映画専門家レビュー一覧

  • ザ・ガンマン

    • 映画ライター

      中西愛子

      ショーン・ペンが本格的アクションに初挑戦。演技派の冠に飽きたのだろうか。彼が演じる主人公は、どういう立ち位置にいるのかわかりづらい男。ペンは私生活で人道活動をしているために、この映画の出演に興味を持ったというのはホントか!?NGOの支援活動って、こんなやたらと銃をぶっ放すヤバい人もやってるの? 過剰に弾ける残忍な描写は、ヴァイオレンス・アクションとしてはハイレベル。が、結局、贖罪や哀しみの物語でもなく、ペンに都合のいいままの能天気な幕切れに呆然。

    • 映画批評

      萩野亮

      主演のショーン・ペンが製作と脚本にも参加しているというから期待しないわけにはいかない。ところがこれがだめなときのピエール・モレルの映画でしかなかった! ショーンの隆々たる筋骨はすごいが、コンゴの内戦と鉱山利権は借景にすぎないし、見せ場のアクションもガッカリの一言。この映画のモレルの演出には空間のおもしろさがまったくない。さしあたりわからないことが二点。①リーアム・ニーソンではなぜいけなかったのか。②ショーン・ペンはどこへ向かっているのか。

  • 不屈の男 アンブロークン

    • 映画・漫画評論家

      小野耕世

      太平洋戦争時に日本軍の捕虜となった米軍兵の実話にもとづく映画で、A・ジョリー監督の日本への配慮が感じられる。漂流中の米兵は「日本人(Japanese)は魚を生で食べるんだ」と話し、捕虜になってから初めてジャップ(Jap)と言う。捕虜収容所の日本人軍曹はRoosevelt大統領を正しくロウズヴェルトと発音する。JOAK(NHK)が捕虜を対米宣伝放送に利用する場面は、恐らく映画に初めて描かれたもので興味深い。日本での撮影は皆無だが、各収容所の雰囲気描写は悪くない。

    • 映画ライター

      中西愛子

      なぜこの映画の日本公開が問題視されてきたのか、観終わってみるとわからない。じわじわと心揺さぶる人間ドラマだ。何よりアンジェリーナ・ジョリーの監督力。俳優監督の域を遥かに超えている。引き出しの多さ。持久力と的確さ。静謐を保ちながら、米兵捕虜の主人公ルイの精神性を積み上げていく演出の細やかさに息を呑む。不屈のルイと、彼を痛めつける渡辺の関係性は、「戦メリ」のセリアズとヨノイのそれに似ていまいか。けれどルイは戦後も生き続けた。この事実が本作の肝だ。

    • 映画批評

      萩野亮

      長距離走者として将来を嘱望された主人公が東京に降り立ったのは、五輪選手としてではなく、戦争捕虜としてだった。この伝記的事実だけでグッとくるのだが、この映画がどこか奇異なのは、全篇におよぶその平板さゆえだろうか。前半部分は異様に長いし、日本人軍曹とのホモエロティックな交感の描写も深くない。疑似的な磔刑に至る受難劇としてもあまりにつつましい。しかし、出来事を特権化しないこのつつましさが、ふしぎにいい。「リベラルなイーストウッド」という語がおもわず浮かぶ。

  • 俳優 亀岡拓次

    • 評論家

      上野昻志

      傑作! 疑う人は2回見るべし。まず当然の前提として、俳優である亀岡拓次という人間のありようが、リアルに描かれていること。さらに、彼に関わる人たち、麻生久美子をはじめ、三田佳子、宇野祥平らが、それぞれの場で生き生きと輝いていること。だが、そこまでなら佳作の域に留まる。本作の凄いところは、そのレベルを超えて、虚と実が不断に入れ替わり、あたかも虚実の曼陀羅図になっていることである。それは、何者かを演じ続ける俳優の業であると同時に、人間の業でもある。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      良い! 私の友人には本作の安田顕演じる亀岡にそっくりの俳優が三人いるが、そういう野郎どもの素敵さがモロに表現されててココロ鷲?みにされた。そしてもっと普遍的な人と世の中も良い捉え方で描く。ミッキーマウシング的な大友良英の音楽からして横浜聡子監督の最もウェルメイドな映画だがその個性は失われてはいない。ヴィットリオ・ストラーロの撮影が面白くカッコイイというのと同じ意味で、撮影鎌苅洋一と照明秋山恵二郎らスタッフは良い仕事をしていた。観られるべき作品。

