映画専門家レビュー一覧

  • くるみ割り人形と秘密の王国

    • 映画監督

      内藤誠

      可愛い主人公クララ(マッケンジー・フォイ好演)が科学と機械が大好きな少女だという話なので、全篇、カラクリと仕掛けが楽しめる作品。オモチャの兵隊やネズミの大群の動きも面白い。ラッセ・ハルストレムとジョー・ジョンストンの演出はキーラ・ナイトレイやモーガン・フリーマン、ヘレン・ミレンそれぞれに見せ場を作って、贅沢な感じを与える。音楽は「ファンタジア」以来の伝統を受け継ぎ、劇中で挿入される舞台の踊りもみごとでディズニー映画のよさを発揮しているとおもった。

    • ライター

      平田裕介

      大方の部分をラッセ・ハルストレムが手掛けるも、撮影の終盤をジョー・ジョンストンが引き継いで完成。なにやらトラブルがあったかどうかは我々の与り知らぬところだが、なんだか投げやりな雰囲気が全篇を覆っているのは確か。物語のフックになるはずである、ヒロインの亡き母が想像した王国、その摂政たちとの関わりなどがボンヤリとしか語られないので、クライマックスもさして盛り上がらず。マッケンジー・フォイの嘘みたいな美貌とスチーム・パンク風な王国の風景には見入った。

  • ヘレディタリー/継承

    • 翻訳家

      篠儀直子

      屋敷のなかで怪現象が続発するホラー映画かと思ったら、家族の心理のもつれを覗きこむかのような、これまたサイコスリラーの趣き。終盤の展開をどう見るかで評価が分かれそうだが、何が事実かわからなくなっていく中盤の展開が面白く、ドールハウスのイメージが強調されるのも、エンドロールにあの曲が流れるのも、たぶんそういうことなのだろう。どの画面にも異様な吸引力があり、奥行きを強調した構図の魅力を生かすべく、(シネスコではなく)ビスタの画面を選択しているのも賢明。

    • 映画監督

      内藤誠

      ハリウッドのジャンル映画かと思って見ていると、新人監督アリ・アスターのホラーの語りくちは調子がちがう。美術デザインはデリケートにできているのだけれど、カメラの位置が不安定で落ち着かない。それは、崩壊していく家族の気持ちを表現するのにはマッチしているので、不幸な家族を描く私小説の映画化だと考えたほうがいいかもしれない。監督自身、自分の一家の出来事をホラーに仕立てたと言っているのだから、その狙いが作品内容を分裂させて、混乱を招いたのかもしれない。

    • ライター

      平田裕介

      家族を襲った悲劇を再現したミニチュアとドール・ハウス、街で擦れ違ったら思わず振り返ってしまいそうな娘役ミリー・シャピロの独特すぎる風貌、なんだか虫唾の走る音楽と、ストーリーうんぬんの前にそちらに震えてしまうタイプのホラー。雰囲気だけと言ってしまえばそれまでだが、イヤ~な感じは観終わった後もしばらく抜けない。だが、最も刺さったのは、ある事件を契機に壊れていく家族の姿だったりする。顔など合わせたくないのに離れられない、家族のしがらみが辛くて怖い。

  • かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発

    • 評論家

      上野昻志

      これを見て、肥薩おれんじ鉄道に乗りたくなった。同監督の『旅立ちの島唄~十五の春』も良かったが、それを超えている。義父のもとに、亡夫の連れ子と共に訪れた晶(有村架純)が、どこか気負い込んだ様子なのが気になったが、それが、彼女が留守電で伝えた夫の死を義父が聞いていなかったためと明かす演出をはじめ、子ども(帰山竜成)の「親」たろうとする晶の想いが、子どもの想いとずれるとこころなども、感情の流れが自然に描かれている。晶の迷いを寡黙に受け止める國村隼の義父もいい。

