映画専門家レビュー一覧

  • 1941 モスクワ攻防戦80年目の真実

    • 文筆家/女優

      睡蓮みどり

      本作に限らず、年々戦争映画を見るのが辛い。特にこの作品がリアリティに溢れており尚且つエモーショナルに満ちているからなのか、それとも戦争そのものがフィクションだと思えなくなってきているからなのか。たくさんの若い人たちが一瞬のうちに死んでゆく。そのことが本当に耐えがたいのだ。戦いのシーンだけでなく、メインの人物たちの友情と恋愛も見せ場としてしっかり描かれていて、クラシックな作りながらも決して飽きさせることはない。力作であることは間違いないのだが。

    • 映画批評家、東京都立大助教

      須藤健太郎

      スペクタクルというのは本来それだけで成り立つようだ。スペクタクルは作劇を必要とせず、何に依ってたつこともない。とにかく爆発の大きな戦闘シーンを何度も繰り返していればそれでよく、毎回いかにもクライマックス然とした終わりを見せても、またもう一度同じことを初めからやればいいのだ。ドローンの多用にせよ、スローモーションやトリプルアクションの採用にせよ、感傷への傾斜にせよ、毎回ほとんどワンパターンの繰り返し。これを喜ぶも退屈と思うも人それぞれ、なのか?

  • 囚人ディリ

    • 映画監督/脚本家

      いまおかしんじ

      主人公のディリが強すぎる。リアルに考えたら死んでるだろうと思うところでも、蘇ってくる。これでもかというぐらいエピソードをてんこ盛りにして、力技で描き切る。爽快痛快だ。ところどころユーモアもぶち込んでくる。携帯が古くてなかなか娘の写真がダウンロードできないとことか最高だった。クソリアリズムなんていらない。何があっても、強い信念さえあれば人は生きていける。嘘だけど、全くの嘘とは言えない。そのギリギリで絶妙のバランスを保っていてすげえ良かった。

    • 文筆家/女優

      睡蓮みどり

      警察もので麻薬もののアクションで画面がとにかくあつい。男たちがひたすら戦うシーンと娘に会いたいという執念が交差する。テンポもよいので面白いのだけど、後に残らないタイプの映画。インド映画としては風変りかもしれないが、人情劇とアクション映画を組み合わせることに目新しさは特にないという印象だった。インドの薄暗くて舗装のなされていない道の大変さはかつて訪れたときにひしひしと感じたので、トラックで疾走するシーンの緊張感は特に素晴らしく感じた。

    • 映画批評家、東京都立大助教

      須藤健太郎

      初めから最後までクライマックスの連続といった感じで、つねにハイテンションのまま。デーン、デデデンと音楽が始まると、スローモーションでアクション・シーン。そのあとにちょっとしんみりさせたと思ったら、またデーン、デデデンで大乱闘。複数のプロットがあり、基本はクロスカッティングで交錯させていくのが大まかな構成ではあるが、サスペンスを生み出す気はない。すべてが派手なアクションとお涙頂戴を繰り返すべく用意されているのだ。ナイフで死なない人もいる。

  • 梅切らぬバカ

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      不動産用語だと、本作で隣家が引っ越してきた土地は旗竿地。渡辺いっけい演じる世帯主はかなり格安でこの物件を入手したはずで、そもそも文句を言えた義理ではない──というのはまったくの余談だが、その淡々とした語り口に比して、本作に込められた現代社会への問いかけは、観客を傍観者のままではいさせない凄みがある。さすが、加賀まりこが久々の主演作として選んだ作品だ。一方、塚地武雅は芸達者だが、この役はどうしたって「裸の大将」が頭をよぎる。タイプキャストの難しさ。

    • 映画評論家

      北川れい子

      しっかり者の母親と50歳になる自閉症の息子の日常に、世間の誤解や偏見を絡めたヒューマンドラマで、決して大袈裟な話ではない。けれどもどうも釈然としない。母子の住む一軒家の庭の梅の木は路上にまで伸びていて、越して来たばかりの隣家の夫はいい迷惑だと思っている。おいおい、その家を買う前に下見はしなかったの? 周辺の人々にしても長年そこに住んでいる母子のことは知っているはずなのに、意地悪をしたり。こういう描写がせっかくの母子の話を通俗化して凡庸に。

