映画専門家レビュー一覧

  • MAKI マキ

    • 脚本家

      北里宇一郎

      ニューヨークの日本人高級クラブ。そこで働く女たちをイラン女性が描く。さていかなる映画になるか、興味津津。米国が舞台なのに、出てくるのは同胞ばかり。かの国の人間との絡みはほとんどない。この閉鎖性がいかにも日本人という皮肉はあれど、その描写はどうも薄い。どこか枠からはみ出さぬ筆づかい。この監督、少し遠慮しすぎでは。もっと女たちの内面に入ってほしい、そんなじれったさがあって。翻訳調の台詞。役者たちの演技も堅い。さすが原田美枝子だけは女優の存在感と貫禄が。

  • いろとりどりの親子

      • 批評家、映像作家

        金子遊

        子どもを愛さない親はいない。本作は自閉症、ダウン症、低身長症、同性愛者、殺人犯といった、他人とは異なる特徴をもった子どもとその親に取材している。彼らは一般的には障がい者やマイノリティという言葉で括られがちだが、それを個性として受け入れている親子の姿が印象的だ。低身長症のご夫婦が流産を経験したあと、念願だった子どもに恵まれるシーンは胸を打つ。自分たちと同じ特徴をもっていたらどうするかと悩んだ末、親になることを選ぶその勇気に心を動かされるからだ。

      • 映画評論家

        きさらぎ尚

        映画に登場する6組のとりどりの親子に共通するのは、自分たちとは違う子を持つ親と、親と違いのある子たち。主題の「違い」を受け容れるを私的に白状すれば、言うほど簡単ではない。それだけに映画の中で殺人罪で終身刑の判決が下った息子の母親が言う「それでも子どもを愛することは止められない」が胸に刺さる。登場した親子の勇気を讃えつつ、同時に自分の内なる「違い」を受け容れる度量を自問する。そして省庁の障害者雇用水増し問題が発覚した日本でパラリンピックですか!?

      • 映画系文筆業

        奈々村久生

        いくつかの異なるマイノリティとその親が登場するが、彼らの幼少時代の姿だけでなく、大人になってからをとらえているのが面白い。障がいを抱えた子どもに比べて、彼らのその後の人生を知る機会は、まだまだ少ないと言える。そうした存在にフォーカスを合わせることは重要だ。ただし、マイノリティであることは特権ではない。マイノリティとして生きる「幸せ」は、他者から認めてもらうだけでなく、自らがマジョリティを認める覚悟なしには手に入らない。理想は常に危険性と裏表なのだ。

    • おかえり、ブルゴーニュへ

      • 批評家、映像作家

        金子遊

        ブルゴーニュ地方の葡萄畑における四季をとらえた映像が美しい。その風景のなかで、家族経営のワイン農家を継ぐ兄、姉、弟の人間模様がじっくりと描かれる。兄が10年ぶりに帰郷して3人が一緒に畑を歩く場面、父が亡くなったあと弁護士に会って話しあう場面では、演出家はフレームの中心に3人を平等に並べる。次第に跡つぎが真ん中の妹に決まってくると、畑で働く彼女を中心に置き、他の兄弟より大きめのサイズでとらえる。映像設計が見事に物語を補佐する、職人技も味わい深い。

      • 映画評論家

        きさらぎ尚

        都会の、必ずしもスマートでない人を温かなまなざしで描くクラピッシュが初めて田舎を舞台にしていると聞き興味津々。登場人物の年齢がこれまでより上がったが、彼らがままならない人生を生きているのは相変わらずで、従来の作風は健在。兄妹三人が、兄妹ゆえに胸の内に抱え込んでいる問題をお互いが口にできない。その機微を飾らずに描く素直なドラマに熟達した職人技をみる。ほとんどを葡萄畑で自然撮影したそうだが、風景込みでワイン作りの過程を取り込んだエピソードも楽しい。

      • 映画系文筆業

        奈々村久生

        パリからバルセロナ、NYへと自作の舞台を旅してきたクラピッシュがフランスに帰還。しかも田舎というのが新鮮だ。だがヒロインのアナ・ジラルドは「猫が行方不明」のギャランス・クラヴェルにどことなく風貌が似ており、弟役のフランソワ・シヴィルもクラピッシュ組の常連であったロマン・デュリスの雰囲気を彷彿とさせる。主人公のジャンはかつてデュリスが演じた「グザヴィエ」の延長上と思われクラピッシュ印は健在。今後このキャラが果たして人生に落ち着くのかも気になるところ。