    • 映画評論家

      上島春彦

      このシリーズ、思いがけないローカル線が舞台になるのが何よりうれしい。今回は肥薩おれんじ鉄道、絶景観光や食堂列車など攻めの姿勢が見られる路線である。我が故郷、秘境駅の宝庫飯田線をつい思い出してしまう。見方によっては愚劣きわまりない半成人式というイヴェントを、地元に配慮しつつもきっちり愚劣なものとして描いてくれたので星を足した。やるな、監督。家族になるのも楽じゃないというありがちなコンセプトを「主人公三人が赤の他人」の極限状況にしたのも成功の要因。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      女性運転士の設定とロケ地が先行したであろうことは作劇に無理が生じていることからも窺える(殊に半成人式という無神経な儀式への異議申し立ては良いが、有村の突飛な行動に疑問が残る)。しかし、「旅立ちの島唄」で才気を感じさせた吉田康弘だけあって叙情性豊かな演出で鉄道と有村を輝かせる。義理の息子を引き取った未亡人が運転士になって働かざるを得なくなる不自由をまとう女性の物語だが、有村の柔らかな雰囲気が悲壮感をかき消し、運転する姿は寓話的な魅力も醸し出す。

  • Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男

    • 翻訳家

      篠儀直子

      どの部分がメインタイトルなのかわからない日本語題名が足を引っぱらなければいいが、作品自体は、クリスマス映画の定番に仲間入りしそうな粋な出来映え。派手な視覚効果に頼らず現実と非現実を混在させる演出が、シンプルでとてもスマート。役に恵まれていない感のあったD・スティーヴンスが、文壇の若きスーパースター役にぴたりとはまり、プラマーがスクルージをユーモアをもって演じているのもいい。しかしわれわれの世界は、19世紀ロンドンへと逆戻りしているのではあるまいか。

    • 映画監督

      内藤誠

      「クリスマス・キャロル」の誕生秘話だが、佳作「赤毛のアン」の脚本家スーザン・コインの書いた、現実と幻想が入り混じる構成がいい。岩波文庫『炉辺のこほろぎ』の本多顕彰の序文では、ディケンズは俳優志望で人前での朗読が大好きな人間だということだから、ダン・スティーヴンスのオーバーでやる気満々の演技もぴったりだろう。金銭の感覚がいいかげんな現実の父ジョン(ジョナサン・プライス)と物語上の人物スクルージ(クリストファー・プラマー)との微妙な関係もいい。

    • ライター

      平田裕介

      幽霊たちの導きにより、ひねくれまくった自己を見つめ直す『クリスマス・キャロル』の主人公スクルージ。原作者のディケンズ自身が、同作のようにスクルージとの対面を経てあれこれ逡巡するというメタ的なプロットはユニークだと思う。だが、呑気にも程がある父親と彼のせいで味わった苦労の辛さはなんだか表面的に描かれている。そして、そのわりにスクルージとの対峙は「スター・ウォーズ」におけるダース・ベイダーとルークのように大袈裟にするのでなんだかチグハグしてしまう。

  • マダムのおかしな晩餐会

    • 批評家、映像作家

      金子遊

      アメリカ人の知人を見ていると、すぐに骨董や古美術など古いものに心がときめいて、散財しがちだ。歴史の浅い国の人たちの性か。本作でパリに移住したブルジョワの夫婦も、富裕さは格段上だが、巨匠の絵画や年代物のインテリアに囲まれてご満悦そうだ。だが、米欧の金持ちが集まる晩餐会のシーンでは、ドロドロした奸計や不倫への誘惑、貴族への憧れや移民への蔑視が錯綜して、ヨーロッパの美術を自己のステータスとしてしか使わない、彼らの浅薄さを笑うための装置になっている。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      手違いに端を発したドタバタ喜劇だが、登場人物が出揃うと、あとはお定まりのパターンで展開し、話が見えてしまう。メイドをはじめ、主人夫妻など達者な役者を揃えているだけに、この不発は残念。ストーリーよりもむしろ、夫妻の邸宅になった贋造博物館などのビジュアルが目を楽しませてくれる。この富豪のアメリカ人夫妻は、憧れのパリに越してきたという設定なので、衣裳からインテリア、晩餐会の食器など、金ピカのゴージャスさがいかにもの雰囲気を作っていた点は評価できる。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      日本に比べて欧米では階級社会を意識する局面がはるかに多いであろうことは想像に難くない。それが歴史でもある。ただ、その事実を露骨に示されるとやはり複雑だ。21世紀にもなって……という見解は劇中でメイドに惚れた紳士も口にしているが、だからといって理想論と現実は違う。コメディだからこそ余計に苦い。このドラマを他人事と思うなかれ、女子のスクールカーストに当てはめれば日本でもそのまま成立する。あなたは私の親友よ(ただし私より前に出ない限りは)というやつだ。