    • 文筆業

      八幡橙

      横浜聡子監督作で、主演が安田顕。彼が演じる亀岡拓次は日々映画の現場を飛び回る“最強の脇役”俳優……ということで、鑑賞前から期待値が上がり切っていたせいか、「もう少し面白くなり得たのでは」という思いが拭えず。役に入っている時だけイキイキして、素の時間はぼーっと腑抜けている、という俳優像は理解できるが、ならばもうちょっと振り切った演技バカ、あるいは映画バカとして描いてもよかったのでは。ダメ男の最強ミューズとして夢を与え続ける麻生久美子が、今回もいい。

  • 残穢 ざんえ 住んではいけない部屋

    • 映画評論家

      上島春彦

      星が増えたのは、私が雑誌『幽』の大ファンだから。原作者の夫婦作家に加え、平山氏、福澤氏っぽいキャラまで現れて「まいりました」と言うしかない。手法としては投稿実話怪談を模した古典的スタイル。エピソードがエピソードを呼ぶ「呪怨」風、あるいは「フィッシュストーリー」風とでも。生き埋め炭鉱夫の怨みを描いて、亀井文夫のある作品に通ずるところもある。呪いが感染する日本近代史。ただ主演の橋本愛が死ぬほど怖い目に遭うわけじゃない、これが不思議。ほどほどなんだね。

    • 映画評論家

      北川れい子

      ノンフィクション仕立ての小野不由美の原作は、奇妙な現象が繰り返し起こる場所や空間を、過去にまで遡って克明に追求していたが、正直、あくまでも活字による怪談話、読んでいて怖くなることは全くなかった。それだけに怨念や因縁もからむ原作をどう映画化するか期待したのだが、“音”と何者かの“動き”の見せ方は成功しているものの、超常現象を謎解きしたりの理詰めの部分が凡庸で、得体の知れない恐怖だけでグイグイ押してほしかった。で、思った。一番怖いのはやっぱり、人間。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      因縁の連鎖は戦前旧家の奥山家一家皆殺しという横溝的な世界にまで至るが、その長い時間と闇を取材対象者から丹念に聞き取る過程を中村義洋が撮ることで凡百の怪談映画と一線を画する。何せ『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズの監督だけに近年の作品には首を傾げることも多かったが原点回帰である。橋本愛のごく普通な女子大生ぶりや、「はやぶさ」と同じく眼鏡をかけると異様に地味になる竹内結子も本作には相応しい。因縁と言えばこの会社が配給で「奥山怪談」とはね……。

  • 蜃気楼の舟

    • 映画評論家

      上島春彦

      アントニオーニかタルコフスキーか、という映像美は文句なし。空気の流れを感じさせるモノクロ場面も効果的。テーマは「父と息子」の奇妙な再会。いわば「放蕩息子の帰還」のパロディをやっていて、この旧約聖書的な物語の強度は普遍的なものだ。親父のラスト・パフォーマンスもいかにも前衛舞踏家っぽくて良い。でも無駄が多いね。女が無駄。ブルジョワ青年も無駄。無駄と言っちゃいかんのか、つまり効いてない。息子にとって親父が何だったのか、あまりよく分からなかったのが残念だ。

    • 映画評論家

      北川れい子

      暗い水面に浮かぶ無人の小さなボロ舟。心象風景としてはありがちで、既視感を覚える。それを言えば、強風の効果音や、砂浜に無言で立ちすくむ男たちの映像も、以前にどこかで観た記憶があり、ストイックに、シンプルに虚無や孤絶感を描こうとすると、描写が似てくるのか。いや逆に、伝わり過ぎるから既視感を覚えたのかも。ともあれ、“囲い屋”をしている主人公の心理を台詞や説明抜き、映像で描出しようとする竹馬監督の意図は頼もしく、いささか通俗的な肉親幻想も救いになっている。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      東京と近郊の地方都市を結ぶ視点は「NINIFUNI」の脚本家らしく冷徹。若者たちがホームレスから生活保護を巻き上げるために用意した小屋という社会の縮図のような空虚な空間が素晴らしい。何が起きるわけでもないが、ガイラの息子こと小水たいがや大久保鷹(往年の若松プロみたいな並びだが)の存在感が惹きつける。さらに後半になると〈動き始める〉田中泯が絵画の如き風景の廃墟・砂丘に拮抗しようとする。人と空間、人と風景を見事に対比させた佐々木靖之の撮影が凄い。