    • A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー

      • 翻訳家

        篠儀直子

        無声映画のヒロインのようなルーニー・マーラが、何やら重い荷物を画面手前に引きずってくる、開巻間もないロングショットからしてもうよすぎる。光のきらめき、窓に散る雪、つねに気配が立ちこめている画面。テレンス・マリックに通じる世界だが、途中、まるで予想していなかった想像力の飛躍があって、思いがけない境地にまで連れて行かれる。「セインツ」の音楽も素晴らしかったダニエル・ハートが、この繊細な物語には大げさすぎるような音楽を、あえてつけているのもとてもいい。

      • 映画監督

        内藤誠

        ケイシー・アフレックが自動車事故で愛妻ルーニー・マーラを残して死ぬ。マーラが遺体にシーツを被せて立ち去った瞬間、シーツが突然に立ち上がり、あけられた穴から目をのぞかせて動き出す。一見、クー・クラックス・クランのようなゴーストだが、誰もその姿は見えず、ゴーストの方は妻と暮らした家に戻って、この世にある人々を見守っていく。以下、いろんなエピソードが展開していくわけだが、日本の幽霊のように怖くはなく、むしろファンタジー映画として見るべきかもしれない。

      • ライター

        平田裕介

        レゴ・ブロックの人形や『オバケのQ太郎』のQちゃんでお馴染みである、目の部分がくり抜かれた大きな布を被ったタイプの幽霊を大真面目でチョイス。なんだかバカにされているようで軽く頭にきてしまうものの、この可愛らしくて滑稽なルックスが同じ場所から離れられずに数百年も佇み続ける切なさをかえって浮き彫りにして胸が締め付けられそうに。ファンタスティックな物語にほぼ正方形で四隅がカーブした画角が相まって、えらく雰囲気の良い絵本を読んでいるような気にはなる。

    • 母さんがどんなに僕を嫌いでも

      • 評論家

        上野昻志

        吉田羊の母さんが怖い。まあ、それだけ、彼女は、精神的に問題のある母親役を良くやっているということなのだが、にしても、ぽっちゃりと愛嬌のある小山春朋に怒りをぶつけるシーンはきつい。こんな母親のもとに育った子はどうなるんだろうと思うが、それを太賀が演じているのが、映画にとって良かった。防御的な薄笑いに、この青年の屈折した内面を窺わせながら、太賀の地の明るさが、深刻になりがちな物語をからっとさせる。金持ちの友だちをはじめ、良すぎる仲間が、やや物足りないが。

      • 映画評論家

        上島春彦

        御法川監督の映画では、主人公が作り、操作する仕掛け、物象に主人公自身めいっぱい翻弄されながら究極的にはそれに救われる。それが世界のこんがらがったシステムを救う方策でもある。「二郎」にとっての「マメシバ一郎」や「泣き虫ピエロ」の「ジャグリング」がそうだ。「人生、いろどり」の「葉っぱ」も。ここでは主人公がたまたま参加することになった舞台ミュージカルの存在がそれに当たる。嫌な話でも鑑賞後ポジティブな印象が得られるのは「泣かせるための」映画じゃないからだ。

      • 映画評論家

        吉田伊知郎

        親の仕打ちで惨死する子どもが後を絶たない時代に何と古めかしい話か。虐待に耐えかねて家を飛び出した息子が母への思い絶ち難く再会し、何を言われようが食らいついていく。子は親を選べないのだから親を理解して大切にしろというカビの生えた修身的な教えでしかなく、つか芝居とまでは言わないがマゾヒスティックな母子物語にもならず、「愛を乞うひと」より遥かに後退している。今年は映画で際立つ吉田羊が引き続き好演し、熱演になりすぎずに嫌な後味を残さないのが唯一の救い。

    • ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ

      • 翻訳家

        篠儀直子

        ヴィルヌーヴの「ボーダーライン」は、暴力と絶望の彼岸にある祈りにも似た美しさがわたしはとても好きだったのだけど、続篇にあたる本作は、アクションスリラーとして普通に楽しめる作品。とはいえテイラー・シェリダンイズムは健在だし、前作の映像美を引き継ごうとしているかのようなショットもいくつか。デル・トロもブローリンもI・モナーも魅力的だが、音楽の付け方にやや納得いかないのと、演出部の不注意だとそしりたくなる箇所がいくつか見られたのとで、星の数は抑えめ。

      • 映画監督

        内藤誠

        メキシコ麻薬戦争を素材としていて、監督は違うけれど、製作・脚本を同じくする前作「ボーダーライン」や、ドキュメンタリーの「カルテル・ランド」とともに、この作品も見応え充分。トランプ大統領が今も解決できない問題なので、いろいろなアプローチもできる。CIAのジョシュ・ブローリンがカルテル一掃を目的に屈折した過去をもつコロンビア人の元検察官デル・トロを雇ったので、話が複雑になる。兵士としての任務より私的人間関係を選び、国境をさまようデル・トロに感情移入。

      • ライター

        平田裕介

        冷酷非情なデル・トロとJ・ブローリンが主人公にシフト。さらに麻薬戦争の渦中に飛び込むのではなく、新たに戦争を勃発させる物語となっているので、前作のような深淵を覗いてしまった恐怖も衝撃もドラマ性も薄くなっている。かといってバイオレンスだけに徹してはおらず、暗黒版「ペーパー・ムーン」と呼びたくなるデル・トロとカルテル首領の娘との殺伐としながらも意外と染みる国境越えの模様を用意していたりする。中東系テロがメキシコからアメリカ入りするアイデアは新鮮。

    • 鈴木家の嘘

      • 評論家

        上野昻志

        身内に自死された家族は,何故という苦悩に満ちた問いを抱え込む。たとえば娘は、自分の心ない一言が兄を死に追いやったのではないか、と。それは、新体操の練習をしている時にも彼女を襲う。また、父は、生前の息子の想いを探ろうと、その内実も知らずにソープランドを訪れる。その行動は真剣であるがゆえに滑稽でもある。まして、記憶喪失の母に愛する息子は生きていると信じ込ませる演技により、彼らの日常は二重化し、懊悩は深まる。それを台所を中心に描いた野尻克己監督に拍手!

      • 映画評論家

        上島春彦

        嘘がバレる段取りにムチャがあるものの喜劇的なシチュエーション込みで展開される家族の悲劇に圧倒される。オリジナル脚本っていいな、と思わせてくれる一本でもある。特に、長男の自殺直後の現場に、異なる登場人物の主観で何回か時間が戻る構成がスリリング。父親は現場を見ていないが、彼の車の窓ガラスが割れているのがポイント。彼は彼で厳しい役回りを演じていたことがやがて判明する。主人公少女の長い独白もテンション高く、堂々たる主演ぶりは「菊とギロチン」に匹敵する。

      • 映画評論家

        吉田伊知郎

        ベテラン助監督の監督デビュー作だけあって狭い日本の家屋も巧みに活用し、息子の自死を母が発見する冒頭から目を引く。便利屋的な使われ方が多かった原日出子にじっくりと芝居させ、新人も交えた配役の妙が成功している。シリアスな場面は演出の上手さを感じさせるが、喜劇的な場面はもたつく。母のために息子の死を隠す嘘が過剰化していく必然に欠け、やむにやまれず嘘を重ねている必然が薄い。嘘が露呈するくだりもかなり無理があり、段取り的な行動になってしまうのが興醒め。

    • 人魚の眠る家

      • 映画評論家

        北川れい子

        さすが堤監督、いつか起こるかもしれない奇跡に取り憑かれた母親・篠原涼子をメインにして話を引っ張り最後まで飽きさせない。最先端のIT技術によって“脳死”のまま、成長を続ける娘の身体。IT技術は現代の錬金術に近いものがあるから、この少女はいわば現代のフランケンシュタインと言えなくもないが、この映画では逆に母親が怪物化してゆき、その愛と欲とエゴのエスカレートもスリリング。ラストの少年のエピソードもワルくないが、IT技術の後遺症については……考えすぎ?

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