な気持ちになる。
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ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝
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アメリカ文学者、映画評論
畑中佳樹
初めに言葉ありき。案内役女性のイタリア語の語り、ゴッホやその絵のコレクターのヘレーネ・クレラー=ミュラーの手紙の朗読、専門家の解説等で編まれたテキストのイラストレーション(図示、図解)として、ゴッホの絵を中心とした何らかの映像がかぶさる。ドキュメンタリーとしては王道のつくり方だが、私にはどうしても映画というよりTVの教養番組に見えてしまう。とはいえ、確かに勉強にはなった。ゴッホが描いた(浮世絵の模写ではない)雨の線を初めて見た。
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