映画専門家レビュー一覧

  • ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー

    • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

      千浦僚

      またも物語などあってもなくてもいいような彼女らのじゃれ合いとギャグ日常の連打だが、クライマックス前の抒情ではつい彼女らは互いがそれぞれ出血することを止め得ないパートナー同士であることを思わされた。そして伊澤vs丞威戦。このシーンのなかであの体格差ウエート差では本当はこんなことあり得ないぞ、というつまらないリアリズムをぶっ飛ばし忘れさせる語りのうえのツイスト、ものすごい仕掛けがあった。ぜひ観ていただきたい。あのハイキックがポイントだったのか。

  • ロストケア

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      同じ前田哲作品として、実は隣接したテーマを扱っているとも言える「老後の資金がありません!」との作風の違いに面食らったが、それが良いか悪いかは別として(きっと良いことなのだろう)映画としては本作の方が安心して身を委ねることができる。気になったのは、松山ケンイチ演じる介護士周りの最初から裏があるのがバレバレな親切設計すぎる演出で、サスペンス要素を期待していると肩透かしを食らう。とはいえ、長澤まさみともども、メインキャスト2人はさすがの好演。

    • 映画評論家

      北川れい子

      介護が必要な人を42人も殺した介護士・斯波は、ボクがやらなかったら家族が殺していたかも、と平然と検事に言う。要介護人がいる家族の共倒れ状態を、日常的に目の当たりにしてきた介護士による大量殺人。やがて斯波の殺人に至る動機が見えてくるのだが、へヴィで痛い話が、ギリギリのところで娯楽性を保っているのには感心する。斯波役を松山ケンイチが、検事役を長澤まさみが演じていることで、まるでスター映画のように、役の方が二人に従っているからだ。でも見応えあり。

    • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

      千浦僚

      昨年夏までネットメディア記者をしていたが2020年夏にALS患者さんの嘱託殺人が知られ、それを受けて日本維新の会の馬場伸幸と松井一郎が安楽死推進を表明したとき多少その問題に触れた。松井氏には質問する機会もあったがそのとき感じつつ記事にできなかったことは、彼は自分がそういう立場になったら死にまっせと今は思っているらしいこと。最近話題の成田悠輔とかもそうかもしれん。だがそれをリアリティとして他者に敷衍して、人命尊重の線を下げるのは愚かだし、悪だ。

  • 雑魚どもよ、大志を抱け!

    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      自分の中のズルさや臆病さにはいくつになっても慣れない。そういう意味では、この映画で描かれる事象は普遍なのだろう。だからなのか、大人が書いた借り物競走感がどうしても拭えない。相米オマージュの長回し。しかし本当に撮るべきは「台風クラブ」や「夏の庭」のような、本物に見える子供っぽさではなかったか。母の乳癌やヤクザ親父や宗教ママを入れながらも、ドラマに見せないドラマ作りは見事。だが何かが足りない。可もなく不可もない作品は難しい。他の人の評価が聞きたい。

    • 日本経済新聞編集委員

      古賀重樹

      時に傷つきやすく、時に残酷な11?12歳の子供たちの複雑な心理がリアルに描かれている。今でいうハブる(仲間外れにする)とか、ハブられる、という関係は40年前も今もそう変わらない。さらに言えば、子供の社会も大人の社会もたいして変わらない。違うのはそれがどういう具体的な行動として表面化するか。カツアゲを拒んで中学生に呼び出された主人公の意を決した行動を、相米慎二ばりの長回しのカメラでとらえるショットに、足立紳のやむにやまれぬ思いが充満している。

    • 映画評論家

      服部香穂里

      多感な少年期の出逢いと別れの物語も、彼らの前に立ちはだかる謎のトンネルなどの道具立てにも、ジュブナイル映画としての既視感は否めないが、“普通”であることにコンプレックスを抱く主人公が、各々に事情を秘める友人らの家庭を垣間見て、自分がいかに恵まれているかを再確認する過程が、丹念に綴られる。そんなナイーヴな息子の目を見開かせる乳がん闘病中の母親が、臼田あさ美の好演も相まって、足立紳作品の少々露悪的な女性像に連なる、豪快で開けっぴろげな魅力を放つ。