    • 映画文筆系フリーライター

      千浦僚

      伊勢真一監督のドキュメンタリー諸作、また、杉本信昭監督「自転車でいこう」、青柳拓監督「ひいくんのあるく町」などのドキュメンタリーを連想するが、和島香太郎監督は自身が関わったドキュメンタリーでこぼれ落ちた部分を劇映画にしたとのこと。なるほど。たしかに実在する人と場はザラッとすることを外したうえで見せられる気がする。そこが本作の見甲斐だ。タイトルが秀逸。不勉強ゆえ初めて知った。省かれた前半の、桜切るバカ、と合わせて含蓄のある言葉だと。

  • 恋する寄生虫

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      ストーリーや台詞の稚拙さや幼稚さは「ラノベ」に分類される原作由来のものなのだろうが、もちろん本作の責任はその映画化企画を立ち上げた製作サイドにある。20代半ばになっても延々と女子高生を演じ続けている小松菜奈の不遇にも、現在の国内ティーンムービーの作り手たちの怠慢さが凝縮されている。唐突な豊島園やヴィーナスフォートのロケーションは、失われゆく東京の風景を映像として残しておきたいということなのか。でも、肝心の作品が観客の記憶に残らなくては意味がない。

    • 映画評論家

      北川れい子

      孤独に心の傷、不登校に厭世観といったテーマは、現代の青春映画の定番のひとつになっているが、病的なほど潔癖症の青年と、視線恐怖症の女子高生が、第三者が目論んだヤラセとは知らずに出会い、いつしか互いに惹かれ合うという本作、キャラを複雑にしている割には自意識の強い男女のボーイミーツガールものと大差なく、肩すかしもいいところ。どちらの親も自死をしているという設定も作りすぎで、簡単に親たちを死なせるな! 映像が妙に重苦しいのも虚仮脅しの印象を強めている。

    • 映画文筆系フリーライター

      千浦僚

      小松菜奈が現代を代表する三白眼美人女優なのが効いている。視線の強いひとが語る視線恐怖という説得力。林遣都演じる潔癖症の青年の佇まいは、まさにいまのキャラという感じ。嘘か真か一時期ツイッターで多くリツイ&いいねされていたコロナ禍下を象徴するような電車内での若者会話スケッチ、「キスしたかったけどどのタイミングでマスク外すのかわかんなくて」がライトナウに恋しているヤングの防備解除と触れ合いを考えさせる傑作だったように、本作も観るならいまの恋愛譚。

  • 信虎

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      作品のトーン&マナーがあまりにもエクストリームなので面食らった。生まれてこの方NHKの大河ドラマというものを1秒も見たことがないのでよくわからないのだが、そういう特有の番組視聴者へのターゲットマーケティング作品なのだろうか。だとしても、解説字幕の多用、話者を追うだけの退屈なカメラの切り返しと弛緩したズーム、場面転換の合いの手のように入る冗談のような劇伴の使い方、学芸会のような子役の演技など、少なくとも「現在の映画」としての評価は不可能かと。

    • 映画評論家

      北川れい子

      武士たちを前に侍らせた信虎の詮議、戦略、脅しに願望が、武士たちの顔ぶれを変えながら、何度も何度も繰り返えされ、信虎が発する武士の名も誰が誰やら無数に及び、信虎情報にまったく疎いこちらは、ただ画面を眺めるのみ。見て聴いて体感する“新”時代劇、とは本作のキャッチコピーだが、体感するほどこの映画に近付けないのがもどかしい。とはいえ信虎の野心と焦燥感は、演じる寺田農の全身からひしひし。美術や小道具も厚みがあり、ベテラン俳優陣も風格がある。でも私には?