  • 斬、

    • 評論家

      上野昻志

      最近は、時代劇といえば、コミックに時代衣裳を着せただけのものか、黒澤映画の稀薄な後追いのようなものしかないなかで、本作は、シンプルな物語構造のなかに、時代劇の根幹にありつつ、かつて誰も問うたことのない刀というものの存在論を顕在化させると同時に、それを通して現代における武器の問題性にも踏み込んでいるのだ。しかも、池松壮亮と蒼井優などのベテランはもとより、新人の前田隆成からも、最良の表情を引き出して。むろん俳優・塚本晋也も渋くていいのだが。

    • 映画評論家

      上島春彦

      塚本はあくまで個的な切迫を突き詰めた果てに出現する時代状況全体を描く時に才能を発揮する。ここでは幕末のド田舎にあってほんの数日、都への出発が延びたそれだけのことで世界が変わってしまった数人の男女が主人公。優れた密室劇になりそうな話だが、クライマックスからラストへ、突然大自然が世界の困難そのもののように立ちはだかる、この転調が素晴らしい。「野火」もこんな感じだったな。塚本扮する武士は野卑さも多少あって適役だが池松の方は上品、ノーブル過ぎないかな。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      鉄の生成から始まる鉄男ならぬ刀男の物語は、「野火」の銃から刀へと遡り、戦争の根源に目を向ける。刀を人に振り降ろすことで肉体が裂けて苦悶を与え、死が急速に接近してくる瞬間を塚本映画らしい造形で映し出し、自然と刀の間に置かれた人の虚無的な存在が描かれる。テーマが先走りせず、塚本時代劇への期待は充分満たされるが、次なる時代劇も観たくなる。「七人の侍」の勘兵衛を思わせる役者塚本の存在感は「シン・ゴジラ」といい、今や志村喬の後継者と言わねばなるまい。

  • ハード・コア(2018)

    • 映画評論家

      北川れい子

      松たか子を平然と“前座”扱いする冒頭シーンから煙に巻かれる。そしてどこか、昭和男の無骨さと律義さが漂う右近役の山田孝之。かなりぶっ飛んだ設定のぶっ飛んだハナシだが、暴力と背中合わせのゆるい笑いや、疎外感に裏打ちされた友情はかなりこちらの心を揺さぶり、その真面目なフマジメさ、実に面白い。右近と、女装癖のある牛山(荒川良々)の前に現れるサビたロボットも愛嬌たっぷり、彼らのお助けマンとして大活躍。左近・佐藤健もクール。原作、監督、脚本も文句なし!!

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      狩撫麻礼がいろいろ難しく考えてたことをいましろたかしが脱臼させたものを向井康介と山下敦弘がまた脱臼させつつ骨接ぎした。川本三郎原作「マイ・バック・ページ」のときのように彼らに対して原作者はそれが媚びてるわけでもない今の時代の表現なら認めるよというだろう……たぶん。佐藤健は本作でかつてなく大人になった。あと、「迷走王 ボーダー」のように便所を直した部屋に住んでいた知人や一水会事務局でバイトしてた頃の自分を思い出した。この男たち(女たち)は実在する。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      世の中の間違いに対して「間違っている」と言える人間は、世間から不器用とされ、やがて社会からはみ出してゆく。そういう意味で、本作の“物言わぬ”ロボットと荒川良々の姿は、逆説的に社会の中に馴染んでいるといえる。問題を起こすのは“物言う”兄弟の方であり、この二組が血縁と血縁のない二組に分かれる点が真骨頂。これまでも山下敦弘監督は、社会からはみ出した人々への偏愛を描いてきたが、本作でも“はみ出した側”へ寄り添っている点で原作との相性の良さが表れている。

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