  • 猫なんかよんでもこない。

    • 映画評論家

      上島春彦

      猫の映画は難しい(演出が)。呼んでも来ないから。でも健闘している、この映画。イントロを経て、猫と人のサヴァイヴァル戦略みたいになる展開が秀逸。わざわざ木の枝で釣りをしている。そのおかげで猫の飼い方という実際的な側面を、元ボクサーの人生修業の物語に無理なく合体させるのに成功した。風間の年齢不詳みたいな存在感も最適だ。私は猫派で星を足したが、逆に猫嫌いにどう映るか知りたいところ。一部で有名なシタビラメの猫缶が出てくるあたりも可笑しいね。猫好き必見作。

    • 映画評論家

      北川れい子

      猫を動く小道具にした甘ちゃん男子の日常的迷走スケッチ。迷走といっても猫を追っかけたり、オモチャにしたりする程度なのだが、それにしても主人公男子の面白味の無さにはアキレた。ボクサーの夢を断たれ、無為な日々を過ごしているという設定だが、生活感のないガランとした室内からして無個性で、これで猫たちが画面をウロチョロしなかったらとてもじゃないが間が持たん。猫がらみのエピソードも実にいいかげん。ま、猫に安易な癒しを求めないところと、タイトルにはナットクしたが。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      猫さえ映しておけば事足りると思っているような映画と違い、猫寄りながら主人公の挫折と再起を語る姿勢は好感。子猫から成猫になっているので、それなりの歳月が過ぎているはずだが、バイトのようなことをして飢えをしのいでいるが家賃も食も深刻な問題にならない〈楽しき極貧生活〉。貧困が主人公の再起や猫の病気と結びつかないので、やはり猫を愛でるのが主になる。それで良いと思うか、食費捻出にも四苦八苦して猫に当たり散らすようなリアルを見たいか。私は後者が見たい。

  • ドリーム ホーム 99%を操る男たち

    • 映画監督、映画評論

      筒井武文

      これは、ナデリが加わった脚本がとにかく素晴らしい。裁判所までグルになったアメリカ資本主義システム批判の一作。家を差し押さえになる一家の家長が、不動産ブローカーに認められ、差し押さえ側に回る逆転の構図が効いている。ローンが破綻した家の玄関の扉が次々開き、主人の顔が次々現れる衝撃的なモンタージュ。惜しむらくは、演出が直球に過ぎ、中盤で結末が何となく見えてしまう。とはいえ、主人公が手に入れたプール付きの邸宅のがらんとした空虚さがすべてを物語る。

    • 映画監督

      内藤誠

      幌馬車で西部へ向かった時代は昔のことで、現代のアメリカ人は定住意識が強く、それがストレスになる。主人公もようやく手にいれた家屋がリーマンショックのためにローンが払えず、手放さなければならなくなり、発狂寸前の状態。不動産屋が警官とマイホームの追い出しにかかる場面は実にリアルでイヤな光景だ。不動産屋を演じるアンドリュー・ガーフィールドの憎々しい悪役ぶりが作品を一気にサスペンス・ホラーにする。目の前の利益を求め、カルチャーのない人間ばかりの登場が苦痛。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      いきなり訪ねてきた不動産ブローカーに差し押さえの事実を告げられ、彼らの見張る中で家財道具をまとめて我が家を追い出される。これは思った以上に暴力的な絵面だった。このシーンを含め、全体的に手持ちっぽい揺れのあるカメラワークが多用されており、ドキュメンタリー的な生々しさが漂う。ただの箱である家が家族や夢の象徴となった瞬間に人を狂わせる。アンドリュー・ガーフィールドの残念なイケメン感と、マイケル・シャノンの迫力ある顔面が巧みに生かされている。

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