  • 青春弑恋

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      そもそも尺が長すぎるが、それ以上に、中年男性監督が提示するいかにもネット時代の若者のリアルを掬い取りましたと言わんばかりの物語には閉口。親世代に訳知り顔で苦しみを代弁されることほど、当の若者たちにとって迷惑なことはないだろう。また、アート映画然とした演出と撮影にも乗れず。視点人物を入れ替える群像劇の構成を取ることであえて薄っぺらさを狙ったのかもしれないが、現代的な意匠をまぶしてそれっぽく撮れば時代の空気が捉えられるというものではないはずだ。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      見慣れない字面ではあるが、タイトルの「弑恋」という言葉がうまく表しているように、台北で暮らす若者たちのラブストーリーかつサスペンスでもある映画。登場人物それぞれの視点で、若者たちによる殺傷事件が起こるまでの経緯を語り直す本作の構成は、ヘタをすると、なぜ事件が起きたのかという問いが中心になりすぎて、単にパズルのピースを当てはめていくような答え合わせに堕してしまう。しかし、本作はそのピース一つひとつの形、その歪さこそ描くように努めているようだ。

    • 文筆業

      八幡橙

      かのエドワード・ヤンの「恐怖分子」と同じ英題で、同じ台北が舞台の群像劇。確かに、どこか古めかしい空気や、一つの事件を巡って徐々に見えてくる若者たちを結ぶ糸、さらに直截的なところでは少女のかける間違い電話や複数人が出入りする空き部屋というモチーフなど、監督が捧げた“オマージュ”は随所に覗える。ただ、ホン・サンスの「豚が井戸に落ちた日」にも受け継がれた「恐怖分子」の持つ、都会に潜む孤独や不安、不穏なまでのざわめきがもう一つ伝わってこなかった。

  • マッシブ・タレント

    • 映画監督/脚本家

      いまおかしんじ

      ニコラス・ケイジは落ち目のスター。奥さんや娘に煙たがられている。仕事もイマイチ。空回りする大仰な芝居。笑っていいのかよくわからない。島に行って男と出会って、スパイの任務を背負ってから急に話が展開する。どうやって誘拐された女の子を助け出すのか。仲良くなった男を裏切らなきゃいけない葛藤。クスリをキメて街に繰り出す二人がアホすぎて微苦笑してしまう。実人生に、映画みたいな冒険が起こったらどうなるのか。ニコラス・ケイジじゃないと成立しない話だ。

    • 文筆家/俳優

      睡蓮みどり

      こちらも映画作りの物語。その裏に隠された誘拐事件と、家族との愛情の話と、ニコラス・ケイジ演じるニックとハビがともに脚本やアイディアを練りながら友情を深めていくさまが掛け算になり、てんこ盛りな本作。映画完成シーンはやりすぎ感もあるが、そのくらいのハイテンションさが本作の魅力なのだろう。何度も繰り返し見たいタイプの映画ではないが、こんなふうに盛り上がることもやはり映画の醍醐味である。個人的にはもう少し映画好き同士の友情に焦点を当ててほしかった。

    • 映画批評家、都立大助教

      須藤健太郎

      ニコラス・ケイジによるニコラス・ケイジ。いや、ニコラス・ファッキン・ケイジ? 何度も笑ったし、最後まで面白く見たけど、くだらないとは思う。それに、あまり喜びすぎると「この映画を楽しむことのできるおれたち」みたいな仲間意識に回収されてしまいそうで警戒してしまう。調べてみると、ポール・ジアマッティの「コールド・ソウルズ」(09)とかジャン?クロード・ヴァン・ダムの「その男ヴァン・ダム」(08)など、類似の企画はいろいろある。なお、ともに未見である。