    • 映画文筆系フリーライター

      千浦僚

      相当面白いことが設定とシナリオの上にあるだけに、画面がもう少し陰影に富みグラマラスでゴージャスならばよかったに、と思う。可能性はあった。撮影というより美術の予算、映画の規模がもっと欲しかった。何が面白かったか。ハードなスタントアクションとは違う戦略による殺陣場面。永島敏行の二役。谷村美月が最後に晴れ晴れとして再登場する爽快さ。寺田農の信虎の自己催眠が生死を越えて機能する(E・A・ポー『ヴァルドマアル氏の病症の真相』を思わせる)という奇想。

  • 愛のまなざしを

    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      仲村トオルにとって杉野希妃は自殺した妻から解放してくれる救いなのか。それとも自分が救いたいと思ったのか。観念としては分かるが、具体が分からない。子供と会わないでと言う女、僕なら一発アウトだけど。次第に男も壊れていることが分かるが、そこにすべての理由を求める作劇はダメだと思う。嘘で男を支配する女は冒頭のモラハラ男に支配されるだろうか。こういう不用意な歪さを過剰かつ善意に解釈して評価する人がいるけど、それは映画や作り手にとって幸せなことだろうか。

    • 日本経済新聞編集委員

      古賀重樹

      がらんとしたコンクリート打ちっぱなしの診察室に万田邦敏の世界を感じる。余計なものは何も映っていない。あるのは虚言と幻聴、そして愛憎の渦。平気で嘘をつき、独占欲を募らせ、嫉妬に燃え、目的のために手段を選ばない。そんなアンバランスな女性患者の情念が、孤独な精神科医の心をのみ込み、狂わせていく。愛の実体はなく、すべては妄想。そんな人間の感情だけを見せるという実験を冷たいコンクリートの箱の中でやってみせた万田の若々しさに感服。杉野希妃は最高のはまり役。

    • 映画評論家

      服部香穂里

      万田邦敏監督の作品は、愛の定義を根本から揺るがす。育む経緯を敢えて端折り、愛のみの在りようを問う。医師と患者の俗に言う禁断の愛も、拍子抜けするほど簡単に成就させ、ドラマが本格的に動く。それなりに歴史を刻んだ医師と亡き妻の愛と天秤にかけられる勝算の薄い勝負に、捨て身で挑む患者のひとり相撲の切なさのようなものが、結末まで見届けた後、不意に時間差で押し寄せる。彼女を筆頭に、心を委ねづらい曲者揃いの、身の置き場に困る劇空間も、好みの分かれどころか。

  • アイス・ロード

    • 映画評論家

      上島春彦

      はらはらさせてくれるから是非見てほしい。だが物語の整合性が弱く、星は伸びない。色々な趣向を盛り込みたかったのか、トラックをわざわざ3台にしてかえって不合理なことに。車全部を壊さない限り意味がないのに、悪玉がそれに全く気づいていない。途中で企画に変更を加えたのかも。また犯行動機とその手口がどう考えても不条理である。いっそシンプルな落盤事故にした方が楽しめたはずだ。そして勘のいいひとなら悪玉は現れた瞬間に分かる。犯人探しじゃないから許してあげたい。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      リーアム・ニーソンがPTSDを患ってしまった死する弟の頬を、極寒のなか手袋を外してそっと触れる瞬間だけは印象に残っているが、そんな繊細なエモーショナルさとは対比的に、ツルツルした氷上で人間たちが繰り広げるアクションはいわば滑稽さのようなものと紙一重でもあり、純粋なスリル感に没入しがたい。のちに明らかとなる黒幕の表層的な人物造形と彼らの陰謀も陳腐であり、映像面とプロット面の両軸で決して上出来とは言えない作品に仕上がってしまっているのではないか。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      リーアム・ニーソンがなんだか走ってなんだかジークンドーっぽい技を用いてなんだか事件を解決する近年のシリーズは意外と侮れない力作揃いなので本作にも期待していたところ、事件のきっかけになる場面のCGが初代プレイステーション並みのクオリティーで椅子から転がり落ちそうになった。それでも、クルーゾーやフリードキンに憧れた映画オタクによる、映画作りを楽しみながらも願わくはお客さんも楽しませたいプログラム・ピクチャーなのだと思って観続けたら、若干ほっこり。

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