  • Single8

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      同時期に公開されている「フェイブルマンズ」と比べるのは酷としても、ほぼ同じモチーフの「SUPER8/スーパーエイト」とはどうしたって比べてしまうわけだが、タイトルにはその日本版とのわりきりもあるのだろうか。漠然とした「映画愛」みたいなものからは一歩踏み込んで、特定のジャンルへの偏愛、自主映画の技術的課題、そして何よりも小中和哉監督の個人史的な青春映画として、焦点の定まった作品にはなっている。しかし、この素朴さを2023年に推せるかというと……。

    • 映画評論家

      北川れい子

      当時の高校生ってこんなに子どもっぽかったの? 1978年。令和の今ならさしずめ中学生、いや小学校の上級生のレベル。「スター・ウォーズ」に夢中になった彼らが、文化祭に向けて、8ミリカメラで宇宙船の映画を撮ろうとする話で、脚本作りの迷走から、外に出ての撮影まで、“映画の映画”ふうに描かれる。必要は発明の母的な工夫や、カメラ屋の大学生の助言もあるが。ま、何かに熱中するのは青春時代の特権だが、映画作りに特化した本作、単純過ぎて、正直、観ていて間が持たない。

    • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

      千浦僚

      自分は75年生まれだが大学の映研に行くとまだギリギリ本作主人公らが使う機器や8ミリ文化は存在した。そう、スーパー8(高い。手間かかる)でなくフジのシングル8だ。本で知る前に体験的にアクションつなぎを発見した。ZC1000が部室にあり、72コマスロー撮影を知った。8ミリで撮る女の子がたとえようもなく美しいことも知ってる。本作主人公や小中和哉氏ほどの才はなくともクローズアップを発明するグリフィスみたいな思いは多くあった8ミリ時代。今はどう?

  • クモとサルの家族

    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      一体何がやりたい映画のか。忍者の擬似家族が老人を助ける。老人は姥捨政策を始めた元殿様で、家族は山に捨てられた老人たちと共闘して殿様を助けようとする。要約すると面白そうだが、登場人物の誰一人として気持ちも行動原理も分からない。これだけの役者たち、何も言わなかったのか。しかも冒頭以外、オールアフレコ。子役4人に至ってはなんとアテレコ。音楽も軽く、何かの効果を狙ってのことなんだろうけど、ただシラけるだけ。子役が可哀想。これは公開するに足る映画だろうか。

    • 日本経済新聞編集委員

      古賀重樹

      忍びの術をつかう優秀な母親が外でバリバリ働いて稼ぎ、気の弱そうな夫が家事と子育てをする。セリフはほとんど現代語で、音楽はジャズ。まるで現代劇のような軽快な時代劇。山中貞雄のように、と言いたいところだが、あの省略の効いたテンポの良さとリズム感はない。姥捨てや戦乱、謀反といった背景まで設定して殺伐とした武家の世を現代社会に重ねるような批判精神があって、その意気やよしだが、いささか消化不良で唐突。そこまでやるならもう少し予算をかけてほしかった。

    • 映画評論家

      服部香穂里

      両親を眼前で殺された孤児や姥捨山に放置された老人らが、信頼できる者同士で身を寄せ合い生きる姿や、派手めに噴出する血しぶきに、一見平和な時代に対する批判的な視点が感じられなくもないが、時代劇としてもアクションとしても、あまりにゆるく中途半端。恐妻家に見えて実はラブラブ夫婦を好相性で演じる徳永と宇野や動作機敏な子役たちに、「インクレディブル・ファミリー」忍者版のような可能性の片鱗も見受けられただけに、もっと緩急をつけるなど高みを目指して欲しかった。

  • 赦し

    • 脚本家、映画監督

      井上淳一

      未成年による殺人事件で量刑が重過ぎると再審公判が行われる。しかし現実では量刑不当の再審請求が認められたケースは皆無。一人殺して懲役20年なんて成人でもあり得ない。ましてや少年法改正前の未成年で。以上を僕は弁護士に確認したが、この映画の作り手は取材した上で嘘をついているのか。それともこれは別の世界線での裁判なのか。人物描写も不明だが、役者は皆頑張っている。ならばなぜ脚本に異を唱えないのか。もっと自己防衛を。世界では「対峙」が作られているときに幼稚過ぎる。

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